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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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「それで、その薬の相手が僕たちと同じって思ったのはなんでなんですか?」

「そいつが一人で作ってることだ。今この世界に無い物をそれなりの量を売ってるというのに、それらしい作業場も見つかっていない。この国がまだ知らない技術が生まれたのかもしれないが、だとして二種類の薬が近い期間で出るわけがない。であれば、考えられるのは『神の玩具』が持つと言う過ぎた力だ」

「やっぱり過ぎた力だってわかりますよねぇ……」

「あぁ。お前らのはわかりやすかったぞ? 見たことあった魔法に比べたら威力ありすぎだったからな。つか、なにやったかわからなかった。マイは治癒の魔法なんだろうな。だが、あれは聖国に見つかったらやばいぞ」

「さすがにあれは、使わないと死んじゃいそうだったからねぇ」

明るく笑い合っている二人においていかれている一名。


「ちょ、ちょっと。なんでそんな笑ってられるの!?」

たまらずタカヒロに詰め寄るが当人はのほほんとしている。

「いやぁ、さすがに力を見せちゃったのもあるけど、それよりも時々、何も知らないこととか、向こうの話をわりとしちゃってたから、わかるでしょ。調べてもいたみたいだしねぇ」

「そりゃあなぁ。『神の玩具』ってこっちが呼んでる奴らは、どいつもやらかしすぎるからな。タカヒロたちもその力でいつ暴れだすかヒヤヒヤしてたんだぞ? いつかは話をしなきゃと思っていたがね」

突如としてこの世界に現れ、この世界に生きている人からみれば過ぎた力を持っている。

それは聖女と呼ばれたり、魔王と呼ばれたりしている。

国を興亡させ、向こうの進んだ技術であったり知識を用いて混乱を巻き起こす。

たしかに恩恵もあるだろうが、巻き込まれる人にとってはたまらないことである。

そういう相手が居るかもしれないのであれば、警戒しておくのは当然だろう。


「でだ。件の薬を作ってるやつは本当に知らないのか?」

真剣な表情に変わり、タカヒロに向き合うレッド。

やっていることがやっていることである。

国に害をなすことをしている相手だけに、タカヒロたちの知り合いや身内だとしても見逃すことはできない、ということの確認であった。

「たぶん、としか。あって見ないことにはわからないですよ。知ってる人がきてるのかもしれないし、まったく知らない人かもしれない。まぁ、あんな薬について知ってそうなのは、さすがに友人にもいないけどね」

「わ、私も知りません」

二人の言葉に嘘はないと感じたレッドは、ホッと一息つく。

さすがに文字通り一緒に生活をしている相手のため、かなり気を使っていたし、何より『神の玩具』である。

身内だからと助けるためにこの国を滅ぼそうとする可能性も考えれば、頭も胃も痛いものだったのだ。


「そうか。なら後はこっちに任せとけ。おまえらはゆっくりしてていい」

レッドはたとえ知ってる相手ではなかったとしても、これから先には関わらせない方がいいと思っていた。

以前に薬の売人たちを捕まえる依頼を受けたとき、レッドが暴れていたからというのがあるが、積極的に捕まえに、戦いに行こうとはしていなかったことがあったからである。

普段は討伐の依頼がないか確認しているタカヒロであったが、人相手では違うようだったのだ。


「そう、だね。行かないほうがいいかも。それにこう暑い日は動きたくもないからねぇ」

「でも、知ってる人だったらどうするの?」

人に過ぎた力を持つ相手の場合、どういう対処になるのか想像は付いたのだろうタカヒロは休んでていいと言われたことに乗っかるが、マイは違った。

やはり知っている人かもしれないということ。

そして、同じ国の人かもしれないことに助けたい気持ちが浮かんできたためだ。


「だから、知らないと答えたじゃない。知ってる人だったとしてどうするさ。人をあんなにする薬を作って売ってる人だよ? 知り合いでも助けらんないでしょ。代わりに罪でも被る?」

知らない世界で自分と同郷の相手を信じたい、助けたいと考えるのは自然であるだろう。

だが、その世界で罪を犯した人を助けるのか? となれば話は変わるはず。

ましてや、自分たちの世界でも罪と言えるものであればなおさらである。

タカヒロはありえないでしょ、とばかりに冷め切っており、マイはそれが信じられなかった。


「折角レッドさんがぼかしてくれたんだけど、わかってないよね。相手が手向かって逃げるなら殺すっていうことだよ。そうじゃないにしても結構やりあうことになるんじゃないかな」

「そんなっ! どうしてそう他人事みたいに言えるの!?」

「他人事でしょ。そもそもがおかしいんだって。力もらったからって使っていいって話じゃないし。使うにしても自分勝手はだめじゃん? お金あるからって、他人の家弄っていいわけじゃないし。奪っていってお金置いてけばいいってもんでもないでしょ。でもその人はそれをやっちゃっただけ。だから罪になるし、捕まる。あっちの世界でも抵抗したらその場で撃ち殺されたりとかニュースあったでしょ。

 そんでもって僕らはそれを見なくていいって言ってくれたの。レッドさんたちがメインの依頼だから僕らが無理して付き合う必要はないしねぇ」

そこまで言い切られてマイは力なく椅子に座る。

それを見計らったようにリベルテが昼ごはんをもってくる。

サンドイッチにサラダと簡単なものであるが、暑いとだれていた日であればちょうど良い。

お腹もすいていた面々はサンドイッチに手を伸ばす。

これから向かう予定のレッドとリベルテはいつものように食べ、暑さと今先ほどの話で気が落ち込んでいるマイはほどほどに、タカヒロはいつもと変わらずに食べていく。


「タカヒロ、なんだかんだで丈夫だよな?」

「いや~、涼しくできないかな~って他に迷惑にならないように端っこでやってたら、結構涼しくできて」

と言ったところで急に元気を取り戻したマイにガシッと肩を掴まれる。

「それか! さっきの果実水もそれで冷やしたんだ! ずるい! 私も涼しく過ごしたい!」

マイが暴れるのを察知していたレッドとリベルテは、サッサと食べ終えてマイの騒ぎを利用して家を出る。

「今のうち、ですかね」

「いつまで留まっててくれるかわからんしな。マイの気持ちは想像つかんでもないが、話し合ってる時間はないからな」

レッドたちが情報の場所に向かっている頃、残っていたマイはタカヒロの魔法で涼しく昼寝をしていた。

こうなることを計算していたとするなら、タカヒロはなかなかの策士と言えるだろう。


「目標はあの建物です。我々が動きますので、万が一包囲から逃げ出す者がいたらお願いします」

そう言ったのは国の警ら隊の隊長ハインツである。

人に害をなす薬を作っている人物の逮捕に当然、国は動いていた。

本来、警ら隊だけで動く予定であったのだが、なぜか上の方から通達があり、冒険者ギルドのマスターからの推薦というねじ込みもあってレッドたちも加わっていた。

なので、警ら隊側からすれば面白くない相手であり、先の言葉もこっちがやるから余計なことをするなよ、という意味であった。

レッドはその薬に関連した依頼に関わったことがあり、なおかつ『神の玩具』だろう相手であるため、話をしてみたかったのだ。

もちろん、薬を作りばら撒いたことについては、殴るつもりでもあった。


「突入!」

ハインツが右手を振り下ろし道を塞ぐ役以外が建物に向かってかけていく。

「うわっ」

「がっ」

だが、建物に近づいたところで矢が飛んできて、数名が怪我を負う。

そして建物から短剣や剣を構えた者達が飛び出してくる。

「ひるむな! 捕縛が難しいなら斬ってかまわん! 逃すな!」

ハインツは大声で指示を出して自らも乱戦に身を投じる。


「レッド……」

「わかってる。このままなら捕まるだろうさ。何事も無きゃな」

建物から飛び出してきた者たちは、どんな国であっても必ず存在するならず者達であり、不意を付いたことで警ら隊に対抗していたが、時間が経って行くほどに警ら隊が押し込んでいく。

町を守るために訓練を続けてきている者達が、ただ暴れる者達に負けるわけがない。


だが、レッドが言ったことが起きる。

『神の玩具』相手に何も無いわけがない。

建物の中へ入ろうと戸を開けた瞬間に一気に煙が広がり、その煙を最初に思いっきり吸い込んだ隊員が体を痙攣させながら倒れた。

「っ! 毒だ。煙を吸うな」

ハインツが慌てて建物に近い隊員たちを退かせるが、全く吸わないなど対応する道具でもなければできはしない。

あちこちで他の建物に寄りかかるように、道を塞ぐように倒れこむ者が多く出る。


「っ! リベルテあっちだ!」

レッドがならず者達が突破しようとしている部分を示して走る。

道を塞ぐ役の者達が必死に押し返そうと奮闘しているが、突撃部隊が煙によって混乱しており、指揮官のハインツもそちらに対応できない。

ならず者達は集まって一点突破を試み、警ら隊は混乱と相手より少数ということもあり、次第に傷つき、首や腹辺りから血を噴き出し倒れる者が出始める。


「そうはいくかよっ!」

レッドが塞ぎ役の横から飛び出し、ならず者の頭を剣の鞘で殴りつける。

鈍い音とともにならず者は倒れる。

当たり所が悪ければそのまま亡くなってしまうが、そのまま剣で斬りつけなかったのは、捕まえることが第一目標であった警ら隊を慮ってである。

だが、ハインツも言っていたとおり、捕縛することが困難で逃がしてしまう可能性を考慮すれば、倒すことが優先される。

レッドが良くやる奇襲だったため鞘で殴ったが、ここから先はまだまだ相手の方が多いため、斬るしかない。

殴ってもしばらくしたら意識を取り戻してしまうからだ。


ならず者たちは相手が一人増えただけと気づいたため、そのまま突破しようと動く。

レッドが加わっても警ら隊の混乱が収まらず、また一人警ら隊が倒れてしまい、ついに穴が開いてしまう。

我先にとそこを抜けようとしたならず者の一人が、首から盛大に血を噴き出して倒れる。

「ここから先は通しませんよ」

リベルテが短剣を構え威圧する。

レッドが前に出てたのに合わせて、リベルテは逃げようとする者の対応に動いていたのである。

数名があっという間にやられたのを見て、ならず者達の足が止まる。

先ほどまでの警ら隊と違い、いかにも対人に、殺すことに慣れている雰囲気に恐れを感じたのも仕方ない。

警ら隊も相手を殺すことはあるが、治安維持の仕事のため、酔っ払いなどの暴れる者を抑えることの方が多い。

だから突破できると思っていたのだが、そこに来て二人があっさりとやられ、うち一人はあっさりと命を奪われたのだ。

散々暴れてきたとは言え、死にたいわけではないために二の足を踏む。


「止まるんじゃねぇよっ! たった二人に怖気づくとか使えねぇな」

突破を図っていたならず者達の中心にいた男が、立ち止まった者達を罵倒する。

その男を見てレッドは直感した。こいつだと。

「なんであんな薬を作った!」

「あ? そんなの金になるからだろ。こういうのって常習するんだよ。一回使えばだいたい次も買ってくれるようになるからな」

「死んだ者もいるんだぞ!」

「あ~あれねぇ。適量まではわかんなくて。ま、運が悪かっただけだろ。それに俺が使わせたわけじゃないし。俺は悪くないだろ? それともあれか? 剣で人殺したら、その剣を売ったやつ、作ったやつが悪いってのか? あぁ?」

自分が作ったものがどういったものかを理解していてなお、買うものが使った者が悪いと投げ捨てる。

相手のことを一切考えていない言葉。


「ふざけるなっ! 」

レッドがその男に向かって進む。

その男の前に居たものはレッドに袈裟切りにされ、血を撒き散らして倒れる。

「はっ。人をそうもあっさり殺して回るお前の方がよっぽど危険だろが。それに……俺がこんなとこで終わるわけないだろが。神に選ばれた男なんだからなっ!」

レッドがその男に剣を向けたとき、男は叫んで地面に何かを叩きつける。

するとまた煙があたりに立ち込める。

「毒かっ!」

慌てて息を止めるが、視界も悪くなり、このままでは逃がしてしまうと焦るレッド。

せめてものけん制、そして煙を散らすということもこめて剣を振り回す。


しばらくして、周辺にいたならず者達も喚きながら倒れ始める。

ならず者達もこの煙の対処は出来ていなかった。

建物から煙が出た時、彼らはその範囲の外に居ただけだったのだ。

「仲間まで巻き込んで捨てていくのか!」

いくらか煙を散らし視界が少しよくなり、倒れていくならず者達を見てレッドが叫ぶ。

「そんな使えないやつらなんか知るかよ」

そしてレッドが声がした方に目をやって見たのは、首を剣で貫かれたあの男だった。


建物への突入部隊の方は、未だ広まった煙に苦慮していた。

指示していたハインツも指示の最中に煙を吸い込んでしまい、倒れていたのだ。

だが、このままでは逃がしてしまうと、残った警ら隊は布で口元を覆って煙の中に突撃していく。

口元を布で覆ってみてはいるがそれで防ぎきれるわけもなく、やはり倒れる者が出てきた頃、警ら隊の中で一番若かった男が剣を振り回し始めた。

尊敬や信頼していた隊長や先輩方が倒れていくのだ。

警ら隊の職に就き、ここまで酷い状態になったことなど無かったのだろう。

自分もそうなるという恐怖に錯乱していた。


自身が広めた煙で視界が悪くなっていたこと。

『神の玩具』と思われる男はこのような場に慣れていなかったこと。

警ら隊の若い隊員が闇雲に剣を振り回していたこと。

そんないくつかが重なり、本来ならそんなことは起きえないと思うほど、事態は収束に向かう。

レッドの方を向き、捨て台詞を吐きながら走って逃げていた男が、そんなことあるのかと思えるほどきれいに自ら警ら隊が振り回していた剣に刺さり、幕が下りた。


煙が晴れた後の状況は酷かった。

警ら隊、ならず者ともに煙を吸ったことによって倒れた者があまりにも多すぎた。

建物に最初に突入した者を筆頭に、煙を大量に吸ってしまった者達は亡くなっている。

生きている者でも、吸った煙によって手足に痺れが出て動けず、うめき声をあげている状況だった。


リベルテは道を塞ぐようにいたため、煙からすぐに逃れ、レッドは多少なりとも吸ってしまったために手足に痺れを残していた。

「これで、終わったのか? こんな終わりでよかったのか?」

リベルテに支えられながら家に戻るレッド。

久しぶりの失敗とも言える後味の悪い結果に、家で待っているだろう二人に対して気が重い。

陽が沈んだ今も暑さがまとわり付くような夜だった。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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