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「だいぶ山が増えてきましたね」
「そうだねえ」
石畳が敷かれた街道を、2人の旅人があるく。先を行くのは、小さな老女。黒い服とスカートの上に紫の大きなストールを巻きつけ、ひねくれ曲がった杖をついて歩いている。大きなつばつきの帽子には、様々な加工された花が飾られている。真っ白な髪が帽子から肩のあたりまで伸びている。しわぶかい顔には、常にふてぶてしそうな表情を浮かべているが、その目の奥に光る鋭い光は、見る人が見れば、これはただものではないという事に気づくだろう。
彼女の後ろについて行くのは、二十歳前後のまだ若い青年だ。茶色の少しパーマがかった髪と、メガネの奥の澄んだ瞳が印象的である。膝まである白い道衣をまとい、その下には、茶色のシャツと黒いズボンをはいているようだ。
2人が歩く街道は、なだらかなのぼり坂になっており、周囲は膝くらいまでの草が生い茂っている。街道が進んでいく先には緑の山々がのぞめる。
「夕方までにはシルドナ村に着けそうですね」
「ああ」
ブランの質問に、アリッサは、後ろを振り返ることなく答える。アリッサは、いくら歩いても疲れる様子が見えない。彼女の年齢を考えれば驚くべきことであるが、単に健脚なのか、それとも魔法の助けの借りているのかは、彼女のみが知るところだった。
二人の旅程は順調だった。首都ヨルムを出た二人はまず、フィン西部で一番大きな都市・フーレを目指した。乗合馬車を使い、途中の街や村で宿をとる旅はなかなか快適であった。
フーレからは乗合馬車がないので、徒歩での旅となる。フーレからさらに西に二日ほど歩くと、シルドナ村があり、そこから山あいの道を進んでいくと、目的地となるキリー村がある。