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「うおぉぉぉぉぉ!!」
今やグレンの体は、岩と同化し、巨大に膨れあがり、でこぼこの石で出来た怪物と化していた。
「フゥゥゥゥ!!!」
さながら岩の巨人のような怪物が吠えると、全身の岩の裂け目から、紫色の煙が吹きあがる。
「いかん!!2人ともあたしの側から離れるんじゃないよ!!」
と言いざま、アリッサは、一度手を複雑な形に組み、そのまま両手を前方にかざし、呪文を唱えた。と、三人を包んでいた結界が、先ほどとは比べものにならない光を放つ。
「なんて強い障気だろ。二人とも結界から出るんじゃないよ、あっという間に石になっちまう。こりゃ、予防薬や護符でどうこうできるレベルじゃない」
アリッサの額に油汗が浮かぶ。岩の怪物は、障気をまきちらしながら、激しい足音をたてて近づいてくる。
「こりゃちょっとまずいねえ」
アリッサが、なおも不敵に笑いながらつぶやく。
「え?」
「今あたしの結界は、この障気…つまりは呪的な力を防ぐのに全力を使っちまってる。物理的な攻撃を防ぐ余裕がないのさ」
アリッサのその言葉を理解したとは思えないが、三人の前に到達した怪物が、岩で出来た腕を振り上げ、アリッサめがけて振りおろした!!
カキィィィン…
怪物の腕は、すんでのところで、ナップの輝く剣によって受け止められた。通常の剣であれば、間違いなく折られていただろう。
「くっ…!!」
しかし、ナップも怪物の重みに長く持ちこたえられそうもない。
「こりゃ、ヤバいかもな」
アリッサが皮肉なつぶやきをもらした時、ブランが声をあげた。
「アリッサさん、あの魔法は打てないんですか??」
「何だか知らないが、あたしは障気を防ぐので手いっぱいなんだ!!炎も雷も出す余裕なんざない!!」
「いえ、あの食堂のやつです!!あれならきっと!!」
ブランの言葉を聞いたアリッサの目が光る。
「なるほど。ブラン、あんたなかなか賢いじゃないか」
「うわぁ!!」
その時、怪物がもう一方の腕をナップに振り下ろそうとした。
「いくよ!!」
アリッサは、結界を解くと同時に両手を天にかかげた。彼女とブラン達の周りに風の渦ができ、障気もその渦に吸い込まれていく。怪物は、風にのまれ、腕をあげたまま後ろに尻もちをついてしまった。
「そんじゃ、派手に仕上げるよ!!」
アリッサの呼び起こした風は、かつて「太陽の家」の食堂で見せたものよりはるかに強力で、もはや小規模なハリケーンとも呼べる程だった。ついに、山小屋はその風力に耐えきれず、まず、屋根がはがれ、次に壁に使っていた丸太が次々と浮き上がり、はるか上空へと巻き上げられていった。怪物は、飛ばされこそしなかったものの、地面の上に必死にしがみついている。
そして、あたり一面を丸ぼうずにし、ようやく風が収まった。