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男の子五〇%

「そんなにまじまじと見られたら脱ぎにくいよ。あっち向いてて」

 顕著にソワソワしだした勇介に言う。

「え、でもほら、男同士だし」

「いいから、向いてて! 今は観測前なんだから」

 勇介に壁を向かせて、水瀬は自分自身を確認する。なにも問題はないはずだ。それがそこにあることを普段意識しないが、今朝は確かに男性器が股間に鎮座していた。安心のクオリティで。

 下着も男性用ボクサーパンツ。なにもおかしなところはない。

(ボクは男だ……なにも恥ずかしがることはないんだ……男同士裸を見せ合うことくらい)

 正確には見せ合うわけではなく、一方的に見られるだけだが。

 水瀬は自分に言い聞かせるように繰り返すが、ただでさえ開放的な教室という空間であるのに、勇介を直視しながら脱衣するのも落ち着かないので、つい背を向けて古ぼけた黒板に向き直る。

 その気配を察して、勇介はそろりと後ろをのぞき見る。

 だぶだぶのワイシャツをはおった水瀬は、カチャカチャとベルトの金具を鳴らし、そろりそろりとズボンを脱ぐ。音をたてるのが恥ずかしい。

 すると、真白いワイシャツのしわのしたからミルクチョコレート色の素足が顔を出す。

 ズボンを脱ぎきるのには上履きがひっかかるので、先に上履きを脱いだ。

 ワイシャツが大きすぎて、下着をはいてないように見える。すべすべした太もも。ふくらはぎにかけて肉付きは薄く、足首はキュッとしまっていて、学校指定の白のハイソックスをはいたままなのがフェチズムをあおる。

 最初はバレないようにチラ見していた勇介だったが、今ではもうガン見である。

 勇介が盗み見ることなど想定していない無防備さをさらけ出している水瀬を、まじまじとガン見である。

 なぜ彼がガン見しているのか。それは、水瀬が今現在、半分女だからだ。女の子が生着替えしているかも知れない。その期待感だけで、勇介の劣情はむくむくと鎌首をもたげてきているのだ。

 床にズボンがしぼんでいった。一歩横に動いて、とうとう下着に手をかける。

 さすがに抵抗があるのだろう。この期に及んでふんぎりがつかないようだったが、意を決してパンツを下ろした。

 チョコムースのようなプリッとしたお尻が外気にふれるが、ワイシャツのせいで勇介の位置からは正視できない。

(見たい……!)

 勇介の脳髄の奥から本能が叫んだ。

 もうすぐ水瀬の性別がハッキリする。ゴール近し。ならば、今この瞬間こそが、水瀬のプリ尻を何も知らない子供のように無邪気に楽しむ最後の機会かも知れないのだ。

 大人が決して子供に戻れぬように『いくらかわいくても男の尻じゃあな』と自分自身に水を差されることになっては、純粋に尻を見て感動することは永遠に失われるかも知れない。

 いや、そんな理屈などは見苦しい後付けに過ぎない。

 圧倒的なまでの本能的な欲求の前にこざかしい理性などは介在しようがない。

 勇介は尻に魅了された。それを見たいと思った。だが、見えない。

 であるからして、勇介は床にはいつくばって、ワイシャツの中身を見ようと試みたのだ。それは知的探究心の表れであり、ごく自然な流れであった。

 たとえそれが男の尻に過ぎなくとも、それが己に価値あるものならば!

(見たい!)

 見なければ。心を豊かにするために。

 この角度ではまだ見えない。勇介はぬらりぬらりとナメクジのように、にじりより、ワイシャツの下にまろびでた魅惑のフォンダンショコラをいざ見たぞと思った瞬間。

 ガラガラガラー!

 誰かが来た。

「わぁぁ、いや、これは、その違うんだ!」

 扉が開かれたのに驚いて、動揺した水瀬の踵が勇介の鼻先に決激突し、それによってバランスを崩した水瀬はお尻から勇介の背中に倒れ込んだ。

 水瀬は痩身とはいえそれなりの衝撃である。

 しかし、それすら脳が甘美な刺激に強制変換。背中で感じる生尻のぬくもりは、

「おう……スウィーティー……」

 鼻血を垂らしながら愉悦に浸る勇介の背中に、あられもない姿で座りこむ水瀬の痴態を目撃し、当然ながら呆然とする友人に対して、水瀬は必死に弁明し始めた。

「ちがっ、これはちがうんだよー!」

「……なにが、違うんスか?」

 水瀬とて、本当はわかっている。

 納得してもらえるような状況ではないことくらい。

 事実は小説よりも奇なり。

 そして、先達はこうも言う。

 朱に交われば赤くなる、と。

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