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どっこいどっこい

「この作品、描写が薄すぎてバトルシーンがイメージしにくいんだよね。誰がなにをしているか、すぐわからなくなるし、会話のかけ合いがイマイチというかかみ合ってない気がする。けど、この主人公がヒロインの下敷きになるところとか、そういうとこだけ描写がやたらと細かいし、もしかして勇介君の趣味なのかな……ちょっと気持ち悪い……」

「ぐふっ! み、水瀬みなせ、お前もか!」

「ヒロインがあっさり主人公に惚れちゃうのも男の子目線のご都合主義な感じがする。話の展開がもっと派手になっても良さそうなものなのに、なんだかんだでスケール小さくまとまってしまってるし、色々もったいないよ」

「ひ、ひぐぅ……お、俺は、もうダメかもしれ……」

「あと、盛り上がるからって、とりあえず人殺すのやめない?」

「ぐはぁっ!?」

「……」

 四狼しろう小林コバが青ざめた表情で揃って十字を切る。

「……と。とりま、こんなところで……勇介君?」

「……」

 返事がない。勇介みのほどしらずは死んでいるようだ。

「だ、大丈夫? 顔色が真っ青だよ?」

「だいじょばなひ」

「は?」

「うわぁぁぁ! そこまでいうことないだろぉぉお!?」

 小林と四狼に散々ぼろくそになじられた挙げ句、最後の砦である水瀬にまで心に刺さる指摘を喰らった勇介は、大粒の涙をこぼしながら逃げ出していった。

 残された水瀬、唖然。

「……あ、あれ? あれあれあれ?」

 おかしいぞ? この流れはおかしいぞ?

「二人に比べてそこまでひどいこと言ってないよね? これが友情なんだよね?」

 ポンと肩を叩かれた水瀬が背後を振り返ると、やたらイイ笑顔を浮かべた小林と四狼の姿があった。

「よくやった水瀬」

「ナイスフィニッシュ」

「え、ええーっ!? ボクじゃないよ! ボクじゃないよね!?」

「いや『ボク』だろう」

「ん。『ボク』ス」

「え、ボク? そのボクってボクってこと? ボクじゃないってこと!?」

「まぁ、どっちでも変わらないね。おやつにしよう」

 勇介が逃げ去ったこともそうだが、それ以上に平然としている二人を受け入れられず、水瀬はオロオロと困惑し続ける。

 勇介は泣いていた。泣かせた自分がいうのもなんだが、放っておいてよいのかと。

 友だちならここで追いかけるものなのではないのかと。

 その疑問を見透かしたように、小林はぴょんとイスに跳び乗って、勇介のペットボトルを勝手に飲み始めた。

「まぁ、心配はいらないさ。明日にはケロリとしているだろう」

 小林の予想が間違っていなかったことを翌日水瀬は知ることになる。

 勇介は、なんのわだかまりもない態度で部室にやってきたからだ。

 そればかりか、

「最初のところで世界観の、しいてはこれはなに漫画なのかっていう説明ができてないんだよ。読み方がわかんないんだよ。コマの構図も似たり寄ったりで、なに? バストアップばかりなんだけど。これは顔漫画ですかー?」

「ぐ、ぐぐっ」

「……キャラも描き分けできてないス。つか、なんで全員年上の女の先輩なんスか、しかも爆乳。趣味丸出しキモいス」

「……う、うう、そ、そこは別によいではないかね? そういうコンセプトなんだ。その読み方云々は、勇介君の読解力の問題ではないかね?」

「は? 誰が読んでもわかるようにするべきだろ、少年漫画なんだし」

 まるで昨日の焼き直しのような光景。

 違うのは、攻守の配役だ。今日は、小林が描いた漫画原稿の下書きを勇介たちに読んでもらっているのだった。

 昨日はあれだけ騒いだくせに、よくもまあ今日も同じようなことができるものだ。

 水瀬は呆れてため息をつく。

 しかし。しかしだ。

 そんな彼らを悪くないと思うのも嘘ではないのだ。

 こういう不格好なやり方もありかも知れないと思うのだ。

 ただ。

 彼らの作品はつまらない。水瀬はとても好きなのだけど。

「水瀬君、君はどう思う。この原稿はつまらなくはないだろう? いや、さすがに傑作とまでは言わないが、噛めば噛むほど味が出てくるというか! そんな感じであるはずで!」

「言ったって! 水瀬。昨日のように言ったって!」

「はいはい」

 苦笑を浮かべつつ、水瀬は彼らの輪の中に入っていった。

 さぁさ、みんなで仲良くケンカしよ。

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