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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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「ん~……。んん~……」

唸り続けるレッド。

「何ずっと剣をあっちこっち見ては唸ってるんですか?」

部屋を掃除していたリベルテが邪魔者を白い目で見ながら言う。


「いや、な……。長く使ってきた剣なんだが、なんか合わなくなってきたように感じてな……」

剣を軽く上下に振りながら、どうにもおかしいと首をひねるレッド。

「そんな感覚を言われても……。その剣買ったのはどれくらい前でしたっけ?」

「最初になるべくいい物をってことで、冒険者になった時に結構な額を突っ込んで買ったんだよなぁ。もう10年使ってる愛用の剣だぜ」

「10年て……。よく持ちましたね? あ~、そんなに討伐の依頼受けてなかったですね」

「いやいや、雑用だけじゃ生活厳しかったろ!? 討伐の依頼もそれなりに受けてきたわ。そういうことじゃなく、俺が手入れをかかさなかったってことだ」

少しうっとりするような目で愛用の剣を見るレッドは、少し危ない人間に見える。


「10年も経てばさすがにもう買い替え時なのでは? ちなみにそれいくらで買ったんですか?」

「……銀貨10枚」

「はぁ!? 冒険者なりたての若造がそんな剣どうやって買ったんですか! もう少し分相応の値段でよかったじゃないですか。そうすれば、あの当時あそこまで切り詰めた生活をしなくてすんだのに……」

冒険者なりたてというのに銀貨10枚も持っていて、なおかつ、良い物をというのはわかるがポンと剣に使ってしまったというレッドの金銭感覚に驚愕を隠せず、後半は当時の生活を思い出したのか崩れ落ちているリベルテ。

「いや、そんだけいい物を買ったから、これまでやって来れたんだぜ? 安い物は脆いってことだから、戦ってる最中に折れるとかよく聞くだろ? また買いなおしてって繰り返してたら、それこそ出費でかいわ」


冒険者登録をした際、ギルドから武器を提供してもらえる。

これはギルドが鍛冶ギルドの新人が作成した武器を安値で提供してもらえているためで、職からあぶれてなるものが多い冒険者は武器や防具を持っていないことが多いため、とても助かるものとなっている。

だが、鍛冶ギルドのものが作ったとは言え、鍛冶師の駆け出しが作ったものだ。

質の良い鉱石なんて使わせてもらえるものでもなく、腕も職人の勘も経験も足りない者が作ったものだから、質が良ろしくない。

それこそレッドが言ったように、討伐の依頼を受けてモンスターに挑んで居る最中に武器が壊れるといったことも多々あり、逃げて依頼失敗と違約金で赤字になるケースもあるが、そのまま亡くなってしまうケースもあるのだ。


「それもわかるんですけどね……当時の生活を思い返すと、つい。あんな生活でも頑張れたというのは若さでしたね……。あ、今でも若いですよ、私!」

「前半のは俺も苦労したし、冒険者ならそんなもんだろ。後半のは俺何も言ってねぇよ……」

「まぁ、いいですが。鍛冶屋でも見に行ってみますか? それを見てもらうのも、買い換えてもいいでしょう。生活費は確保できてますし」

「そうだな、専門のやつに見てもらったほうがよさそうだ。だがなぁ、買い替えるのは……これ愛着あるんだよな……」

「物を大事にするのはいいことですけど、武器や防具はちゃんとした物にしないと、自分が危ないだけですよ。サッサと行きましょう」

鍛冶屋に行くのはともかく、買い換えるということに二の足を踏むレッドをリベルテは強引に引っ張りながら連れ出した。

今日も変わらず、王都の通りは人で賑わっていた。


「すいませ~ん。おじさんいる~?」

リベルテに連れられて入った鍛冶屋であるが、2人のほかに客は居なかった。

これは別段、店が廃れているとか、人気が全く無いというわけではなく、武器や防具を多く扱っている鍛冶屋だからである。


レッドのように10年も使い続けるというのは滅多に無いが、頻繁に武器や防具を買い換える者はほとんど居ない。

そもそもが安い代物ではないし、もし頻繁に買いにきているとしたら、毎回粗悪な品を掴んでいるのか、物を使い捨てにしているほど腕が悪いのか余程の金持ちである。

それでも武器防具を取り扱う鍛冶屋が成り立つのは、国の受注があることと、頻繁ではなくとも買い替えにくる冒険者がいるからである。


「ん? リベルテちゃんか。また短剣仕入れにきたのかい。投げる用ってのも馬鹿にならんだろうに」

「最近はそんな出番ないので、仕入れはしばらくいらなさそうです」

「そいつは残念だね。折角の儲けだったのに」

リベルテがよく利用する鍛冶屋であるようで、店番しているおじさんと仲がよさそうだった。

ちなみに、たいていの鍛冶屋は店と工房が同じ区画にあって、今も少し離れた所から鉄を打っている甲高い音が聞こえてきている。


「それじゃ、今日はどんな用なんだい?」

リベルテはレッドに視線を向ける。

「ん? おおう。こいつなんだが、見てもらえないか? 長いこと使っているんだが、最近なんか合わなくなってきているように感じてね」

そういってレッドは持っていた剣をおじさんに鞘ごと渡す。


「どれどれ……。ほう……。ん~…」

鞘から剣を抜き、角度を変えながら剣を見回す。

「手入れをしっかりしてるな。若い冒険者には手入れを怠る奴が多くいやがる。まったく物を大事にしやがらねぇ」

そういった若い冒険者たちを思い出したためか、憮然とした顔になる。


「そりゃあ、高い金かけた大事な剣だ。手入れしないわけがないだろ。で、何か分かるか?」

「普通に寿命だわな。どんなにしっかりと手入れしようが、使い続ければ磨耗するし、劣化もしていく。お前さんの腕に違和感があるほどへたっちまったってことだ。買い替えていきな」

「商売したいからって言ってるわけじゃないよな?」

愛着を持つほど使ってきた剣なので、念押しで確認するレッドであるが、それは鍛冶屋にとっては侮辱する言葉である。

「馬鹿にすんじゃねぇよ! こんなことで嘘ついてどうすんだ!」

職人というものは自尊心が強い者である。だからこそ、自分が納得できるような物を作ろうとするし、腕を磨いているのである。

「す、すまない。長く愛用してきた剣だからな。手放し難いんだ」

さすがに失言だったと謝るレッド。


「ここまで大事に扱ってんだ、それは分かる。こいつも満足だろうよ」

「その剣をどうにかできないんですか?」

二人のやり取りを見ていたリベルテが口を挟む。

「ん~、さすがにただ焼き直ししても前のようにはならん。鍛えなおしても、短剣くらいにできりゃあいいんじゃねぇか?」

「それじゃあ、そうしてくれませんか? いいですよね? レッド」

それがいいとばかりに、目を輝かせてレッドを見る。

「生まれ変わらせてくれるならありがたいが、短剣じゃあなぁ」

愛用してきた剣がダメになったため、剣を買い換えることになる。

愛用の剣が生まれ変わるのはうれしいが、仕事を続けていく上では使い慣れた剣が欲しいのだ。


「ですから、その短剣は私が。レッドは自分に合う剣を探してください」

いつの間にかレッドの剣が短剣に作り直され、リベルテのものになることが決まったらしい。

「いいのか? いや、いいんだろうな。お~い、客の剣をみてやってくれ」

武器や防具を売っているのである、盗まれるにはそれなりに高額で危険な代物であるため、店員が一緒で無いと武器や防具が取り外せないように鍵がつけられている。

店番は会計と修理などの受付のためなのである。

奥から別の店員が出てきて、レッドに剣を見せていく。

店員に要望を伝えながら、許可を取って剣を手にしては戻すのを繰り返すレッド。

そんなレッドを尻目に、すでに短剣として精錬されなおすことが決まったレッドの愛用の剣について話を進めていくリベルテ。


「それでいつぐらいにできますか?」

「いつもの仕事のほかで修理とは別だからなぁ……。急いではないよなぁ? さっき、短剣の仕入れはないって言ったんだからよ。ん~、2日後くらいにきてくれ」

そして、レッドが居ないところで話が決まる。

「わかりました。それではお願いしますね。レッド~、決まりました?」

「さすがに前より落ちるものにはしたくないんでな。これがしっくりきたんだが、この値段なんだよ、いいか?」

別段、二人の稼ぎであり、一々リベルテに許可を得なければいけないわけでもないのだが、実質、リベルテが財布の紐を握っているため、伺いを立てるレッドである。

「ん~、銀貨……15!? でもまぁ、これまでの稼ぎと前回の報酬ありますし、質が落ちるものを買っても……。わかりました、いいでしょう。これをお願いします」

長い葛藤の末、許可を出すリベルテに、なぜかホッとする面々。


鍛冶屋を出たレッドたち。

レッドは新しく手にした剣にどことなく満足げである。

愛用の物を手放す寂しさはあるが、やはり新しい物を手にするというのは気持ちが高揚するもので。

「よっし、気合いれて依頼いくか!」

やる気が溢れていた。

新しい武器の試しもあり、手ごろそうに思われる討伐の依頼があったため、それを受けるレッド。

剣も吟味しただけあって悪くなく、レッドの戦果はとても良く、リベルテはいつもこうならと思わないでもないところであった。


その2日後、とても上機嫌なリベルテが見られた。

高額な報酬をもらえたとかおいしいものを食べたとか、そんな様子は無かったのにである。

リベルテは胸元に大事そうに短剣を抱えていた。

きっとそれが理由なのだろう。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます

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