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「やだ、ウソ!?やっぱりアリッサちゃんだ〜!!」
最初にブラン達に声をかけたのは、隊長風の男ではなく、その隣で馬にまたがった若い女の方だった。年は二十歳そこそこだろうか。黒くつややかな髪を頭上近くで束ね、腰までたらしている。肩や太ももがあらわな赤いシルクのドレスを身につけ、手には様々な指輪がはめられている。およそこの騎士達の一団の中では不似合いな格好だ。
「あら?その男の子は誰かしら?もしかしてアリッサちゃんの彼氏?」
その女が、少々馬鹿にしたニュアンスを込めてアリッサに問いかける。もっともアリッサのいらえは
「アホか」
の一言に尽きたのだが。
「ブランといいます、アリッサさんの担当介護士をしています」
ブランが、一歩進んであいさつをする。それを聞いて、女はたまりかねたように吹き出した。
「か、介護!!そっかあ、アリッサちゃん、そんなに弱ってきちゃったんだ、かわいそ〜」
あんまりなもの言いに、ブランがキッと女をにらむ。女はようやくひと笑いを終えると、再び口をひらいた。
「はじめまして、あたしはメイシン。アリッサちゃんとは同業者の魔女よ」
「それで…なんでお前がこんなとこにいるんだい?」
アリッサの質問に、隊長らしき男が口を挟んだ。
「魔法使いのアリッサ殿ですな。お初にお目にかかる。護民騎士団の騎士でトラムと申します。この小隊の隊長を預からせていただいております。我々は、これより西方へ怪異の探索に行く途上なのです。こちらのメイシン殿は、我らの護衛として評議会から雇われた方です」
「そうなの〜」
メイシンが、意味もなく黄色い声をあげる。
「そうかい、だったら悪い事は言わないから、とっとと引き返した方がいいよ。この怪異は、あんたたちみたいな肉体派や、そこの三流魔女じゃどうしようもないヤマだからね」
「さ、三流!?よくも言ったわね!!」
メイシンが顔を真っ赤にして怒る。
「三流だから三流と言ったまでさ。とっととネグラに帰って化粧でも直してな」
「うるさい!!お前みたいなよぼよぼババアに指図されるいわれはないよ!!隊長さん、行きましょう!!」
「は、はあ…」
トラム隊長はまだアリッサと話したそうであったが、メイシンに気圧されて、出発の合図を出した。アリッサとブランの目の前を次々と馬に乗った騎士たちが通りすぎていく。その時ー
「ブラン!!」
ブランは、自分を呼ぶ声がしたのにおおいに驚いた。
「ナップ!!」
声の主は、ブランの友人、護民騎士見習いのナップだった。ナップは、馬上から手を振りこちらに視線を送っていた。しかし、当然ながら馬を止めたり、きびすをかえして隊列を乱すわけにもいかず、そのまま他の騎士達と共に村の方に消えていった。
「あいつも来てたんだ…」
ブランは不思議な感慨を込めて、走り去るナップの姿を見送ったのだった。