ワナビジェノサイド
ことの起こりはいつもの放課後。第十三文芸部の部室に勇介が自作の小説を持ち込んだことに始まる。
気心の知れた友人三名は、読んで感想を言う難事を嫌な顔一つせず快諾する。
友人らのその態度、まず読んでもらえるということに感謝しきりだったのだが、この時点ではまだ顛末を予想する余裕はなく、ただ不安混じりの昂揚した自尊心で勇介は一杯一杯だった。
読み手三名の内、一人は水瀬。ミルクチョコレート色の中性的な美貌に、真剣な表情を浮かべ、プリントアウトされた原稿に目を通す。
一人は四狼。ワイシャツの上からパーカーを着て、フードを目深にかぶり、目元も灰色の髪で隠れていて、その外見から昔のギャルゲ主人公と友人からは揶揄されている。先日、勇介と水瀬のアホ案件を目撃した彼だ。
最後の一人は、小林。十歳くらいの子供にしか見えないが、飛び級天才児ではなくれっきとした男子大学生。草原妖精と呼ばれる種族の彼らは、成人してもせいぜい十二、三歳くらいの外見年齢にしかならない。ヒト族と比べ、外見が幼いこと以外は耳の先が尖っていることくらいしか目立った差異は見られない。陽気な性格で、先程からケラケラ笑っていたのは彼である。
「まぁまぁ。勇介君は自信作をつまらないと一蹴された無念を水瀬君で晴らしたかったのだよ。友ならそれこそ寛大な気持ちで許してあげるのだね」
「うん、まぁ、そうだよね。友だちだもんね」
「なにげに自分が便乗したのとか色々ごまかしてるだろ。小林、お前も共犯だからな?」
「そう尖るな勇介君。気持ちはわかるが、なにも僕らだって理由もなく君を傷つける意図はないのだ。つまらないと言ったのもちゃんと相応の根拠があるのだ。なぁ、四狼君」
コクリ、と頷く四狼君。
「……まず、作者がダメ。勇介が書いてるとかありえないッス」
「全面否定かよっ!?」
勇介、激怒し大噴火。
「そんなツラしてこんな駄文書いてるとか……はっはっは、ワロス」
「よーしケンカだな。これはケンカスタートだな。水瀬、ゴングを鳴らしてくれ」
「待て待て待て。獣人ジョークだよ、勇介君。その握った拳をおろしたまえ」
「……そうそう、獣人ジョーク。ユーモアを解する勇介なら怒ったりしない」
「オッケー、わかった。俺はユーモア人だからな。怒ったりしない。じゃあ、さっさと俺を褒め称えろよ」
目まぐるしく態度が変わり、居丈高に収まった勇介。
水瀬としては、本気でケンカになるかと思ったのに、なんだかんだで話が進んでいることを不思議に思う。
「じゃあ、この小説が、いや、勇介君が小説だと言い張るこの文章が、つまらないと思う点を挙げていこうじゃないか」
そこからは一方的な虐殺だった。