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最初の石像を見つけてから村の入り口までは、村人とおぼしき石像が点々と連なっていた。中には犬やニワトリなどの像もある。そして、村の入口に着いた時、二人は思わず息を飲んだ。
「う…」
村の入口は、多数の馬とそれにまたがる騎士達の石像で埋め尽くされていた。言わずとしれた、先発した護民騎士団たちである。すべての騎士たちの表情は、驚きと恐怖に満ち満ちていた。
「アリッサさん、これは一体…なんでこんなむごいことに…!!」
騎兵の石像でできた間をぬって進んでいくアリッサの背に向けて、ブランが悲痛な声をぶつける。
「石化ガス」
アリッサが、ブランに背を向けたまま答える。
「ガス?」
「この村とその周囲一帯に、薄く石化ガスがまかれている、それも遅効性のね。薄いからなかなか感知しづらいが、気づかずに村に入り、一定量以上吸い込むと、足元から一気に石になっていくのさ」
「そんな…」
蒼白な顔になったブランが、ハッとしたようにアリッサに近づく。
「それじゃあ、僕たちもここにいては危険じゃないんですか!!このままとどまると石になってしまうのでは!!」
「あたしらは大丈夫だよ」
アリッサは、再び進み始める。
「どうしてですか?」
「お茶」
「へ?」
「さっきのんだ苦いやつだよ。あれは、石化予防用にあたしが調合した魔法薬なんだよ」
「あの苦いのが??」
「そう。いったん石化した人間を戻す薬は、なかなか材料を集めるのが難儀なんだが、予防薬なら、手持ちの薬草でも結構簡単に作れるのさ」
「でも、なんで石化ガスがあるってわかったんですか?」
「あたしが立ち止まった時があったろ?あの時、前方にガスの存在を探知したのさ」
「そっか、やはり魔法使いっていうのは、常人にはないすごい力を持ってるんですね」
ブランが関心すると
「いいや、基本に忠実なだけのことさ。探査の網をはることは、魔法使いの基本だからね。自分の力を過信するとこうなっちまう」
と言いながら、アリッサは杖で近くをさし示した。
「ああっ!!」
ブランがまたもや悲鳴をあげる。アリッサがさした先には、馬上の石像となった魔女メイシンの姿があった。何か呪文でも唱えようとしたのだろうか、指先は複雑な形に組まれている。そして、メイシンの隣には、やはり動かぬ姿となったトラム隊長が、苦しげな表情のまま固まっていた。
「そうだ…ナップ!!ナップもこの中に!?」
言葉を交わしたことのある二人の石像を見て、ブランは友人の事を思い出した。あたりの石像をひとつひとつ手当たり次第に探し始める。
「ナップ!!ナップ〜!!」
「なんだよ?」
ふいに、道脇の木の後ろから、ナップが現れた。