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4話

「あなたは……あなたは、なんなんですか……?」



 メガネの似合う、小さくてかわいらしい彼女は、約束通り会ってくれた。

 ただちょっと予想外なのが、俺はまた牢屋の中で、今度は手かせ足かせまでつけられていることと――


 彼女の周囲に、屈強そうなドワーフの男連中が、武装した状態でいることだ。

 ……まあ、『二人きりで』とは言わなかったし、しょうがないだろう。



「三十件の困りごとを解決したよ。これで俺も君の手伝いができる」

「……なにを言っているの、あなたは……?」

「…………いやいや。え? もう忘れたの? ドワーフは記憶力がない魔族……ってわけじゃないんだろう? 覚えてるよね、俺との約束!」



 さすがに、記憶が一日しかもたない種族だとか言われたらお手上げだ。

 一緒に旅をするのに、毎日同じ会話を繰り返されても面白くない。

 俺は記憶力がいい方なので、同じ話題はすぐ覚えてしまって、なかなか忘れられないんだ。



「三十件の困りごとを解決したら、君の手伝いをさせてくれるって、言ったじゃないか!」

「……確約はしていません……可能性を示しただけです……それ以前に、こんなことをして、まさかあたしが、あなたを仲間として迎え入れると?」

「……また俺、まずいことしたの?」



 よくあるんだ。

 よかれと思ってやったことが、なぜか人の機嫌を損ねるっていうの。



「あたしの街で、三十人も殺しておいて、よくそんなことが言えますね……?」

「……うーんと……ひょっとして、なんだけど……確認していい?」

「……なんですか」

「殺すのはダメだったの?」

「………はい?」

「いや、だって、解決すべき問題ごとの種類と、解決の方法まで、決めなかったじゃないか! そりゃあ一番手っ取り早い方法をとるでしょ!?」

「……あなたには、常識がないんです……ね」

「常識ってなんだよ!? いっつもそうだ! みんな、俺がなにかするたびに『常識』とか『当たり前』とか使うけどさあ! 誰一人『常識』ってヤツの正体を俺に教えてくれなかったじゃないか! 理不尽だよそれは!」

「……あなたは、ここで死ぬべき者のようです」



 武装したドワーフたちが、俺を取り囲む。

 小さくてずんぐりした種族だけれど、手かせ足かせをはめられて座る俺は、彼らに見下ろされるしかなかった。



「……でも、意外です。あなたはどうやって、西の砦のみんなを騙したんですか? 普通、あなたみたいな者、西を任されている人たちは見逃さないはずです」

「騙してないよ! 話し合ってわかちあっただけだ!」

「嘘ですね」

「嘘なんかついてない! くそ、どうしてみんな、俺のことを嘘つきよばわりするんだ!?」



 どうしてこんなにも信用してもらえないのだろう?

 生まれつきそうだ。俺の言葉はいつだって嘘と決めつけられてきた。

 どんなに誠実に生きても、どんなに地道に努力しても、報われない。


 人が絶望に浸っているっていうのに、空気を読まない足音が牢獄内に響き渡る。

 新たに現れた武装ドワーフが、メガネの子に耳打ちした。

 メガネの子が、俺をにらみつける。



「……あなた、エルフ砦の人たちを、皆殺しにしたんですか?」

「してないよ! そんなひどいことするもんか! 信じてくれよ……! どうして俺が、そんなことしなきゃいけないんだ……!」

「あなたのことは信じられません」

「じゃあいいや」



 まーたこれか。

 また俺は信じてもらえない。

 嘘をついていたからって、信じてくれないなんて、彼女にとって俺はどうでもいい存在なんだな……



「俺でーす。俺がやりましたー。俺がエルフを皆殺しにしたよー」

「……やっぱり」

「信じるのかよ! はぁ!? 俺のこと疑ったじゃん! エルフ殺してないって言った時は全然信じなかったのに、なんでエルフ殺したって言った途端信じるんだ!? 頭おかしいだろ!?」

「……なにを言っているんですか、あなた」

「くそ、そうだよなあ! いっつもそうだ! お前らの中ではもう、俺に質問する前に結論が決まってるんだ! 俺を信じるか信じないかじゃない! 俺がお前たちの決めておいた結論を補強する証言をするかしないかしか見てないんだろう!? ヒデェよ……あんまりだ……君はそんなことしない、他人の心を気遣える優しい子だと思ったのに……」

「……これ以上コイツと会話したくない。殺して」

「いや、違う。みんな(・・・)その女の子を殺せ(・・・・・・・・)

「え?」



 ドワーフたちが、手にした武器をメガネの子に向けてふるう。

 メガネの子はきょとんとした顔のまま、死んだ。



「うわあああああ! ああああああああ!」



 あまりに悲しくて、叫び声をおさえられなかった。

 あんなにカワイイ子だったのに!

 賢そうで、偉そうで、メガネの似合う、大人なのに子供みたいな笑顔を浮かべる、優しい子だったのに!

 死んでしまった!



「くそ……くそう……! どうしてだ……! どうして、俺を信じてくれないんだ……! どうして君の優しさを、俺にだけは向けてくれないんだ……!」



 手かせと足かせを引きちぎって、何度も地面を叩く。

 やりきれない。


 だっていうのに、心を盗まれたドワーフたちが、じっと俺を見下ろしてくる。

 俺は悲しみにひたっていたいのに、顔がむさ苦しくて台無しだよ!



「見るな! 見るなよ! 俺は今、悲しいんだ! うわああああ! あああああああ! ああああああああ! ……はあ。よし、悲しんだ。次は楽しいものが見たいな。そうだ、お前たち、殺し合ってみてよ」



 ドワーフたちが、手にした武器で殺し合いを始める。

 全員重武装なものだから、ガツンガツンうるさいだけでなかなか決着がつかない。



「考えろよな! 鎧脱がすとか、鎧の隙間狙うとか、武装してなさそうな市民狙うとか、そういう機転をきかせろよ! クソ! 心を盗まれたやつはこれだから面白くないんだ! もうお前たち、勝手にしろ! 死ね! 勝手に死ね!」



 頬に伝う涙をぬぐいながら立ち上がる。

 俺の荷物どこだろ。


 魔王のもとに向かおう。

 俺は勇者パーティー最後の生き残りだから。

 華々しい、報われた人生のために、俺は魔王に降ったフリをして、魔王を殺さなきゃいけないんだ。

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