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「なぜ…」
思わず声に出してしまうほどに、ブランの頭の中は疑問符でいっぱいだった。
時間的にも、場所的にも、あきらかに不自然なタイミングでのティータイムである。これから孫を助けに魔物の巣窟へ乗り込むという緊張感が微塵も感じられない。
「さ、入ったよ。あたしのお手製の茶が飲めるなんざ運がいいよ」
敷き布をしき、わざわざ枯れ枝と石を集め簡単なかまどをつくりお湯を沸かし、アリッサがどこかから出した様々な茶葉を調合するのを待ち、やっと出てきたお茶である。
「本当ならマカロンでもつまみながら、飲みたいとこなんだがねえ」
アリッサは落ち着いた様子で茶をすする。ブランも仕方なく茶を飲むことにしたが…
「うげぇ!!」
それは異常に苦かった。
「出すんじゃないよ!!もったいない」
ブランにとって不思議なティータイムは、今や地獄のティータイムへと変貌していた。結局、ブランの主張により、そこで「お口直し」のため昼食をとり、その後ようやくの再出発となったのだった。
太陽が傾きはじめ、もうそろそろ村に着くかなという所で、ブランが声をあげた。
「アリッサさん、あそこに人がいますよ、村人ですかね?」
確かに、二人が進む道の真ん中に人影が見える。しかし、その人影に近づくにつれ、ブランの顔はどんどんひきつっていった。
「こ、これは…」
それは、人…ではなく、人の形をした石像だった。遠くから見て人そのものと間違えるのも無理もないほど精巧にできていた。農夫の姿を形どったものらしいが、不気味なことに、その顔は恐怖に引きゆがんでいた。
「間違いないね。こりゃ元はここの村人だったものが、何らかの力によって石にさせられたんだ」
石像に手をあてて何かを探っていたアリッサが結論を出す。ブランは、その恐ろしい事実に身をすくませてしまった。
「…それじゃ、先に進んでみようかね」