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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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メレーナ村へ配送の依頼で再び来たが依頼主であるラングも同行しており、この2、3日は村から売りに出そうとする物の鑑定をするとのことで、宿泊しているレッドとリベルテ。

以前に来た際に見かけた、この村の住民としては異質に感じるマイと言う女性を探るべく訪ねてきたのだが、今はリベルテとマイ揃って野草やハーブ茶の話に夢中になっていた。

買うのはいいが、御用達並みの値段では買わないでくれと思うしかないレッド。

会話に入るわけにも行かず、ゆっくりと飲み続けているドクダミ茶は3杯目に入っている。


そこに一人の男性がマイが住んでいるこの家に入ってくる。

レッドが村の中でふと目についた黒いローブを羽織っていた人物。

その堂々と入ってきた様子から、この家に入りなれていて、なおかつマイと親しい間柄であると思われた。

「ただいま……っと来客中だったか。ごめんなさい。すぐ引っ込むから。ではお客様ごゆっくり」

そういって男は奥に引っ込もうとするが、レッドがそれを止める。

「あ~ちょっと待ってくれないか。良ければ君も入ってくれないか? さっきからそちらの女性二人ばかりが盛り上がってしまって、所在無くてね」


レッドが非常に申し訳なさそうに話す理由に、リベルテとマイは揃ってハッとし、リベルテは気まずそうに椅子に座りなおし、マイはお茶の追加に席を外す。

それを見ていた男は、あ~と考える仕草の後、被っていたフード部分を外し、暖炉に向かって薪をくべる。

「薪も安くは無いからそんなに温かくできないんだけど。消えちゃったら寒いから」

独り言なのかこっちに話しているのかわからないものであったが、こちらに言っていると思うことにし、レッドが話を返すことにする。

「あ~、こちらのことはお構いなく。温かいお茶もいただいているので、十分に温かい」

「そうですか」


初めて見る相手のため、会話が難しい。

マイとの関係を聞いてみたいが、下手に突っつくとそれが災禍に繋がりかねない。

マイと親しいと思われ、なおかつ、今またマイに感じたような異質なものを感じているからである。


「お待たせしてすみません」

そこに新しくお茶を入れなおしてきたマイが戻ってくる。

初めてみる男性と居るのは、なかなかに厳しかったのである。

話しかけるにも話題がなく、下手な質問をしては警戒されてしまいかねず、気まずいものだったのだ。

だから、少しだけとは言え、顔を見知っているマイが戻ってきたことに安堵する。

が、この二人は『神の玩具』かもしれないのである。

安堵することで気を抜くわけにもいかず、なんとも言えなさに内心困惑するしかないレッドとリベルテ。


なんともおかしな雰囲気を感じたのかマイは首をかしげながら、それぞれのコップにお茶を注ぐ。

「なにかありました? タカヒロ君が何か変なことでも言ったの?」

「いや、僕は何も……」

やはりマイとタカヒロと呼ばれた男は親しい間柄と思えた。

ただそれが恋人なのか夫婦なのか、それともただ同じ境遇ゆえのものなのか。

そのどれでもあるようにも考えられた。

『神の玩具』。突然、この世界に人に過ぎた力を与えられて放り出された者。

そう思われる者が二人、目の前に居る。この国にいる。

それがよいことに向かって欲しいと望むしかない。


「お二人は夫婦なんですか?」

リベルテがそうだったらいいなと言わんばかりの表情、仕草でつっこんだ質問をする。

思わぬ質問にマイとタカヒロの二人は固まるが、それ以上にそんなつっこんだ質問をするとも思っていなかったレッドの方が二人以上に固まっていた。


「ち、違いますよ~。え~っと、そう! 親戚なんです。私がこの村で一人で生活してるって知って、心配になっておしかけてきたんです。今じゃ勝手に住み着いてて、逆に迷惑なくらいで。アハハ~」

いち早く意識を戻したマイが早口に否定し、何があったのかタカヒロはお腹を押さえていて何も言えない状態になっていた。


「そうなんですか、邪推してしまったみたいですみません。あまりにも親しそうだったのでそう思っちゃいました」

リベルテはそんな流れを壊さないように、少し茶目っ気出しすぎましたと片目をつぶりながらマイに謝る。

レッドにとってはかなり違和感しかないもので、思わず何か口にしてしまいそうであったが、足に激痛が走り、言葉を出すことができなくなる。

端から見ている者がいれば見てしまっただろう。

マイが否定を口にする前にタカヒロが何かを言おうとして、タカヒロの腹部にマイの肘うちが入り、リベルテが明るく茶化し気味に締めようとしたことにレッドが何か言いそうになって、レッドの足の甲を思いっきりリベルテが踏みつけたのを。

二者の少し高い笑い声と二者の低く引きつるような笑い声が場を支配した。


「んっん~。お二人はたしか冒険者、なのですよね?」

軽く咳払いの後、何事も無かったように場を仕切りなおして、質問をしてくるマイ。

「そうですよ。今回も配送の依頼でこちらにきました。依頼主も一緒でそちらの商談が終わりましたら、一緒に王都に戻ります」

「へ~、冒険者って本当にあるんだ……」

リベルテの言葉に小声で何か呟くタカヒロ。

「そういやそちらはどうやって生活してるんだ? この場所じゃ農家ってわけでもないだろうし。さっきの茶から見て、薬師か?」

「そ……うですね。薬師の見習いのようなものです。ハーブとか育てて村長さんに納めて、その分のお金と食べ物をいただいてますね」

「そうなんですね。その年で立派に薬師をされてるんですね」


和やかに話をしているが、話をする度にレッドは胃も頭も痛い思いをしていた。

以前にリベルテとともに資料を漁り、リベルテが推測した話。

『神の玩具』と呼ばれる者は、こちらの世界について何も知らない。

知ろうとはしているのだろう。今の会話だってそうである。

だが、知ろうとすることと理解すること、納得することは違う。


例えば、出されたドクダミ茶。

ドクダミという名前の植物をレッドたちは知らない。

リベルテがまったくわからない風で茶話をしていなかったから、似たような植物はあったのだと思う。

だが、こちらではなんと呼ばれている植物か、また毒性などをもっていないかを確認していないことになる。

その植物のこちらでの呼び名を知らないのだから。

そこまで考えて、ふとリベルテが話の最中に慌てる様子もなかったことから、毒性は無いものであったことに気づき、胸を撫で下ろしはするものの、このままでは大丈夫ではすまなさそうであることに、レッドは頭が痛くなっているのである。


しかし、人に過ぎた力を持っており、最初警戒が強かった相手にどこまで話をしていいものかが難しい。

過去にはその力で国を滅ぼした者が居たわけだから、下手に突くような真似もできなく、一見普通に話をしているように見える今の会話のどこに火種となってしまうものがあるか考えて、胃も痛くなっている。

そんなレッドの心労を他所に、当のリベルテとマイは和気藹々と話続けているのであるが……。


「王都に行ってみたいんだけど、王都で生活するとなると冒険者になった方がいいんですかね?」

それまでの会話が一旦途切れた頃に、タカヒロが王都に行きたいと相談してくる。

「そうだな。職にはそれぞれギルドがあるんだが、今職についているギルドに申請がいる。多くは王都に集中している部分はあるが、各貴族領や街に配属させるようにはしているからな。じゃないと王都だけに集中して他が発展しなくなる。王都だけじゃ人を賄っていけないから。

 んで、もし職に就けていないなら冒険者になるというところだな。俺達も王都の冒険者ギルドに所属してる」

「他のところにも冒険者ギルドはあるんですか? この村にはないんですけど」

「村には無いな。王都と各貴族領だけだ。村に常駐するような仕事でもないからなぁ」


雑用が多い仕事であり、村の規模であれば村の中で手を取り合って済ませられる。

人が多く不足がちになりやすいものを取ってくるとか、人が多くとも担い手が少ないことの手伝いとかそんなのである。

モンスターの討伐もあるが、突然湧いて出てくるものではなく、どこそこで見かけたというところからになるので、王都や各領主に届け出て対応が間に合うのだ。

レッドの説明にタカヒロは納得したようにうなずいているが、どこか納得できていない節がところどころ見受けられた。

聞いただけではわからないというのは世の中多いもので、あとは実際に見たりやってみればいいのであり、レッドとしてはタカヒロが納得するまで説明する気はなかった。


「わ、私も王都に行ってみたい」

タカヒロが王都に行く気になっていることに触発されたのか、マイも王都行きを希望してくる。

「でも、マイさんはここの薬師なんですよね? 薬師ギルドありますから、王都で働きたいという申請をしないと。代わりの人を手配しないと、この村に薬師が居なくなってしまいます。それにこの家はどうされるんです? 薬師ギルド所有のものなら代わりの人がそのまま使いますけど、そうじゃないなら管理する人がいないと……」

リベルテが知っている薬師としての決まりごとを言うと、マイはその身を固まらせる。

見習いとは言え、薬師と言ってしまったのだ。ギルドで調べれば所属していないことがわかる。

ギルドに所属していない者は騙りであり、本人は善意のつもりかもしれないが、正しく無い知識で行われていたら、それは害である。

友人として話をしていたつもりになっていたリベルテは、自分が思わず言ってしまったことに危険を覚える。


自身が詮索されるのが嫌だから。

違反として捕まるのが嫌だから。


そういったことで力を奮われる可能性があるのだ。

魔王と呼ばれるような者達と同じ行動を取り始めないとは限らない。

『神の玩具』たちがこちらの世界を知らず合わせようとしないのと同じく、今ここで生きている者たちもまた『神の玩具』の世界は知らないし、そちらの世界に合わせることなどできはしないのだから。


そんな緊迫した雰囲気の中、パンと手を叩く音にみなの意識がそちらに逸れる。

手を叩いたのはタカヒロだった。

「すいません。こいつ正式な薬師になれてないんです。この家は元々薬師のおばあちゃんが住んでたもので、その手伝いをしていたんですよ。で、正式に弟子になろうって話の翌日から寝込んでしまって、そのまま……。だから、薬師のギルドには入って無いんですよ」

「そ、そうだったんですね……」


双方にとってなかなか望ましい終着点が見え、リベルテは相槌をいれてその流れを進めさせる。

ただレッドとしては、今の話になると村長にハーブを納品するなどありえなくなるため、どう生活していたのか気になってくるが、村人達は迎え入れているし、フィリスは助けてもらってると言っていたので、この村にとって助けとなることをしていたということで詮索しないことにした。


ちなみに村長にハーブを納品することがありえないというのは、村長や町長といった長はその村や町に暮らす人の職などを把握している義務があるからである。

それは自分たちの村や町にどのような職の者がいて、何が出来、何が不足するか。

それを懸案して国や領主に税を納め、不足分を仕入れられるよう手配し、発展または維持していかなくてはならないからである。


「それじゃあ、マイさんも王都で冒険者として稼がないと生活できないですかね。あ、あとこの家は結局どうされるんですか?」

「フィリスちゃんたちにお願いしようかと。元々、フィリスちゃんのご両親から住まわせていただいてたので……」

その言葉だと、前に済んでいた薬師がフィリスたちの祖母か、前の薬師にも貸していたということになるのだが、そういうことだったんだと飲み込むレッドとリベルテ。


「まぁ、王都に行きたいってのを止める権限は俺達にはないからな。後は世話になった人たちに一声かけて向かえばいいさ。そんでなにかあったらここに戻ってくればいい、そうだろ? あ、ただ旅は楽じゃないからな、そこだけは覚悟しとけ」

ギルドの職員でなければ他の村や町への移動を止める権限は持ち合わせない。さらに国外だと国の機関になるが、それは今回には関係ない。

この村に依頼で来た一介の冒険者では注意を促すくらいが精一杯である。


「レッドさんたちと一緒に働けないですか?」

「悪いが、実力も人となりもわからないのと一緒に仕事なんてできない。命を賭けることもある職だからな。まずはそっちの二人でゆっくりやってみな。わからないことは聞けばおしえてやるけどな」

「意外とケチですね、レッドさんは」

「慎重と言え。第一、俺らだって生活はそんなに余裕もってねぇしな」

レッドとタカヒロが早くも冒険者同士の話し合いを繰り広げており、リベルテとマイはそんな二人を横目に見ながら、これからよろしくと手を取り合っていた。

ただ、関わってくるのであれば近くにいた方が動きやすいという考えは、レッドとリベルテの頭にはあった。


『神の玩具』。彼らの出現と出会い。

これから王都にどんな影響を及ぼすことになるのか、誰にもわからない。

何事も無く済むとは思えないが、そう願うばかりであった。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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