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ターバンの男は、とある大商人の隊商を率いるリーダーだった。明日にもヨルムを出発し、フィン北部から西部にかけて、街や村々をまわるそうだ。商売の成否や旅の安全の吉凶を占ってもらうため、アリッサの元を訪ねてきたらしい。
それにしても…アリッサは、実は見かけよりもすごい人物なのではないだろうか。ブランは目の前にいる老女をしげしげと眺めていた。
「さあ、はじめるとするかね」
場所をアリッサの部屋に移し、占いが始まった。ブランは、結局昨日の件もあり、半ば強引にこの場に立ち会うことにしたのだ。アリッサの向かいに、ブランとターバン男が座る。真ん中には、火鉢が置かれ、何かの干し草のようなものが一面に敷かれている。その上に金物の網を置き、アリッサがパチンと指を鳴らす。
「わわっ!!」
いきなり、干し草が燃え上がったので、ブランは悲鳴を上げてしまった。不思議に事に、その干し草は黒く焦げることなくパチパチと燃え続けている。アリッサは、脇のテーブルに置いてある布袋から、小さなサイコロ型の炭を二十個ほど取り出すと、網の上のあちこちに並べていった。それが終わるとアリッサは目を閉じ、ブツブツと何かを唱えはじめ、時折目を開き炭の様子を確認しているようだった。
「よし」
何か納得した様子を見せると、網の上にあった炭をすべて取り去り、あらたに同じくらいの数を並べて、再び何かを唱えはじめた。その時、異変が起こった!!
「うわぁぁ!!」
ブランとターバン男は同時に悲鳴をあげた。網の上の炭の一つが、激しく燃えはじめ、火柱をあげたのだ。素人目にもそれは、異常な燃え上がり方であった。
「ちっ」
アリッサが舌打ちをし、指を鳴らすと火柱も、火鉢の火自体もウソのように消え失せた。その時、ブランは、アリッサの顔を見て非常に驚いた。彼女の顔は青ざめ、額には冷や汗がにじんでいた。ブランは、彼女がこのような表情を見せるのをはじめて見た。
その後、アリッサは、ターバン男に「北部に行け、西部には行くな」という占いの結果を伝え、料金をもらうと、疲れたからという理由で、二人を早々に追い出し、部屋にこもってしまった。
「それじゃ、くれぐれもアリッサさんによろしくお伝えください」
ターバン男を玄関で見送った後、当番である共用トイレの掃除に向かうブランの顔は曇っていた。
(強気なアリッサさんが、人前であんな表情になるなんて…僕も一応担当だから、少しは彼女の気持ちの変化がわかるつもりだ。あの占いで火柱がたった後、明らかに彼女は動揺していた。それも、あの商人の占いとは関係なく、明らかに自分個人にとって、衝撃を受けるような事実に出くわしたように見えた。そもそもあの占いの炭はー)
ドンッ!!
「うわぁ!!」
もの思いに沈んで廊下をあるいていたブランは、誰かにぶつかって尻もちをついた。
「あいたたた…」
それは、施設長のツールースだった。
「ああ、ブラン君。廊下は前を見て歩かないと、入居者とぶつかってケガをさせてしまいますよ」
「す、すいません!!」
相変わらず、ツールースはマイペースなもの言いだった。
「今日はフリント君と夜勤でしたっけ?がんばってくださいね」
そのまま立ち去ろうとするツールースに、ハッと思いついたようにブランが声をかける。
「あ、施設長!!」
「なんですか?」
「入居者に関する資料っていうのは…」
「現在の入居者のものは事務室に、以前の方のは資料室にあります。どちらも事務室の鍵棚にカギがありますよ。閲覧は通常業務の合間を見つけてやってくださいね」
「わかりました、ありがとうございます!!」
ツールースが立ち去ると、何か心に決めた表情でトイレ掃除に向かうブランであった。