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「そういえばさ、ちょっと聞いたんだけど、何か今度、護民騎士団から遠征隊が出るらしいよ」
二人の話を聞いていたミネルバが口をはさんだ。それを聞いたナップは驚きの声をあげる。
「おいっ!!なんだよそれ?俺何にも聞いてないぞ!!」
「だって私の情報筋からのネタだも〜ん」
ミネルバが得意気な顔でニッと笑う。
「情報筋って…保育士のお前が何でそんなもん持ってんだよ!!」
ミネルバは「ヨルム北保育園」で保育士をしている。新人くんのブランやフィンと違い勤めてもう二年目だ。
「だから〜、うちの園に子どもを預けてる騎士団の幹部さんがいるのよ。んで、お迎えの時、その奥さんが来て、勝手に色々おしゃべりしていってくれたわけ」
女の情報網って怖いなと、ブランは密かに思った。
「じゃあさ、一体どこに何の遠征とか言ってたか?隊長は誰が行くとか?」
がぜん興味を示しはじめたナップが、ミネルバに食いつく。明日、その情報を同僚に自慢気に話すであろう姿がブランの目に浮かぶ。
「いや、さすがにそこまでは奥さんも知らなかったみたい。ただ、国内遠征で西の方へ行くみたいなこと言ってたよ」
「西かあ…一体なんのために行くんだ?」
ナップは、難しい顔になった。
現在、フィン国内の統治は極めて安定しており、内乱が起こるとは考えづらい。とすれば、他に考えられる事はひとつしかない。
「魔物がらみかな…」
ブランのつぶやきに、だれも肯定も否定もできないまま沈黙が流れる。三人とも魔物にはいい思い出がないようだ。
「よしっ!!まあ、この話はいいや。とりあえずビール追加していい?」
ナップが持ち前の明るい声を出す。
「お前たちもまだ、飲んでけるだろ?」
「うん、大丈夫よ」
「僕も明日遅番だから」
「よ〜し、じゃあ仕事の話は忘れて、パーッといきますか!!ブラン、俺今度、巡回ついでに例のばあちゃんに会いにいくからよろしくな!!」
「いや、それはあんまりおすすめできないけど…」
「私も会ってみたいな〜、そのおばあちゃん」
「二人とも絶対よした方がいいよ、だってこの前なんかさ…」
アリッサのエピソードを話しながら、結局、仕事の話に戻ってしまったなと思うブランであったが、いつの間にか、その顔は晴れやかなものになっていた。
こうして、ヨルムの夜は更けていく…