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「いや〜、相変わらずすげぇばあちゃんだな!!」
フィン共和国の首都ヨルム…街の南側、数々の料理屋・飲み屋が連なる一角にある大衆居酒屋『夜夢』。
ブランの幼なじみにして悪友のナップは、枝豆片手にケタケタと大笑いをしている。年はブランと同じ位、少しつり上がった切れ長の目にスッと通った鼻の持ち主でなかなかの二枚目だ。薄茶色の長めの髪を後ろでたばねている。
「でもさ、またその担当がブランってとこが二倍おもしろいよね〜!!」
もう一人、ブランとナップの向かいにいる女性も楽しそうに相づちを打った。彼女の名はミネルバ、やはり二人の幼なじみである。キラキラと光るブロンドの髪を肩まで伸ばし、愛嬌のあるクリクリとした目の持ち主だ。
「あのさ、笑いごとじゃないんだからね、こっちは必死なんだから」
青リンゴの果実酒を片手にブランは、自分の惨状を訴えるが、他の二人にとってこの話は、うまい酒のつまみ以上になることはないようだ。
「しっかし、うらやましいよな〜、充実した毎日を送れるお前が」
頬杖をつき、ビールをすすりながらナップがつぶやく。
「そんなこといったら、ナップなんていちばん華のある仕事してるじゃんか」
口をとがらせてブランが言い返す。
「バカお前!!騎士団の見習いなんてひどいもんだぞ!!街ん中見回って迷子の年寄り道案内したり、ケンカの仲裁したりの毎日なんだからな!!」
顔をしかめてナップが反論する。今は私服のためそうとは見えないが、彼はれっきとしたこの国を守る騎士団の一員なのだ。
正直、フィンは軍事的に見れば、極めて弱小国家の部類に入る。この国が、他からの侵略の憂き目にあわないですんでいるのは、世界情勢が安定している事、フィンの評議会が大陸中央にある法王庁と太いパイプを持っている事などがあげられるだろう。
フィン軍の主力は、首都ヨルムに駐留する騎士団一万五千であり、評議会を守る「護法騎士団」五千と市民を守る「護民騎士団」一万という構成だ。ナップは、護民騎士団に先日入団したばかりの騎士見習いなのである。