絆の証明
たかが創作、ではない。
いや、彼らは、たかが創作と侮られるものに今この瞬間の心血を注いでいるのだ。青春を賭けているのだ。そういう生き物なのだ。
大勢の価値観からは、成功することで敬われ、それでさえ疎まれることがある。
生きるに必要のないものを、何より優先して限りある情熱と時間を捧げる創造者。
技術は拙く、未熟で、実績もない素人であっても、彼らは自ら選んだその道を誇りを持って歩んでいく。
たとえ報われることのないとしても、理解を得られずとも。
水瀬とてわかっていた。
大人たちだけでなく、同世代の人たちからも、現実を見据えていない夢見がちな目標と笑われてしまう、そんなやり方に、そこにある本気の熱量に、水瀬は共感し、強烈に惹かれたのだから。
「ごめん! ちがう! そんな風には思ってないんだ」
「いいんだ、わかってる。小林も四狼も、俺も、そしてお前もわかってる」
勇介が水瀬の背後から肩に手をのせて、脇に寄せた。
「俺たちはラノベが好きだ。漫画が好きだ。アニメが好きだ。大好きだ。どうしようもなく好き過ぎて、それを作りたくてしょうがなくなっちまった、ろくでもない奴らだ」
プロになりたい。職業にしたい。鮮烈な羨望。
だけど現実はそう甘くない。やりたいと思って、プロと同じものが作れるようにはならない。
ほんの一握りの、本当に才能がある人間が、努力して努力して努力して、汗と血に塗れたその先でようやく到達できる領域。
生半可な覚悟では散るのがオチで、それは半端な結果に終わる覚悟も含まれていて。
「だから、必要なのは、適当に言葉を濁して、小説書いてんだすごいじゃーん、という連中じゃない。辛辣でも、酷評でも、俺のラノベを真正面から受け止めてくれるろくでなしなんだ」
ただ不当に貶めているわけではない。
彼の本気を知るからこそ、きつい言葉も口にする。たとえそれで彼を傷つけることになったとしても。
彼のラノベ作家の種を芽吹かせ、成長させるために。
水瀬は、そこに憧れ求めた友情のあり方を見つけた気がした。
「俺はお前らに会えたことを感謝している。なりたいなぁと願うだけのウジウジした日々から脱けだして、ちっとも上手くいかねえと足掻けるくらいにはなれた。ささいな一歩かも知れないが、踏み出せなきゃ前には進めない」
だから、ありがとう、と告白する勇介の真剣な様子から、その言葉が心からの嘘偽りないことが伺い知れた。
すぐに人を小バカにする小林が、ニヤニヤではなく、優しく見守るような笑みを浮かべ、四狼はそわそわと、ポケットに手を突っ込んでそっぽを向いた。照れくさいのだろう。
「俺は、お前らの言葉を受け取って、必ずラノベ作家になる! 水瀬、お前も俺のラノベに意見くれるか」
「うん。任せてよ」
水瀬は理解しきれたとは言えない。
けれど、勇介は厳しい意見を望み、友はそれに応えた。それに尊さを感じた。いいなと思った。
これも友情なのだ。だから。
過酷な創作の嵐の海に共にこぎ出す仲間となるために。
水瀬は口を開いた。