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山小屋に入っている間にすでに日が登っていたようで、森には朝日が差し込んできていた。地面に横たわったままの怪物の体からは、すでに障気は出ていない。
「油断するんじゃないよ」
慎重にアリッサが怪物に近づこうとした時だった
「ああっ!!あああああっ!!」
怪物の口から、悲鳴がもれた。その声はもはや先ほどの猛獣のようなものではなく、村長の息子グレンのものだった。
「僕の家が!!僕の唯一の場所が!!あああああ!!」
怪物の姿のまま、グレンはその場をフラフラとうろつきまわった。
「外…怖い!!お日さま…怖い!!イヤだイヤだ!!……ああっ!!体が!!」
自分が外にいると気づいた途端、グレンの体は、灰のかたまりででもあるかのように、徐々に崩れはじめていた。
「助けて!!父さん!!…怖いよ!!死んじゃうのやだよ!!」
グレンは悲痛な叫びをあげるが、アリッサはその姿をじっと見据えながら
「その父親を石にしちまったのはお前だろうが…」
と小さくつぶやいた。
ものの五分もしないうちに、グレンの体はすべてサラサラの灰と化してしまった。
「ったく、自分の妄執に周りを巻き込むなっつうの」
ナップが、わざとらしく大きな声を出す。と、アリッサが灰の山に近づき、その中心部に手をつっこむ。
「何やってるんですか?」
「ああ、これだよ」
アリッサの手の中には、黒い色の玉がおさまっていた。アリッサが何かつぶやくと、その玉は一瞬で砕け散った。
「あ!!今のは…」
「イビルストーンだよ」
「イビルストーン?」
「ああ、闇の魔力によって造り出された石さ。特定の人間の欲望や妄執を吸収し、その人間に邪悪な力を与える…物騒なもんだよ」
「そんな恐ろしいものがどうして…」
「さあね」
アリッサはとぼけた顔をした。
「それじゃ、何はともあれシルドナまで戻りますか!!」
ナップの声に、二人は力強くうなづいた。