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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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改めて見直しで気づいた誤字の修正と、地名が抜けていた部分がありましたので修正しました。

「今回はこの採取の依頼にしようと思ってるんだが、いいか?」

「ん~、大丈夫ですかね? このキンセリ花は最近、見かける数が少なくなっていると聞きますよ?」

「マジか!? どこかにちょっとくらいありそうなところ、情報ないか?」

「依頼者の場所って、今度は南の方ですか。そっち側には無いですね。あるとしたら東の山の方でしょうか? まずは、依頼者に会ってどれくらい必要なのか、何時までに必要なのか確認しないと。最悪、達成不可能になりえますから」


二人が向かったのは王都から南に向かって主要な通りから少し外れたところにあるアーキという村。

だが、この村に来た2人はすでに後悔している部分があった。


「依頼で来た? なんでもいいが、長居はしないでくれよ。余所者は信用ならんからな」

依頼のため訪れた二人だが、アーキ村の村長に話をしに行ったらこう返されたのだ。

この村は村の住人以外に排他的な村だった。

過去に何かがあったのか、それとも元々このような考え方の人たちが集まった村なのかわからないが、他からの物や人を受け入れないようにしているようだった。

排他する雰囲気というのはどうしても明るくはならないものである。それらがあって、この村を離れて王都やさらに南のゼオライト伯爵領やコレニア子爵領の街に行く若い人が多く、年配の人が多く見受けられた。


「なんというか、あまり来たいと思えない村ですね」

「いや、普通に依頼以外じゃ来ることねぇよ、こんな村」

不満はあるが、依頼できたからにはさっさと用事をすまそうと依頼者の下へ向かう2人。

だが、なぜか依頼者の家は、村の中でもだいぶ離れたところにあるのだった。


「すいません。依頼できた冒険者です」

家の戸を叩き、訪問の理由を告げる。

ややあって戸が開き、中から少しやつれ気味な女性がでてきた。

やつれてなければ、美人な部類に入ると思われ、いまのやつれ気味も儚げでそれはそれで雰囲気があるともいえた。

その女性にはわからないようにレッドに肘打ちを入れたリベルテは、そ知らぬ顔で女性に冒険者の印を見せて話を続ける。

「依頼を受けましたリベルテと言います。こっちはレッドです。よろしくお願いします」

「わざわざきてくださってありがとうございます。狭い家ですがどうぞ」

狭いと言われた家は一家族が暮らすには相応と思える広さであり、逆に物が少なすぎて広く感じさせるほどだった。


「それでこちらに来ていただいたのは、もう手に入ったのですか?」

「いえ、すみません。まずは確認をと思いまして……。キンセリ花の採取依頼ですが、何時までにどのくらい必要になりますか? キンセリ花ですが、最近、その数が少ないと言われていますので、内容によっては難しいと思われましたので」

「そう、ですか……」

二人は数が問題ではなく、この場に来たことでいつまでに必要なのかが問題だと察した。

確証は取れていないが、採取できるとすれば王都から東のシュルバーンの町から奥にある山で見かけたという情報は得ているので、どうすれば間に合うかだけなのだ。


「キンセリ花は一つあれば十分なのですが。何時までにと言われますと、なるべく早くにいただきたいとしか……」

「失礼ですが、何故急がれるのか伺っても?」

リベルテがそう尋ねると、ちょうど部屋の方から咳き込む音が聞こえた。

「すみません、少し失礼します」

女性はそういって部屋に入り、部屋の戸を閉める。


「見せないようにしてるのかね?」

「というより、隔離しているのでは? 村の人たちも近寄らないようにしてますし、私達がここに近づくことを迷惑そうにしてましたから」

「同じ村の人間相手になんでと思ったが、そう考えるならわかる話か。腹立たしいがな」

二人が依頼者の場所を聞いた際、とても迷惑そうに場所を示され、他の人たちも近寄りたくないという雰囲気が出されていたのだ。


しばらくして戸が開き、女性が戻ってくる。

「すみません。もうお気づきかと思いますが、子どもが患っていまして。治すのにキンセリ花が欲しいのです」

「急ぎで欲しいということは、かなり悪いのですか?」

「前に診てくれた薬師の方は長く持たないだろう、と言っていました」

薬師は薬草や傷薬を作り出し、けが人や病人の治療を生業としている者達である。

聖国であれば治療師と呼ばれる者がおり、癒しの力を持って薬師より治せるとされているが、高額な金額を請求されるため、おおよそ普通の人が治療を頼めることは無い。


「その薬師の方に頼めないのですか?」

「その……もうこの村から出て行かれてしまって……」

あ~、と額に手を当てるレッドとリベルテ。

この村の感じでは薬師であっても、排斥されたのだろうことが容易に想像できた。


「少し、子どもとお話することはできますか?」

「私が罹っていないのでうつらないと思いますが、よいのですか? 冒険者さんたちのお話は息子も聞きたがると思います」

部屋に入ると小さな子どもが、今は落ち着いていると思われる状態で横になっていた。

「だれ?」

「冒険者のレッドって言うんだ。こっちはリベルテといって、俺の相棒だ」

「冒険者!? すごい! どんなことしてるの?」

「そんなにはしゃぐとまた苦しくなりますよ。少し落ち着きなさい、キリク」

高揚して話を聞きたがる子どもを何とか落ち着かせる母親。


直近で話を聞いて楽しそうなフォレストディア狩りの話をするレッド。

「すごい! そんなやつを倒せるくらいに強いんだねっ……」

キリクはとても楽しそうに聞いていたが、話をし終わるくらいになってゴホゴホと咳き込み始めた。

「っ! すみません。部屋から出ていただけますか?」

母親がレッドたちに促す。

「もう、行っちゃうの?」

子どもはそう言ってくるが、その言葉の合間にもゲホゴホと咳き込んでいた。


「仕事できてるからな、すぐ良くなるさ。大丈夫だ。頑張れよ」

そういってレッドたちは部屋を出る。

ややしばらくして咳き込む声は収まり、母親が出てくる。

「キリクに話を聞かせてくださってありがとうございます」

「いや、これくらいなら。それではこれから採取に向かいますので、失礼します」

レッドたちに何かを言いたそうではあったが、そのまま口をつぐんで礼をする母親。


レッドたちは子どもを救うために王都に向かって駆け出す。

王都でキンセリ花の情報を再収集して、確実に手に入れるためである。

念押しの確認でもシュルバーンの町の奥にあるアッソ山で見かけたという情報だったため、馬を借りてシュルバーンへ疾走する。

馬が潰れない程度に途中の休憩を抑え、アーキ村を出てから7日でシュルバーンに着いた。馬がかなり疲れている様子から、ずいぶんと強行した日程であったことが窺える。


「さすがに山に入るなら準備と休息が必要だな」

「このまま山に向かったら、いくら急ぎとは言え、私達の身が危ないですよ」

「んじゃ、必要なものを仕入れてくる。宿頼む」

少しふらつきながら、レッドとリベルテはそれぞれに行動を開始する。

宿を取れたリベルテたちは食事だけを取り、倒れこむように就寝する。

さすがに強行移動は身体に堪え、名物の温泉に入る気力も尽きていたのだ。


翌日、早々と山に向かった二人であったが、キンセリ花は一向に見かけない。

「本当に、この山で、見かけた、のか?」

「さすがに、人から聞いた、だけですからねっ。見かけた、だけですから、どこでとまでは、覚えていない、ものでしょうよ、っと」

山道を登っていく二人。

足場が悪い道で登り下りを繰り返すため、会話も途切れ途切れである。


登った先にあった少しだけ広いところで休憩を取り、周囲を見渡す。

水平にした手を眉にあて、目を細めて遠くを見ていたリベルテが一点で動きを止める。

「あれ、ですかね? であれば、見かけただけと言いますね……。取りには行きませんから」

リベルテが指差した方をレッドも目を凝らすと、崖沿いに一輪だけ咲いているのが見えた。

「あれか……きっついな。だが……」

レッドが荷物を背負いなおして歩き出す。

「あれをとりに行くんですか? 危険すぎです!」

「だが、あれが確実に見つかったやつだ。他の場所に見当たらないんだから、行くしかない。時間がかかればかかるほど、あの子に間に合わなくなる」

そう言われてしまえば行くしかない。リベルテに背を向けてさっさと進むレッド。


「あそこの上まで登ってから降りるか、崖側から登るかになりますが、どっちも危険です。時間はかかりますが上から降りる方がまだマシかと」

「いや、ここから登る」

上から降りるのであれば、ロープを木や大きな石に巻きつけ、ロープをつたいながら行くことができる。

ロープをつかみながらであるので、幾分か安全と思われるのだ。

しかし、下から登るとなると万が一の際に助けとなるロープは自分を支えてくれるような岩や木に巻きつけられない。

代わりに短剣にロープを巻きつけて岩の隙間に打ち込んで、足場と支えの綱とすることになるのだが、体の重みに耐え切れるかと言われると、岩や木に巻きつけることに比べれば不安である。

時間はかかっても上に登ってからロープを伝うというように安全な方を取るものであるが、上まで登る道がどれだけのもので、どれだけ時間が取られるかわからないことから、レッドは崖を登ることを選択したのだ。

ロープと短剣を荷物から取り出して身につけ、手に掴んでも抜けなさそうな岩や土肌を掴んで登っていく。

リベルテはハラハラしながら見守るしかない。

何度か手を滑らせたり、掴んだ岩が崩れ、落ちかけるレッドであったが、少しずつ着実になんとか登っていく。

もうリベルテはあまりの心配に卒倒しかけていた。


「うおっ!? 危ねぇ!! これで終わりたくなんて、ないんだよっ!」

自分を励ますように独り言を呟きながら登るレッド。

あと少しのところにキンセリ花が見えてくる。

キンセリ花に向かって手を一生懸命に伸ばすレッド。

ぎりぎりにまで伸ばした手がキンセリ花を掴んだところで、支えに掴んでいた側の手の岩が崩れる。

無理な体勢で花を取ろうとしていたため、立て直せない。

短剣に巻きつけて打ち込んでいたロープを掴むが、レッドの重さに耐え切れず、短剣が折れる。

中には刺した場所が緩かったのか、レッドが掴むロープに引っ張られ抜けるものもあった。

登る途中で何度か短剣を打ち込んできたが、そのどれもが勢いを止められない。

このまま落ちればレッドが無事で済む可能性は無かった。

岩を掴もうとしたり、足をかけようとするが、落ちる勢いが強く手や足を擦り切る。


「うおおおおお」

このままでは死ぬかもしれない。それを回避するために死力を振り絞る。

ロープを離し、手にしたキンセリ花を咥え、両手両足で崖を掴みにかかる。

靴は擦り切れてボロボロになり、手も擦り切って血まみれにしながら、何とか止めることに成功する。

地面はかなり近くなっていた。

止まったことに安心するレッドであったが、血で滑り掴んでいた岩から手が離れてしまう。

ロープは手放しており、もう掴む力も残っていなかったため、衝撃に備えてレッドは頭をかばうようにしながら地面に落ちる。

衝撃と痛みに声が出ない。

ただ、一度落下を止めることが出来た場所から地面までが即死するほど高くなかったのが、救いとなったのだ。

リベルテが慌てて駆け寄ってくるが、あまりにも動転しているようで足元が覚束ない。


「大丈夫ですか!? いえ、大丈夫なわけ無いですよね。怪我は全身ですよね。あぁ、血だらけですよ!」

傷薬を取り出してレッドの傷の治療を始めるが、レッドの怪我に対して傷薬では十分ではない。聖国の癒しの魔法でなければ、すぐに治せたりなどはしない。

うめきながらなんとか体を起こすレッド。

「無理して起きないでください。傷薬で完全に治る怪我じゃないんですよ!」

「だが、動ける。折角取ったんだ。行かないと」

「さすがにここに来たときのような強行は無理です! シュルバーンで療養しないといけないんですよ、普通は!」

「頼むよ……、リベルテ」

自分が手渡したいのだろうレッドはキンセリ花を放すことは無く、リベルテが肩を貸しながら、やっとの思いで山を降りる。

陽も暮れてきていることもあって、夜の移動は危険だから今日だけでもとシュルバーンで一泊をさせるリベルテ。

レッドは床につくなり、意識を手放した。


翌日、目を覚ましたレッドであるが、何度もリベルテに日付を確認し、宿の主人にまで日付を確認する。

「あれからどれだけ寝ていた? 数日経ってたりしないよな? 今日は何日だ?」

自身の怪我と気を失っていたことは理解していたため、どれくらい寝ていたか不安だったのである。

あまりのうるささにリベルテはレッドの頭に手刀を決めて気絶させる。

それは思わず、物理的に黙らせてしまったほどである。

本当ならこのまま宿で寝かしつけたいのであるが、次に目を覚ましたレッドがもっとうるさくなりそうなことから、リベルテは馬車を借りてレッドを荷台に積んで王都に向かった。

そんなレッドたちがアーキ村に着いたのは、アーソ山でキンセリ花を手にしてから10日後であった。

だが、そんなレッドたちの目の前に映る光景は望んだものではなかった。

依頼者の女性の家が燃えていたのである。


「なんで……」

その場に崩れ落ちるレッド。

家の周りには村の人たちが集まっており、村長の手には松明があった。

「なぜ、こんなことをするのですか……」

怒りを押し殺した声でリベルテが村長に問いかける。

「子どもが病で死んだんじゃ。母親も後を追って死におった。これは病が広がらんように火葬してるだけじゃわ」

村長は冷たく答え、皆をその場から帰し、自身もこの場を去っていく。


この場に残されるレッドとリベルテは、ただ焼けて崩れていく家を見ていた。

家が燃え尽きるのを見届けた二人は、何も語らず王都に帰る。

寄ったギルドでは依頼が完了したことになっており、あの母親が送っていたのだろう報酬が手渡された。

怪我もあってレッドは宿に篭ることになり、リベルテも口数は少ない。

ただレッドたちの部屋の窓際にキンセリ花が花瓶に生けられていた。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます

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