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2話

 なんかめんどくさくなったから、戦士と僧侶は捨ててきた。


 でも、今は後悔してる。


 人の首って意外と重くてさあ……



「あー……こうなんだよなァ……いつもこうだ。俺は考えが短絡的でいけない……よし、反省した! 次から気を付けよう!」



 次の荷物持ちは長く使おう。

 できたら女がいいけど、まあ、最優先は『荷物持てそうな感じ』だ。

 ……あーでも、俺ってば、今考えても実際に荷物持ちを手に入れる時になったら忘れて、その時のノリで選びそうなんだよなァ……


 刹那的っていうの?

 蓄財とかそういうの苦手なんだ。



「――で、貴様はなんなのだ」



 しゃがみこんで深く人生について悩んでいると、声がかけられた。

 ……あ、思い出した。


 そういえば今、魔族の拠点の前にいたんだわ……


 そびえ立つ三階建ての砦。

 石造りのでっかいその建物は門構えもすっげー立派で、きっと建てた魔族だかモンスターだかは細かく色んなもんを考えて設計したり組み立てたりしたんだろうなーと思って、気持ち悪い。


 よくそんな飽きずにしつこく考えることができるよなァ……

 一つのことを長く考えてると、背中がムズムズしてきて、俺はダメだわ。



「おい、貴様、聞いているのか?」



 バルコニー……じゃねーな。なんだろアレ? 弓射る用のやぐら? ベランダ? の上から俺に声をかけるのは、魔族の女だ。


 たしか、『エルフ』とかいう人種だったか。

 耳がトガってていい感じのアレだ。

 背も高いし、美人だし、魔族はいいよなあ、綺麗どころみんな魔族じゃん。


 金髪碧眼は見飽きたからいいです。

 王都とか、王族から町民からみんな金髪碧眼で目が痛い。



「あー悪い悪い。美人なお姉さん。聞いてるよ。だから射らないで」

「……勇者の首を持っていると聞いた」

「俺、ロブっていうんだけど、お姉さん、名前は?」

「いいから勇者の首を見せろ!」

「イヒヒヒヒ! なにそれスッゲー! 怒っても美人でやんの! ……あ、ごめん、ごめんて。無言で弓を引き絞らないで。はいはいこちらでございます、お納めくださいまし」



 ふろしきを解いて、勇者の首を掲げる。

 鋭い目の美人はますます目を細め、じっくりと勇者の首を見て――



「……本物に見えるな。……いいだろう! 近くで検分してやる! 門を開けてあの男を招き入れろ!」



 でっかい石造りの門扉が、ズゴゴゴゴゴという音を立てて、ゆっくりと上へと開いた。

 すげー大仕掛けがありそう。



 招き入れられた砦の中は、綺麗どころが大量にいた。

 トガリ耳で背が高くて体が細くて金髪碧眼だ。

 ヤベーな、全員同じ顔に見える。

 服まで緑色の体にぴったりしたアレだし、コイツらはどうやってお互いを識別してるんだろう?

 もっと髪染めたりアクセサリーつけたりしろよ。



「君たちみんな美人だよなあ。髪とかすげーさらさらなの! 触っていい? 耳」



 エルフたちに近付いて問いかけるのだけれど、誰も俺を相手にしてくれない。

 警戒したように、俺の手が触れそうになると下がるだけだ。

 一人の例外もない。

 いいじゃん耳ぐらい。俺のも触っていいからさ……


 そんなことをしていたら、大量のエルフどもが左右に分かれて道を作る。

 その向こうから現れたのは、さっきの怒り顔も美人のエルフだ。


 お、識別できる。

 美人ぞろいのエルフたちの中でも、ひときわ鋭い目をしていて、ひときわ気の強そうな美人だからだろうか?

 それともおっぱいデケーからかな。

 おっぱいか。



「貴様、勇者の首を差し出し魔王軍に降りたいということだが」



 おっぱいがしゃべる。

 俺は――こういう時どうすりゃいいかわかんねーな。

 勇者の首持って魔王軍に降ろうとした経験はないんだよなあ。


 二度目の人生とはいえ。

 一回目は辺境でやることもなく盗みの腕を磨いてただけだし、断片的な情報は流れてきてたけども世界がどうなったかも詳しくは知らないありさまだ。


 まあでも、言葉が通じてるしなんとかなるでしょう!



「そうそう。あ、あと聖剣も持ってるッスよ」

「……勇者を殺して、聖剣まで奪ったのか?」

「違う違う、逆逆。聖剣を奪ったのが、先。勇者を殺したのは、あと」

「……貴様、何者だ?」

「ロブだってば! ……あーあーそういうことね。理解した。『勇者パーティーの盗賊』って言うタイミングでしょ、今」

「……裏切ったのか、勇者を」

「ほらあ! 聞きたいこと教えたでしょ? っていうわけで魔王様にお目通り願いたいんだけど、手続きとか必要? 首持っていけばいい?」

「魔王様にお目にかかることはかなわん。――貴様はここで死ぬからだ」



 おっぱいが片手をあげれば、周囲にいたエルフどもがナイフを抜いた。

 遠くの方では、高い場所で弓に矢をつがえて、やじりを俺に向ける連中も見える。



「貴様のような者を魔王様に近付けられるものか。……裏切り者などと。信を置けぬ。経歴も――貴様の人格にもだ!」

「おいおい、俺がなにしたよ? 会って、話して、それだけだろお? 二言三言交わしただけで相手の人格を見抜くとかできないと思うよ、俺は」

「自覚がないようだが、貴様は『二言三言交わしただけでわかる』ほどの人格破綻者だ」

「ヒデーなあ! くそ、いっつもそうだよ! いっつも俺に問題があるみたいにみんな言いやがってさあ……! そりゃあ、俺は盗賊だよ! でも、盗賊はギルドもある正式な職業じゃないか! おまけに俺は勇者パーティーに入るぐらいの実力者だよ。一生懸命盗んで、地道に能力上げてきたの。努力の人だよ!?」

「やれ」



 話は聞いてもらえません。

 アアアーアアアー悲しい、悲しいので歌います。



「カナーシミノー」



 ヒュンヒュンヒュンヒュンと矢が飛んでくる。

 エルフどもがナイフを手に、おっぱいを中心に方陣を布いた。


 困った。

 俺の『盗む』は『手がとどく範囲のもの』しか奪えない。

 手がとどく範囲だったら、実際に手を触れなくたって盗めるんだが、ああやって遠くでジッとされるとどうにもならない。


 いやほんと、困った。

 最初に近付いた時、エルフたちの能力を盗んでなかったら死んでたよ。

 勇者の能力と戦士の能力と僧侶の能力を奪った程度じゃあ抜けられない危機だったね。



「……馬鹿な」

「そのさあ、『馬鹿な』ってやめてほしいんだよねえ。俺は自分の危機に応じて、飛んできた矢を(・・・・・・・)全部(・・)はじき落とした(・・・・・・・)だけじゃん? 他に危機を脱する方法ある? ないでしょ? 俺も一生懸命考えてやったんだから、あんまり馬鹿にしないでほしいな」

「…………頭のおかしな男め。急所を狙い同じタイミングで着弾する百の矢を弾き落とすことが異常だといっているのだ! しかも、我らエルフの矢を!」

「知らないよエルフの矢とか言われても。なに、なんか特別なの?」

「――白兵戦部隊、男を包囲し、殺せ」



 おっぱいは命令を下した!

 しかし、命令されたエルフたちは膝から崩れ落ちた!



「……なにをしている?」

「俺に聞いて。俺のせいだから。部下が意外な行動をした時、まず部下に原因があるんじゃないかと疑う上官はろくなもんじゃないよ」

「……なにを、した?」

「みんなが動こうとした瞬間、全員に後ろから膝カックンした」

「…………は?」

「膝カックンって魔族にない?」

「………………」

「膝カックンっていうのはね、こう……立ってる人の後ろに回りこんでですね、俺の膝で立ってる人の膝の裏をこう……するとカクンてなるんですよ」

「……後ろに回りこん……は?」

「見えなかったでしょ。今の俺には、勇者の速度と、戦士の速度と、僧侶の速度――はまああいつおっそいからいいけど、それと、そこにいるエルフ全員の速度。あと、俺が最初から持ってる速度が合わされば、アンタに見えない速さで動くことぐらい可能なんだよね」

「……」

「イヒヒヒヒヒ! そうそう、おどろいた顔してくれた! 嬉しいねえ、予想通りだ!」

「おどろかせるためだけに、そんな、回りくどいことを……?」

「違うよ! おどろいた顔も美人か確認したかったんだよ! 予想通り美人でよかったなあって思ったの」

「……」

「アンタがやっぱり一番綺麗だ。うん、よかった。『やっちまった』と思ったけど、よかった。本当によかった」

「……なにがだ」

「アンタを俺の荷物持ちにする」

「……は?」



 いや、もうおどろき顔はいいです。

 それは見たから。



「荷物持ちがいたんだけどさあ……話しててつまんないから捨てちゃったんだ。やっぱり一緒に旅する仲間だもんね。話してて楽しい方がいいよ」

「……貴様の荷物持ちにされるぐらいなら、私はここで、戦って死ぬ。荷物持ちは他を当たるんだな」

「そ、それは困る! それだけはやめてくれ! どうしてせっかく助かった命を自分から捨てるようなことを言うんだ! 理解ができない!」

「もう我らに勝ったつもりか? ……なめるなよ人間風情が! 我らは誇り高きエルフの戦士! 命尽きるその時まで戦う! 人間などに屈することはない!」

「いや、そりゃあ命尽きたら戦えないんだから、戦うのは命尽きる時まででしょ。まわりのみんなを見てみなよ。もう戦えないから」

「……なんだと?」

「おどろいた顔が美人じゃなかったみなさんは、もう殺してあるんだ」



 いっせーのーせ。

 ()を引っぱる。


 苦労した仕掛けた。

 まず、首を綺麗に斬ります。

 そんで、エルフの耳に糸を縛り付けます。


 左端のエルフの左耳から、左端から一つ内側のエルフの右耳へ、糸をつなげていきます。

 首を綺麗に斬ることも忘れてはいけません。


 そうして全エルフの(※おっぱいは殺してはいけない!)首を斬り、すべてのエルフの耳と耳をつなげて――

 糸の先端を手の中に持っておきます。


 その糸を引っぱると?


 殺されたエルフたちの首が、まったく同じタイミングで綺麗に落ちます。



「わあ……」



 予想していたよりずっと綺麗な光景が広がった。

 ゴトンゴトンと斬られて、乗せられていただけのエルフたちの首が地面に落ちると、首のなくなった彼女たちの死体から、噴水のように血液が噴き出した。


 石でできた砦内部の、土が敷かれただけの殺風景な広場は、一瞬にして血の噴水にまみれて鮮やかな赤で塗装された。



「…………あ……? あああ……ああああああ……アアアアアアア!!」



 血を浴びながら、おっぱいの大きなエルフは叫んだ。

 うん、見飽きた金髪が真っ赤に染まって、非常によろしい。

 エルフは美人だけど、顔立ちが整いすぎていて、ちょっとエキセントリックさが足りないなと思っていたところなんだ。

 なんていうの? 美人って飽きるよね。

 毎日一緒に過ごすなら、飽きない方がいい。



「貴様……貴様ッ! 我が部下たちを、よくも!」

「前ばっかり見ないで後ろも見てよ。高い場所で弓をかまえた彼女たちにまで同じ仕掛けをするの、苦労したんだからね」

「うわああああああああああああ!」



 おっぱい大きいエルフが駆け寄ってくる。

 血で滑りながら、ぶさいくに転びながら、それでも立ち上がって駆けてくる。


 すごい、スローだ。

 血の噴水とあいまって、なんて美しいんだろう。

 やっぱり美人はいいなあ。



「イヒヒヒヒヒッ! ああ……ときめくなあ! これ、恋か!? なあ、恋かな!?」

「殺すッ……絶対に殺してやる……!」



 何度か転んで、俺にたどりつけないまま、倒れ伏して息も絶え絶えの美人が叫ぶ。

『能力を盗む』のせいで体力までなくなっているんだな。


 目に涙なんか溜めちゃって、かわいい。

 あ、やべーな。なにしててもかわいい。これは間違いなく恋だ……



「あ、あの……俺と一緒に、旅をしてください。お願いします。俺、あなたに惚れてしまったみたいで、だから……」

「ふざけるな! 貴様ッ……じ、自分がなにをしたか、わからないのか!?」

「……なんか嫌われるようなことした?」

「私の部下を皆殺しにして! こんな、見世物のように……!」

「綺麗じゃん! 真っ赤でビシャビシャですっげーロマンチックじゃない!? ムードのある告白だったよね、今!」

「死ね……! 死ね! 死ね!」

「ああー……またかー……なんでだろうなあ……俺、好きになった人みんなに最後は『死ね』って言われるの。ヘコむ……」

「当たり前だ、この異常者め……!」

「――当たり前って言うなよ」

「……」

「わかんねーよ、お前たちの『当たり前』なんか。お前たちが『当たり前』って言うことは、俺には意味不明なんだよ。くそう……こんなに好きなのに、どうして俺の気持ちはいつも伝わらないんだ……! 傷つくなあ……失恋の痛手を癒やすには、忘れるに限る……よし、忘れた!」

「き、貴様……さっきからふざけているのか!?」

「……お前誰?」



 知らない人が血まみれでにらみつけてくる……

 超恐い……

 殺しちゃった……



「……あークソ。こんだけ人がいたら一人ぐらい荷物持ちにすりゃよかった……勇者の首包んでた風呂敷もビチャビチャだし最悪だよ……俺の髪もビシャビシャ……全部ビシャビシャ……もうやだ……」



 どこかで水浴びでもしよう……

 なんかすごい疲れた……くじけそう……

 どうしてこんなに一生懸命なのに、誰も俺を褒めてくれないんだろう。

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