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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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「はい、お届け物です」

青年が持っていた袋から手紙を取り出して、目の前の少し年老いた女性に手渡す。

「ありがとねぇ。モレクに行った息子からかい。うれしいねぇ」

「それじゃあ。失礼します」

青年を促して次の家へと向かう二人。


「これで5件目か~。まだ結構あるんだけど、どれだけあるの?」

「配達ですからね。数多くこなさないと稼ぎになりません。頑張ってください。タカヒロさん」

配達のため、配達先の家々を回っているのはリベルテとタカヒロだった。

レッドが毒煙を吸って手足に痺れが残っているとして、自宅療養している。

その代わりにタカヒロが荷物持ちとして連れてこられているのである。

配達といっても全部が全部、手紙というわけではない。


そもそも、各家に配達するというのは各町や村を回る商会の馬車に、どこそこの誰に届けて欲しいと多少のお金で依頼する人たちがいるからである。

行先のついでで済むちょっとした作業であり、断るより受けたほうが印象が良くなる為、ほとんどの商会が受けるようにしている。

だが、個別に渡して回ったり、相手を探すというのは手間である。

だから、王都や支店などがある町に着いたら、受け取った手紙等は商会ギルドに運び込み、ひとまとめにしてから冒険者に配達の依頼を出すようになったのだ。


冒険者に依頼料を払う分、損をしているように思われるが、商会の者たちにとっては人手や時間を本来の仕事ではないものに取られるより安上がりだと考えられている。

先に言ったように、届け先を個別に回るのは手間であり、小銭で請けたそんな作業をしている暇があれば商談に動きたいのが本音なのだ。

さすがにいつまでに届けるというような日にちを指定する内容では請け負うことはないため、商会ギルドで取りまとめ、まとめてから冒険者に依頼を出すことで依頼費を抑えるようにしているのは、さすが商人たちである。

さすがに数が多い時は配達する地域で依頼を分割して出すようにしてくれているので、冒険者たちにとってもありがたい仕事となっている。


レッドが動けない設定で家に居るとはいえ、レッドは出かけることも出来ない。

そのため、リベルテたちは家を長く空けるわけにもいかなかった。

王都内で済む仕事、または王都近くで済む仕事の中で配達を選んだのだが、なかなかどうして、配達の依頼には当たりはずれが存在してしまう。

手紙だけであれば簡単なのだが、配達物にちょっとした荷物が含まれていることがある。

商会の人間が村や町を荷馬車で回った際に受け取るので、荷の邪魔にならない程度の小物も受け取ることもあるのだ。

余談だが、小物の配達を頼まれる商会というのはそれだけ人々に信用があるということのため、小物の数を商会同士で競っていたりする。


「先に小物がある家から回りませんか? 壊れ物だったら嫌だし、持ったままずっと歩き続けるっていうのも、地味にきつくなってきそうなんですけど……」

タカヒロが愚痴をこぼすが、鍛えている冒険者であれば文句を言うほどの重い荷物は無い。

壊れ物ということについては一考の余地はあるが、衝撃を与えないように気を付ければいいだけである。

それに言ってしまうと、商会の人たちも後で文句を言われそうな品物をついでで請け負うことはない。

また、依頼主たちもついででお願いしていることであり、どれくらい日数がかかるかも定かではないことをわかっているので、衝撃に弱いものと食料品は依頼しないのが暗黙の了解となっている。

タカヒロの心配は無用のものであったりする。


陽射しにより少し汗ばむ中を一軒、また一軒と探して回り、届けていく。

ある程度の順路は事前に確認できているとは言え、次の家まで微妙に遠い家もあるもので、必然として話す時間が出来てくる。

「先の件では、お二人に会わせることが出来ずにすみませんでした」

唐突にタカヒロに謝罪を口にするリベルテ。

話題に出したのは、例の薬を作り出している人物に関してのことだった。


「え? ああ。問題ないですよ。知らない人でしたし。まぁ、話が出来たら確認したいことはありましたけど。普通に話が出来たかも怪しかったでしょうしねぇ」

一方のタカヒロは、同じ『神の玩具』だろう相手だったというのに、亡くなってしまったことを一顧だにしていなかった。

「そう言っていただけるなら……良いのでしょうか? それにお二人を連れて行かなくて良かったです。あの煙は危険すぎました。レッドも前に出る癖をなくしていれば、あんなめに遭わなかったでしょうに。すぐ前にでるんだから」

レッドにすれば、あそこで前に出なきゃ抜けられていた、と言っただろうが残念ながらここに居ないので誰も擁護できない。

不満をこぼすリベルテにタカヒロも頷くことで同意する。

タカヒロもあまり前に出たがらない人間のため、たとえレッドがこの場に居たとしても同意は得られなかったことは間違いなかった。


「それよりなんですけど」

「それ扱いでいいんですか? まぁ、よいのですけど……」

タカヒロはそんな話を暑い外で話をする気がなく、それよりは気のまぎれる話をしている方が良かった。

「レッドさんには聞いたんですけど。リベルテさんは生まれ変われたとしたら、どうしたいですか?」

以前にレッドと時間つぶしにと話をした、もしそうだったらという想像するだけの話。

人というのは、『もしも』という空想の話が好きである。

現実だけを見据えて行動する人もいるだろうが、空想は一種の娯楽であり、「自分だったら」とか、「そうであったなら」と考える人は多いものである。


「また変な質問ですね。レッドにも聞いたのですか。ふふ。たぶん、思うとおりに生きればいい、とか言ってそうですね。もう自分じゃないから、とか」

「はえ~。たしかにそんな風に言ってましたよ。よくわかりますねぇ」

「レッドの相棒を務めて長いですから」

リベルテはこれまでの冒険者生活を思い出して笑みがこぼれる。

「ん~、うらやましいかもと思わされちゃうなぁ。あぁそうだ。ちなみに、今の記憶を持ったまま生まれ変わったらっていうのなんですけど、どうですか?」

「今の私の記憶を持ったまま……ですか? それは嫌ですね」

リベルテがきっぱりと言い放ったことに、タカヒロは驚きを隠せなかった。

「ええ!? 嫌、ですか? 今の知識があれば小さい頃からでも十分に活躍できますよ? 鍛え方とかだって、小さい頃からやっておけばいいものだってあるじゃないですか?」

記憶を持ったまま生まれ変わることができた場合の利点を挙げるが、リベルテの反応はいまいちだった。


「記憶を持ったままだなんて、辛いだけですよ。体は小さいのですよね? こう動きたいのに動けないということをわかってしまいます。思うように動けないというのは辛いものですよ。それに、小さいながらに大人と同じくらい賢いというより、小さいながらに大人と同じ振る舞いをされるというのは、忌避されるでしょうね。頭がいいとかそういうのとは違って、気味が悪いものです」

「そんなことはないんじゃないかな? 頭いいとかって可愛がられるんじゃ?」

「タカヒロさんの前にそういった小さな子がいて、言うことやることがすべて経験に基づかれていたらどうですか? すごいって思うだけかもしれないですが、そこでタカヒロさんがやることすべてダメだしされたり、その子の方ができるってなったらどうですか?」

タカヒロはその光景を想像してみて嫌だったのか眉に皺を寄せ始める。


「それに、生まれ変わったらうまくやれる、だなんて思えないんですよね。今までの経験があってのこの私ですから。違うように生きようとしたなら、こうならないようにって動こうとすると思います。そうしたら、今の記憶って邪魔なんですよ。生まれ変わってまで持っていたくないことだってありますし……」

リベルテの悲しげな顔に、タカヒロはばつが悪そうな顔になる。


「それにですね。記憶を持ったまま生まれ変わるなんてあったら、世の中怖いと思いませんか? 例えば、多くの人を殺してきた人がその記憶を持ってまた生まれ変わってきたとしたら、また多くの人が犠牲になるかもしれません。タカヒロさんの例だと、前よりもっと手がつけられなくなってしまいますから」

もしもの話だ。当然、都合の良いことばかりを考えるもの。

だが、悪く考えれば最初に考えた条件はどんどん悪いほうに作用していく。

生まれ変わっても記憶が残ったままであるからと、前の生を省みるとは限らないのだ。

また同じような人生を、より凶悪に生きる可能性だってある。

そうでなくても、生まれ変わった先の環境が良くなければ、前の生の環境が良ければより耐えられない。

記憶がある分だけ、よくわかってしまってが苦しいこともあるだろうから。


「今を変えたいというのはわかります。生まれ変わってやり直したいということも」

リベルテは立ち止まってタカヒロの目をしっかりと見る。

「その時に誰かに与えられる力なんて、私はいらない。私は私だから」

力強く言い切るリベルテの目は強く、とても眩しいとタカヒロは感じた。


「あ、ここですね」

話しているうちに次の家にたどり着く。

「すいません。配達の依頼を受けて届けに来ました!」

「はいは~い。っておや? リベルテちゃんじゃないか」

出てきたのは、リベルテが利用している食料品を売る店でよく会話をするおばさんだった。

「あ、おばさま。はい、手紙と……小物ですね」

タカヒロが持っている袋から手紙と、背負っていた小物を受け取り手渡す。

あて先と差出人の名前を確認し、おばさんが受け取る。

「はい。間違いないよ。ありがとうね。ハーバランドに行ったら送ってくれと言ってたもんだ。忘れてなかったのか、感心感心。っとそうだ。リベルテちゃん。レッド君大変なんだって? やっぱり危ない仕事だよねぇ。あのこの腕っ節は知ってたけど、毒をまくようなヤツが相手だったとか? さすがにそれはどうしようもないわよねぇ」

受け取った手紙と小物はそこそこに、一気に話し始める。

長くなりがちであるが、たまにこういった女性達の情報網は侮れなく、貴重な情報もあったりするのだ。

そのため、リベルテもそこまで話をするのが好きというわけではないが、情報収集のために話をしている相手だ。


「ええ。今も家で療養中です。ただ、他の方々より症状が軽く済みましたので、近いうちに動けるようになると思います」

「それはよかったわねぇ。警ら隊の中には酷い人もいたんでしょうに。あ、そうだ。聖国の人たちが来てるらしいから、お願いすれば治してもらえるんじゃないかい? まぁ、あそこはいい噂聞かないからお金ふんだくられそうだけどねぇ。あっはっは」

思わずタカヒロの顔も見てしまうリベルテ。

「聖国の人が王国に、この時期に?」


一度動き出した世の中は、止まることなく次々と動き始めていた。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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