20
翌朝、ブランは激しい頭痛と共に目を覚ました。
「アタタタタ…」
窓からの光は、すでに明るくなっている。
「やっと起きたか、だらしないねえ。さあ、さっさと荷物を持ちな、出発するよ」
アリッサは、すっかりと準備を終え、すでに小屋の戸口に立っていた。酒の影響など微塵にも感じさせない。あわてて身支度を整え外へ出ると、宿からすでに人の気配はなくなっていた。ナップら騎士団は、早朝にキリーに向けて出発していったようだ。
「ナップの奴、二日酔いのヘロヘロで大丈夫かな?まっさきに魔物に狙われちゃうんじゃ…」
「なあに、あいつは朝からしっかり目覚めていたよ。誰かさんと違ってな」
アリッサの嫌味にも、ブランは二日酔いのため反論できない。
「それに、どうやらあいつは強力な『護符』に守られてるようだしね…」
アリッサの最後のつぶやきは、ブランの耳には届かなかった。
宿のおかみに見送られ、二人の冒険者は旅立った。幸い、シルドナからキリーまでは、歩いても一日足らずといったところなので、今から出発しても、夕方にはキリーにつけるとのことだった。先発した護民騎士団とメイシン達は、もう目的地に着いているかもしれない。
「キリーには、一体どんな魔物がいるんでしょうね」
なだらかな山道を歩きながらブランがたずねる。
「さあねえ、そこまではあたしにもわからないさ。ま、なるようになるだろ」
「そうですねえ」
そんな、とりとめのない会話をしながら、ブランは久しぶりに『太陽の家』の事を思い出していた。一応ブランは、この旅に出発して最初の宿場に着いた時、事情を説明した手紙を施設長のツールース宛に送った。手紙を読んで、深くため息をつくツールースの姿が目に浮かぶようだ。それに、アリッサのケンカ相手のガンダルガや、いつもおだやかなドロシーはどうしてるだろう…ブランが追憶にひたりこんでいると、急に目の前にアリッサの後ろ姿があり、そのままぶつかってつんのめりそうになった。
「危ないなあ、急に止まらないでくださいよ」
アリッサは、道の中央で止まったまま、ぴくりとも動かない。何やら恐ろしく集中しているようにも見える。ブランは、困惑したままアリッサのそばに立っている。
と、アリッサは急にブランを振り返ると、満面の笑みを向け、こう宣言した。
「それじゃあ、ここいらでお茶にしようかねえ」