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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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「おらぁっ!」

レッドが暴れる男に拳を叩き込む。

手加減せずに殴られた男は吹っ飛び、動かなくなる。

「うわぁ……死んでませんよね? それ。なんというか今日のレッドさん、荒れてません?」

ちゃっかりとレッドが暴れている中に巻き込まれないように、近くに積まれた箱の後ろに身を隠していたタカヒロが、終わったのを確認してそっと姿を現してくる。


「しばらく目を覚まさないと思いますけど、早く縛っておきましょう」

リベルテも近くにおり、縄を片手に手際よく倒れた男を縛り上げていく。

「タカヒロさんもそこにいる男、早く縛ってください」

「いや、人の縛り方なんて知らないですよ……」

「解けないように手足を縛ればいいんですよ」

どうやれば? と首をひねりながら完全に気を失っている男の手足をぐるぐると縄で巻いている。


まだ幾分か興奮が冷め遣らぬレッドを傍目に、リベルテはため息をつく。

「仕事前に余計なことを言ってしまいましたね。ただでさえ気が立つ仕事だと言うのに、変な所にやる気をださせてしまいました……」

「何言ったんですか?」

男を縛り終えたタカヒロが側に寄ってきてリベルテに質問する。

タカヒロが縛ったと言う男に目を向けると、手は後ろに足も何重にも縄を巻き、固結びで簡単には解けないようになっていた。

兵の詰め所に送っても兵たちでも解けない。

縄を切るしかない縛り上げっぷりであった。


「元々この仕事は、見ての通り、魔の薬の販売人を捕まえるというものです。以前にもあって、成人まもない人を助けられませんでしたから。レッドはこういった薬を売る人、作る人が許せないんです。だから気が立っているんですが……」

「それは、荒れるのもわかりますけど。レッドさんに言ったことというのは、関連する話じゃないんですか?」

「グーリンデ王国の北側にシアロソ帝国という強国があるのですが、その東側にナダ王国という国があります。シアロソ帝国にずっと対抗し続けている勇猛な国なのですが、そこにここ最近になって一人の男が現れたそうなんです。それがまたとても力が強く、動きも俊敏で、力自慢の男が殴りかかってもビクともしなかったというほど、すごい戦士なんだそうです」

「聞く限りはすごい人ですけど、それがレッドさんの状況とどう関係するんですか?」

タカヒロが率直に質問すると、リベルテが苦笑いする。

「そうなんですよねぇ。遠くの国の話なので関係がないのですが、対抗心、なんでしょうかね? 自分も負けないとか、自分だってとかそんなところなんでしょうか。こどもっぽくて少し可愛いのですが……さすがに、この惨状はいただけませんね」

あくまで薬の売人だった3名相手だったため、逃げられないようにさえすれば然して大変なものではなかった。

しかし、相手が薬の売人と言う気が立ってしまう相手である上に、他の国のとても強いと言う男への対抗心を出してしまったレッドが力任せに暴れたため、売人達は鎮圧できたが、そこいらにあった荷物がめちゃめちゃとなってしまっていた。

殴ってふっ飛ばし、掴んで投げ飛ばし、飛ばされた先になにか物があればどうなるかなどわかるものである。


改めて惨状を見渡したタカヒロがポツリと漏らす。

「対抗心持つにしてもどんな相手かわからないし、どうでもいいと思うんだけどなぁ……」

「私もそう思うのですが……、その人はそんな強そうに見える男ではなかったそうなんですよ。なんというか……ちょうどタカヒロさんみたい、らしいですよ?」

たとえに出されてとても不本意だと顔に出すタカヒロにリベルテは小さく笑う。

「いえ、すみません。でも本当に、そんなに力強そうな体格ではないらしくて。なのにナダ王国の人たちに上からものを言ったそうで、ナダ王国の勇猛な男達が叩きのめそうとしてほとんどが返り討ちにあったと言われると、嘘と流すか、ああやって自分はそんなのに負けないって力を奮いたくなるのかもしれませんね」

「そんなもんですか……」


戦って力を示すことに興味のないタカヒロの様子に安心を覚えるリベルテであったが、その力を示した男と言うのが、また別の『神の玩具』なのではないかと、レッドとリベルテの二人は考えていた。

国を一つ、二つ挟んだ先の国であるが、こちらに来ないとは言い切れないほどの距離であり、レッドの荒れ方には恐怖と焦りもあったのかもしれない。

力を示すことにためらいの無い者が、いつかこの国にもくるかもしれないのだから。

それにナダ王国の勇猛な戦士達は有名であった。

彼らが居るからシアロソ帝国に退くことがないのだと。

そんな彼らが強そうでもない男に完膚なきまでに負けたとなればどうなることだろうか。

一つ国を挟んだ先の帝国がさらに勢力を広げてくるだろうことに、危機感を持たないわけにはいかない。

もし帝国と戦うことになれば、多くの人が命を落とし、血を流すことになるのだから。


少しは気を落ち着けたのだろうレッドがリベルテたちのところに戻ってくる。

「リベルテ、これ……以前のと少し違う気がしないか? 調べてみないとよくわからんが、そんな気がするんだ」

「そんな粉だけ見てわかるものなんですか?」

「勘、だけどな」

レッドに対して何言ってんのという感じと経験則による感働きへの感心が半分半分のタカヒロであるが、リベルテは否定や疑問を持たず、じっとその薬を見た後、中身をこぼさぬよう包みなおして仕舞いこんだ。

「ギルドを通して国に届けてもらいますね」

「ああ、頼む」

それから捕まえた3人の男をそれぞれ担ぎ、兵の詰め所に運んでいく。

もちろん、タカヒロが重いと愚痴を言いながら運ぶのは変わらなかった。


それからしばらくして国からの報告と王国全土に通達がなされた。

リベルテがその報告を見て慌ててレッドのところへ駆け込むが、レッドは陽も高いうちから気が立った様子で酒を飲んでいた。

「あの薬の結果が届いたのですが……」

「だいたいはわかってる。あっちこっちでそうなってしまった人たちがいるからなっ!」

ダンッと酒を飲み干したコップをテーブルに叩きつけるように置く。

件の男達を捕まえたときには何事も無かったのだが、それからしばらくしてその薬を手にしてしまったのだろう人たちに症状が現れたのだ。

「あんなもん作ってどうする気だってんだ!」

レッドの怒りはなかなか収まる気配が見られない。

リベルテにしても内心にかなりの怒りを納めている。


薬を使った人たちは皆、壊れてしまっていた。

声をかけても反応は無く、ただ虚空を見つめ動かなくなっていたのである。

だれがどういう経緯から、どういう目的で作り出したのかわからない。

こうなるとわかっていて売り出していたのであれば、それこそ許せるものではない。

売人を捕まえても根本を潰さない限り、また繰り返されることになる。

それはわかっているのだが、なぜか売人たちはだれもどこから入手したか知らないのだ。

いや、覚えていないのが正しいだろう。

そのことに尋問を受けて初めて驚愕するのが、捕まえた売人たちの一様の結果なのだ。

人の記憶を弄れるのか、そう思わせる力を持っているのか。

それもまた『神の玩具』が関与しているのか。

二人に沈黙が流れる。


ややしばらくしてポツリとリベルテが言葉を漏らす。

「なんとかしてあげたい、ですね」

「……そうだな。なんとかできればいいんだが……」

薬による症状を発した者達は、国によってある一角に隔離されるように動いている。

今のところ数十人も薬の犠牲者が出ていた。

これで終わるとも限らない。すでに出回ったものがあるだろうし、また新しく売り出すものも出るだろう。

なんにせよ、新しい年が始まって、早くも不穏な様子があちこちに現れ始めているようだった。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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