25
丸太を組んでつくられた山小屋は、村人達の家よりもはるかに大きく、森の中にただ一軒、不吉に佇んでいた。ブランは、そこに近づけば近づくほど息苦しくなっていくのを感じていた。
「大丈夫かいブラン。確かに魔力も護符も持たないあんたじゃ、石化うんぬん以前に、ここの邪気に当てられて動けなくなっちまうね」
ブランの異変を察したアリッサが指をパチンと鳴らすと、三人の周りにドーム状の薄い光の幕が張られた。ブランの気分は、かなりマシになった。
「さて、ここで外から拝んでても気分が悪くなるだけだから、とっとと中にはいろうかね」
そうして三人は、アリッサの張る結界内に身を寄せ合いながら、木の扉を開け、山小屋の中に入っていった。
中は真っ暗なので、すかさずアリッサが魔法のあかりをつくる。彼女の手の中に生まれた光球は、天井にほおられあたりを照らし出した。内部もいわゆるロッジの用なつくりで、奥の方に扉がいくつかある以外は、小屋自体が大きなひとつの部屋となっていた。そして…その部屋の中央にそれはあった。
「なんだこれは」
さしもの気丈なナップも、悲鳴じみた声をあげる。そこには、アリッサの身長の二倍程の巨大な岩があった。
「おやおや、こんなにでかくちゃ漬け物石にもならないねえ」
冗談めかしたアリッサの声も、いくぶん緊張をはらんでいるように聞こえる。
この岩は生きている…ブランにはそのように感じられた。いや、事実そうとしか思えないような「動き」が見てとれるのだ。岩の上部は、噴火口のように口が開いており、そこから紫色の煙が規則的にシュウシュウと吹き上がっている。また、岩そのものからも、何か闇の生物の脈動のようなものが感じられるのだ。
「…どうやら、向こうから仕掛けてくる様子はないみたいだねえ」
「アリッサさん!!これは一体何なんですか!?」
ブランの問いにアリッサは一言「さあね」と答えた。
「まあいい、とにかくこいつの上から出てる煙が例のガスなのは確かなんだ」
「それじゃあ、どうするんすか?」
ナップがたずねると、アリッサは不敵な笑みを浮かべた。
「叩き壊しちまおう」