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村の入口を抜け少し進むと、広場のようなとこに出た。そこにも、石と化した村人達が幾人もいた。日はすでにとっぷりと暮れ、月が顔を出している。
「ちょっと寄り道してもいいかい?」
連れの二人にそう言うと、アリッサは広場のはずれにたたずむ一軒の小さな家に近づいた。
「ちょっとここで待ってとくれ」
二人を家の前で待たせると、アリッサは一人で家の中に入っていった。
「なあ、ばあちゃんこの家に何か用があるのか?」
怪訝そうな顔でナップがブランに問いかける。
「ああ、うん…」
ブランはあいまいな返事をしただけだった。
少しするとアリッサは、何事もなかったように扉から現れた。
「アリッサさん、もしかしてここって…」
この家の意味を察した様子のブランがたずねると
「ああ…そうだよ」
アリッサは静かにうなづいた。
「それで…その…娘さんとお孫さんは…」
ブランが言いにくそうに聞くと、アリッサは黙って目を閉じ首を振った。二人のやりとりを見ていたナップもだいたい事情はわかったようで、彼としては険しい顔つきになっていた。
「手間とらせたね、悪かった」
二人を置いてスタスタと村の奥へ進んで行くアリッサ。ブランは、一見無表情な彼女の下の、心の表情を思うと、激しく胸が痛むのだった。
村の広場を抜けると、人家は徐々にまばらになり、やがて、森の中へと続く一本道に出た。
「この先だね、ガスの発生源は。邪気も強くなってきたね」
アリッサがいつになく慎重な声で言う。
夜の森は、素人のブランにもわかるくらい不気味な雰囲気に包まれていた。いつ魔物に襲われてもいいように、一行は警戒しながら道を進んでいく。しかし、背の高い針葉樹が生い茂る森は恐ろしく静かで、あたかも魔物達すら石になってしまったのではないかと疑わせるほどであった。
「あれだ」
しばらく歩いた後に、ついにアリッサが足を止めた。
そこには、一軒の山小屋があった。