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翌日、ブランの頭の中は、二日酔いによってガンガンと鐘が鳴り響いているようだった。
昨夜は、いい気分で家に帰ったがそのまま玄関で寝てしまったため、カラダも何やらギシギシと痛む。
「せめて何か食べてくればよかったな」
玄関で目を覚まし、もう日が高く登っていたので、そのまま慌てて家を出てきたのだ。こんな時ばかりは、一人暮らしであるという事がうらめしくなる。
「今日の夜勤はキツいぞ…」
今日は遅番入りの夜勤である。昼食が終わる位の時間に出勤し、そのまま施設に泊まり込み、翌朝、早番の人と入れ替わりで帰宅という超ロングコースである。
『太陽の家』の玄関に入り靴を脱いでいると、目の前のロビーのソファーにアリッサが座っているのが見えた。彼女はどうやら向かいに座っている商人風の男と話込んでいるようだ。昨日の件もあり、イヤな予感がしたブランは、二人の方へと駆け寄った。
「おはようございます、アリッサさん!!」
「もうおはようって時間じゃないだろう」
「た、確かに」
あっさり切り返され、納得までしてしまうのがこの男の情けないとこだ。
「ずいぶん顔色が悪いじゃないか。どうせ酒でも飲んで朝まであたしの悪口でも言ってたか」
「なっ!!そんなことはないですよ!!」
鋭すぎる指摘にたじろいだブランは、慌てて話を本題にもどそうとする。
「そんなことより、そちらの方はどなたですか?まさかまた危険な仕事の依頼じゃないでしょうね」
「おやおや、人が話し込んでるとこ割って入ってきて、何て失礼な言いぐさだろ。もし、あたしが今デート中だとしたらどう責任とってくれるんだい」
「ええっ!!そうだったんですか!?ごめんなさい…まさかそんな想像はしてなかったので」
「それはそれで逆に失礼だろうが」
「いや、でも元をたどればアリッサさんの普段の行いがよければですね…」
「何だって!?何であたしが自分の三分の一も生きてないようなヒヨッ子に、生活指導されなきゃならないんだい!!」
「いや、別に僕はそんな上から目線で言ったわけじゃー」
「あの〜」
2人の不毛なやりとりに、ついに耐えきれなくなったのか、商人風の男がおずおずと口を開いた。ターバンを巻き口ひげをたくわえ、目は常に笑っているように見える。いったら「ベタな」商人である。
「私は別にアリッサさんのデート相手ではなく、ちょっと頼み事をしに来たものなんですが」
その言葉を聞いて、ブランはまたカチンときたようだ。
「ほらやっぱり仕事の依頼じゃないですか!!」
「うるさいねえ。あたしは、可能性の話をしただけじゃないか」
アリッサは全く意に介さずといった感じだ。
「そうやって見栄をはるから事態がややこしくなるんですよ!!」
「見栄!?生憎だけど、お前さんなんぞにはる見栄は持ち合わせてないよ」
「とにかく、福祉施設内で魔物退治なんて、絶対に許しませんからね!!」
それを聞いて、ターバン男が口を挟む。
「魔物!?ちょっと、誤解なさらないでください。今日は私、占いをしてもらいに来ただけですから」
「占い?」
男の言葉に、ポカンと呆気にとられるブランであった。