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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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王都で見つかった国が管理していない魔道具であるが、その作成者を探すにあたり、まずその魔道具を仕入れた商会をあたることにしたレッドたち。

だが、思いのほか簡単に見つかり、そして意外な商会であった。


レッドたちが訪れた商会は、オリヴィエ商会。

以前、不正に手を出していたぜリク商会であり、自身の不正をキルケ商会に被せて取り潰させた商会があった。

そのキルケ商会で唯一生き残った娘コルディナは、親が懇意にしていたオリヴィエ商会に保護されていたのだが、折りしも、両親の仇がゼリク商会であることを不正とともにを知ってしまったのだ。

そんな彼女を守る依頼を受けたのが、レッドたちだった。

彼女を守る依頼だったと言う事もあるが、王都で不正に手を染めて自身の私服を肥やし、他者の命まで奪った者をのさばらせるわけにはいかない。

全力で動いたレッドたちは、ゼリク商会の不正を暴き、商会を畳ませるように動いたのだった。


「そういや、コルディナは元気にやってるのかねぇ?」

足を運ぶことなど無い大きな商会を前にして、しげしげと建物を見てしまうレッド。

以前の依頼を思い出しているのは、その依頼で関係のあった商会と言うためだけではなく、思いのほか大きな店構えを前にして気後れしており、逃避でもあった。

「そうでしたね……。レッドはあまり足を向けない商会ですし」

当のリベルテは、商会の中に入ったことこそ無いが、どんな商会であるかと情報を集めているので、店の大きさについては前もって知っていたのだ。

心なしか、少し嬉しそうでもあった。

二人の目の前にあるオリヴィエ商会であるが、この平民区の中にあってかなり大きな商会であり、客は貴族しか入れないのではないかと思えてしまうほどである。

実際にはそのようなことは無く、貴族だけでなく平民であっても買い物に足を運んでいる。


「いらっしゃいませ」

入るなりに店員から挨拶され、ビクッとしながら、おぅ、とギクシャクとした返事をするレッド。

心構えも無しに声を掛けられたからではなく、入った瞬間の客のほとんどが女性だったことが理由であった。

オリヴィエ商会は女性の化粧品を取り扱っている店で、その品質と種類の多さで、貴族だけでは無く平民の女性たちも買い物に来ているのだ。


気が付けば、リベルテも商品についてあれこれと店員に説明を聞いていて、そういう店だからなぁと頭では理解できるのだが、如何せん残ったレッドは居場所が無く、落ち着かない。

一人突っ立っている人は目立つもので、店員が寄ってきて話かけてくるのだが、来られても男はこういった店ではどのようにしていればいいのかわからない。

レッドにはわからない化粧品の説明をされたり、女性に贈るには最適だと言われても、買い物をするつもりで来たわけでは無いので困るだけである。

リベルテに助けを求めようと視線をさ迷わせるが、試供品を試した後なのか、とてもうれしそうに一つ買おう姿が目に入った。

嬉しそうなリベルテに無理に仕事をさせるのも気が引けて、レッドはなんとか自分で用件を済ませようと決意する。


「あ~……、いや……、すまない。依頼で人を探しているんだ。オリヴィエ会頭にお会いできるだろうか? 俺は冒険者のレッドと言う」

決意したものの雰囲気に飲まれながらであり、多少しどろもどろになりながら、ここに訪れた理由を伝え、レッドは冒険者の証を提示する。

証を確認した後、店員が確認してまいりますと奥に去っていった。

その姿を見送りながら、レッドは一つ息を吐く。

強敵と対峙するくらいに緊張していたのだ。


このような大きな商会ともあれば、会頭にすんなり会えるなど難しい。

相手は大きな商会を取り仕切っているのだから忙しくて都合がつきにくいものになるし、何より余程な相手でもなければ、時間を割いてまで会おうとするほど立場も軽くないのだ。

忙しいと一蹴されるて会えないか、代わりに応対してくれる人が来るか、相手の都合の良い日に改めてとなる。

レッドもすんなり会えるとは思っていなく、代わりに現場を仕切っている人が応対に来てくれれば良いなと考えていた。

最悪、今回の依頼は城からの要請であるため、それを伝えれば相手も追い返すのは躊躇い、しぶしぶながらも対応してくれるだろうと言う考えもあったりする。


買い物を終えたらしいリベルテが、ニコニコとした表情でレッドの側に戻ってきた。

ちょくちょくと自分の頬辺りを触っては、また笑みを強めていて、余程に嬉しいのがわかってしまう。

そんなリベルテを静かに見ていたレッドは、リベルテに身を寄せて小声で感想を伝える。

「まぁ、なんだ……。すごく、良いと思うぞ。気に入ったなら、定期的に買おう。俺も、出すから」

冒険者の生活は日々を送れるかどうかの稼ぎであり、依頼によっては大きな危険を伴うものである。

冒険者は欲に素直に生きるその日暮らしをするか、冒険者を引退することになった後の生活を考えて生活するかに分けられるものだ。

レッドたちは後者の生き方をしてきている。

何時、怪我で働けなくなるか、冒険者の厳しさを分かっているからである。

そのため、レッドは伝えた感想が自身でも珍しいと自覚していて、少しだけ首あたりが暑い。

女性ばかりの店の雰囲気に、おかしくなっているだけだと、心の中で言い訳してみたりしていた。

周囲の女性客は買い物に集中していて、こちらを気にしていないはずであるが、妙に静かに感じられ、顔にも多少の赤みを帯びてくる。

では、言われたリベルテはと言うと……、レッド以上顔を赤くしていた。


「お待たせしました。申し訳ありませんが、会頭は忙しく手を空けられないため、代わりに私がご用件を承らせていただきますが、よろしいでしょうか?」

「お、おぅ」

二人して別なことに意識を寄せていたせいで、店員に話しかけられて返事した声は若干うわずってしまった。

一呼吸置いて、落ち着きを取り戻したリベルテは声をかけてきた相手を見て、驚きの表情となってしまう。


「コルディナさん……」

「お久しぶりです。リベルテさん、レッドさん。その節はお世話になりました」

しっかりとお辞儀をするコルディナは、姿勢も綺麗であり、商会の顔として貴族たちの前に出ても謗られたりはしないだろうと思えるほどだった。

「あれから、見習いから昇格して、お客様の前に立てるようになりました。少しでもオリヴィエ会頭に恩返しできるようにならないといけませんから」

あの依頼の後も前を向いていたコルディナであったが、以前に比べるとその目は以前よりもはっきりと前を向いていて、過去は過去として抱き、未来へ進んでいるのが見て取れた。


「両親が残してくれた物も見つかって、ゼリク商会が持っていた客層に手を伸ばしたことで、オリヴィエ商会はここまで大きくなったんですよ。おかげで、毎日ついていくだけで手一杯なんですけど、ね」

意気込んではいるけれど実は大変なんです、と表情を変える様も人を惹きつける雰囲気を作り出して、将来の会頭の素質を見せ付けていた。

「そうですか……。コルディナさんなら夢を掴めますよ」

ほんの少しだけ触れ合った縁だけの相手であるが、しっかりと前へ進んでいく姿は、羨ましくあり、とても眩いものであり、心から叶って欲しい未来だと思える。

レッドもリベルテの言葉に頷いていた。


「それで、本日はどういったご用件なのでしょうか? 人を探していると伺っていますが、私どもの商会では人探しは……」

商会の小部屋に案内されたレッドたちは、そこでギルマスからの依頼であった魔道具について確認する。

「最近、状態を保つ効力を持つ魔道具が出始めたそうなんだが、知ってるか?」

「ええ。その魔道具を仕入れたのは私ですから。画期的な魔道具だと思いませんか? まだ小さいものしか作れないとのことで、珍しい物を好まれる貴族様しか買われていませんが」

確認のために聞いた質問であったが、間違いないことがこれでわかった。

元々、城がこの魔道具に気づいたのは、それを買った貴族が自慢して回ったからであり、その貴族からオリヴィエ商会で買ったと言う情報は得ていたのである。

だが、その魔道具を持ち込んできた相手と交渉したのがコルディナであると言うことに、顔を見合わせるレッドとリベルテ。

お互いに順調に手がかりが掴めそうな事態に、思わず確認してしまったのだ。


「画期的な物ではあるよなぁ。だが、小さい物しか作れないのか。……依頼主側なんだが、より大きな物にしたり、皆が手に入れられるように量産したいらしくてな。実際に会って話をしてみたいんだが……、教えてもらえるだろうか?」

コルディナが考え込む。

魔道具を持ち込んで来たので買い取りはしたが、製作者はオリヴィエ商会の専属と言うわけでは無かった。

すでに他の商会にも持ち込んでいるのかもしれないが、その人物と会って話をしたのがオリヴィエ商会だけだったならば、その付き合い次第では今後、利益の独占に繋げられるかもしれないのだ。

しかし、不用意な独占と言うのは悪い評判に繋がりやすい。

レッドが言うように、魔道具が改良、改善され、普及することが出来たならば、人々の暮らしに大いに役に立つはずの物である。

大商会と言えるオリヴィエ商会であるが、自身の商会だけで改良、改善手を出せる代物では無いことも魔道具であることから分かっていた。

だからこそ、商会の利と損を考慮し、王都での影響を考えて出した言葉は、商会の保身を得る内容となる。


「その方の名前はお教えできません。お客様や商品を持ち込んできてくださった方々のことを安易にお話するのは、商会としての信用に関わるからです」

コルディナの言葉にレッドたちは頷く。その言葉は当然だからである。

もし安易に教えられたなら、それはそれでオリヴィエ商会を、コルディナを疑わなくてはいけない。

商会としての信用を疑うことになるし、偽の情報なのかもしれないとも疑わなくてはいけなくなるのだ。

商人とは利益を求める職である。

今回のような魔道具であれば、王家や貴族に取り入って利権に食い込もうとするのが多いだろう。

だからこそ、利益を他者に渡さないように偽の情報を教えたり、もしかしたら嗅ぎ付けてきた相手として、レッドたちを殺すための話かもしれなくなるのだ。

レッドたちを殺す意図は無いにしても、嘘を言っても、今回のような人探しなら隠し通しやすいものでもある。


例えば、情報どおりにその場所に行ってその人物が居なかったとしても、すでに別の場所に移ってしまったのかもしれないですね、と言えばそれで逃げ切ってしまえるし、一応の情報は提供したのだからと、その見返りを求めても不正と言えないのだ。

レッドたちが最初に人探しの依頼に難色を示していたのは、この面倒くささであった。

情報が信用できるかどうか精査するのは、どんな依頼でも同じであるが、魔道具と言う大きな利権に絡みそうな物は、貴族であったり商人であったりを相手にすることになり、情報を集める段階からお互いに凌ぎあいをしなければいけなくなる可能性が高いからである。

ただ、今回はコルディナについてレッドたちは知っているし、今のように商会として出来ないことはある、とはっきり言ってくれる相手は信頼できると言える。


「その方は他の場所から王都に来られたとのことで、身が確かな人で無くても他の人から干渉されにく場所をお教えしました。まだ王都にいらっしゃるのであれば、その辺りに居られるかと思います」

以前よりは国境が開け、グーリンデから来る人も居ないわけではないが、国同士で取り決めがなされ、かなり厳しく制限されている。

国の状態から考えれば、肥沃な土地が多く、食べ物が他の国より多いオルグラントに、グーリンデから人が流れ出てしまわないようにするためであることは想像に難くない。

住む場所も国が取り決めたところで、不用意に機密とも言える情報を取り扱うような場所に入れないとなっているらしいのだが、この人物はその取り決めに該当していないようだった。


この情報の時点で、レッドは椅子に背をもたれさせ、天井を見上げてため息をついてしまう。

より可能性が高まったと言うことだからだ。

「コルディナさん。貴重な情報をいただき、ありがとうございます」

レッドたちからオリヴィエ商会に、コルディナに謝礼として出せるものは無い。

元々、謝礼ありきで教えてもらう話にしていないこともあったが、レッドたちのこれまでの縁の結果と言える。

だが、この依頼の報告の際には、オリヴィエ商会への配慮を願おうと決めた二人であった。


「商会としては利益を独占したい考えはありますが、王都で暮らす人たちの生活が便利で良いものになる方が、巡って私たちの利になりますから」

笑顔で見送ってくれたコルディナに礼をして、二人はこの王都にあって、比較的治安の悪い地区へ向かう。

身が確かでは無いと言うのは、身寄りが無い者達や家から捨てられたり逃げてきた者、以前に罪を犯した者たちが集まっている場所に集まるものである。

と言うより、他の場所ではなかなか受け入れてもらえなかったりするし、受け入れてもらえたとしても肩身が狭い生活となってしまうからだ。

誰でも隣に身元もわからないような人が居ることを良しとは言わないだろう。

もしそれが、罪を犯した者であったなら、隣で生活している自分が危ういことになるかもしれないのだ。

「何事もなく済めばいいんだがなぁ」

「それはどっちが、ですか?」

その場所に向かっているレッドたちが襲われなければ良いと言う意味もあれば、先に向かった『神の玩具』と思われる人物が、その力で何かしらの問題を起こしていなければ、と言う意味を含んでいた。

口にすれば、どちらも本当になりそうで、リベルテの質問にレッドは答えない。

代わりに違う話を振る。


「あいつを連れてった方が良いかな?」

「ん~、ついてきてくれますかね? それに来てもらった方が良いのかどうか……」

早く動いた方が良さそうではあるのだが、急ぐと危ない物を突いてしまうかもしれないのだ。

焦っても仕方が無いと、レッドはリベルテと話をして近くの酒場に向かう。

昼を兼ねた休憩を取ることにしたのである。


昼ご飯を求めて集まっている人で溢れる店内。

豊穣祭後もまだ多くの食べ物が出回っていて、焼きたてのパンの匂いが二人の意識を誘っていた。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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