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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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皆様はじめまして。

皆様の小説を読ませていただいて、自分も何か書けたら、残せたらと思い至って書き始めました。

よくある話で書き続けようと思っていますので、よろしくお願いします。

「お~い、若旦那。景気はどうだい?」

少しくたびれた服を着た中年にさしかかっている男性が、まだ日も高いというのに酒場でエールを片手にボケ~っとしている青年に声をかける。

「ぼちぼちだ。だがまぁ、悪くはないな」

そういって青年はエールを持った手を上げて答え、そのままエールを喉に流し込む。

「悪く無い。日も高いうちからエールを飲める。そんな日を過ごせる。悪いわけが無い」

活気に満ちた喧騒を音楽に、賑わう街どおりを見ながら青年は独りごちる。

いや、独り言を言ったつもりだった。


「悪いに決まっています。仕事をサボって独り飲んでいることが良い事なわけないでしょう!」

そういって青年からエールを奪い、頼んであったつまみを全て掻っ攫った後、一気にエールを飲み干す。

「俺の酒とつまみがっ!! なんてことしやがる、リベルテ!」

「はいはい。さっさと仕事に行きますよ、レッド」

いきなりの惨状に頭を抱えた後、その惨状を引き起こした女性につかみ掛かる青年に対して、リベルテと呼ばれた女性ははレッドと呼んだ青年の腕を逆につかんで、引っ張って連れて行こうとする。


「行くったって、まだその時間じゃないだろ」

「何を言ってるんですか。準備だっていっぱいあるんですよ」

「そこは器用なおまえがやってくれれば……いえ、何でもありません」

殺気に満ちた目を向けられ、あっさりと言葉を引っ込める。

よくあるぐうたらな亭主を引っ張っていく奥さんのような一面であり、周囲にちらほらといた客たちも微笑ましげに眺めていた。

ここオルグラント王国の王都イーシュテルの平民層が利用する酒場でよく目にするもので、まだ酒に酔っている人が少なかったためか、特に茶化した野次が飛ぶこともなく、皆がいつもの日常の一コマとなっている。


深夜だと言うのに一台の馬車が宵闇の中を疾走し、見た目にぼろい建物の前で止まる。

止まった馬車から数名降り立ち、建物の中に荷物を静かに運び入れているのを見ている姿があった。

「あれか」

「私の情報正しかったでしょう?」

向かいの建物の角からそっと顔を覗かせ荷物を運び込んでいる者たちを見ていたのは、レッドとリベルテだった。


「はいはい、さすがさすが。んじゃ、サクッと行きますか」

「ちゃんと褒めてください。それじゃ一人も逃がさないでくださいね」

そういってリベルテは静かに荷物を運び込んでいる建物の裏手に回っていく。

レッドはその姿を横目で見送り、深呼吸を一つゆっくりと行う。

ここから先は命の危険を伴う戦い。

剣を抜いて柄を持つ手にぐっと力を込める。

「行くかっ!」


ダッと駆け出して、手に荷物を持ってとっさに動けない一人に一撃を叩き込む。

一人倒れたことで周囲にいた者たちも慌てて戦闘態勢に入る。

だが、身構え、心構えをとっても全員が同じように取れるわけではない。

もたついている相手を目掛けて襲い掛かり、一人、二人と倒していく。

ここまで一気に動いたことで息が上がり、呼吸のため動きが止まる。

そんな時間は相手に準備の時間を与えるだけとなる。


バラバラに居た者たちが落ち着きを取り戻し、ゆっくりとレッドを囲むように動く。

ここに至るまで彼らは言葉を発さず、その姿も頭に頭巾を被り、口元も布で覆って徹底して姿を隠している。

確実に後ろ暗いことしてますよ、と言わんがばかりである。


都合三人ほど倒しているとはいえ、まだ四人も残っていてレッドを囲んでいる。

三人も倒せてはいるが、決してレッドが強いわけではなく、あくまで不意を突いただけ。

どんな屈強な戦士であっても不意を突かれれば即死もありえるし、耐えたとしても傷は負う。そこから立て直すのは厳しいものだ。

彼らも一人ひとりが弱いわけではない。

こんな深夜に動き回り、全員が同じような格好で顔を隠しているのだから、どこかしらの統制が取れた一派である。弱いわけが無い。


囲まれたこの状態となった今では、レッドが1人を切り伏せたとして、がら空きになった左右と後ろから攻撃を仕掛けられれば、それで終わってしまうことだろう。

そんな状況でレッドは怯むことなくニヤッと笑った後、自分の正面にいる相手に突っ込んだ。

囲んでいた四人も怯むことなく対応に動く。

正面の一人がレッドの剣を短剣で受けるが、レッドの体重と勢いがのった剣を受けて折れ、その勢いのまま叩きつけられる。

それを省みず、左右の二人がその隙を逃さぬよう左右から短剣を投げつける。

その攻撃を予想していたレッドは、身体の筋肉を総動員して苦しいながらも体勢を変えて短剣をかわすが、無理な体勢はどうしようもなく倒れるこむ。

レッドの後ろから迫っていた最後の一人がそこを逃さず斬りかかり、崩れるように倒れた。


「遅ぇよ」

「いや、決めた時間より早く突っ込んだだけです。この鳥頭」

軽口を叩きながら、起き上がったレッドとリベルテが左右それぞれを相手を切り伏せる。

「ふぅ……倒したやつらまとめて俺が縛っとくから、確認頼む」

「はいはい」

今の戦いの中で怪我はしているだろうが死んでいるものはいなかった。

もっとも怪我しているだろう者の手当てをしっかりとしないと、そのまま死んでしまう可能性はあるのだが。

武器を蹴飛ばして倒れた男たちをまとめて、それぞれが身につけていた頭巾や顔布を使って縛っていく。

見える顔はやはり悪人面だった。

「やっぱりこれ盗品ですね。このネックレスなんて市場に出回るわけ無いじゃない。宝石が一品物だし、ここに鳳の紋様入ってるし……」

「うっし、じゃあこれでひとまず完了だな。あと時間はどれくらいだ?」

「予定通りならそろそろ兵が来るはずですね」

「こんだけ証拠置いてるし、犯人どもも転がしてるんだから大丈夫だろ。帰ろうぜ」

「はぁ~疲れました。寝る前に1杯お酒おごってください。助けたんですから」


そのすぐ後に兵が到着し、馬車の積荷と倉庫を検められた。

盗品であることが確認され、転がされていた盗賊一味と思われるものたちは当然、全て連行される。

また、その倉庫を所有していたゼリク商会に強制捜査が行われ、これまでの羽振りが良かった理由が盗品の売買だったことが判明したため、ゼリク商会は畳まれることとなったのである。

比較的新興の商会でここ最近羽振りがよかった商会だけに人々の話題に上がったが、その商会をよく知る者たちからは安堵のため息が漏れていた。


「仇は取れたよ。お父さん、お母さん……」

王都から離れた場所に並べられた石に泣きながら拝んでいた少女は、コルディナ・キルケという。

今はオリヴィエ商会の見習いになっている少女だが、親はキルケ商会というこの街で中堅どころに位置する商売人で、貧しい平民相手にも良心的な商売で人気があった。

しかし、ある商売の帰りでゼリク商会の馬車を見かけてしまったのが運の尽きとなってしまった。

その馬車がかなりの速度で駆けていくのを見て、駆け出す前に居たであろう場所を覗いてしまったのだ。


そこには壊れた荷車と馬車の御者、そして同じ商人と思われる男性が倒れていた。

御者はすでに事切れていたが、商人はまだかろうじて息があった。

商人は途切れ途切れであるが、荷物を盗られたこと、荷物の中に貴族が注文していた品があり、その貴族の紋章を伝えたところで力尽きてしまった。

さきほど駆け抜けていった馬車がゼリク商会のものであったことに気づいたコルディナの父は、ゼリク商会を調べていたのだがゼリク商会にばれ、強盗の罪を被せられて殺されてしまったのである。


キルケ商会から盗品が出たこと、その罪によりキルケの父が殺されたとの話はすぐさま飛び交った。

コルディナたちは潔白を証明しようにも盗品がキルケ商会の管理する倉庫から出たことになっており、さらに父親が亡くなっていることもあり、どうにもできなかった。

商人は信用が大事なもので、盗品を扱っていた商会など普通の人たちは相手にしなくなる。

キルケ商会は畳まれることとなり、失意のうちに母親も亡くなってしまう。

懇意にしていたオリヴィエ商会の会長だけがコルディナを引き取ってくれたのである。


そして、しばらくおとなしかったゼリク商会であったが、ここに最近になって急激に羽振りが良くなり、商圏を拡大させ始めた。

それが父になすりつけた盗品の売買であろうと思い立ったコルディナは、ゼリク商会の不正を暴こうと近づくが、ゼリク商会が雇った暴漢に襲われてしまう。

そこをレッドたちが助け、ゼリク商会の不正を暴く手伝いという依頼を受けたのであった。

そして今、キルケ商会は無実であり、ゼリク商会によって罪を被せられたことが明るみに出たのである。


コルディナは両親に報告に来ていたのだった。

「よ、こんなところにいたのか」

「そちらがご両親の?」

レッドとリベルテが現れる。

以前、王都から離れたところに両親を埋葬した話を覚えていてくれたのだろう。

リベルテは手に持っていた花を手向け、レッドたちもコルディナの両親の墓に手を合わせる。


「これからどうするんだ? 両親の信用は取り戻せたんだ。キルケ商会二代目、立ち上げてみるか?」

墓に手を合わせ終わったレッドがコルディナの方を向き、問いかける。

コルディナは両親の墓を見た後首を横に振った。

「今の私では商会を切り盛りできる頭も人脈もありません。それに、ずっと私を助けてくれたオリヴィエさんに恩返しがしたいんです」

「そう……」

リベルテも手を合わせ終わったのかコルディナを見てやさしく微笑む。


「両親の遺志は継ぎたいと思ってます。貧しい人たちの助けになることをしていきたい。そのためにもオリヴィエ商会を助けつつ、のし上がってやるんです」

そういって夢を語るコルディナの顔はこれまでになく、いい笑顔だった。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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