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三十分後…
アリッサの前には、背中と両脇に大きな荷物を抱え、ゼイゼイ息を切らして立っているブランがいた。
「…………」
「(ゼイゼイゼイゼイ)」
「一体どういう冗談だいこれは?」
息を整え、メガネのズレを直したブランは、アリッサの方へ顔を向けた。
「僕もアリッサさんに同行します!!」
「何だって?」
ブランの姿を見て予想はついていたようだが、それでもアリッサは問い返さずにはいられなかったようだ。
「僕は、アリッサさんの担当です。だから、止めるのが無理なら、せめてアリッサさんについて行くのが筋だと思うんです」
「馬鹿言ってんじゃないよ。どんだけ危険な事だかわかってんのかい?」
「それは…強力な魔法使いと一緒だから、ある程度は安心できると思います!!」
思わぬ切り返しにアリッサは一緒言葉をつまらせる。
「『太陽の家』のことはどうすんのさ、あんたの職場だろう?」
「確かにとても気がかりです。でも正直、僕がいない事による痛手よりも、アリッサさんがいない事によるもめ事の解消のが大きいと思うんで、差し引きプラスになるかなと」
「何だって!?どういう意味だい!!」
アリッサの顔に青すじが浮かぶ。
「つまり、暴れん坊のアリッサさんが、いないほうがあそこはある意味平和じゃないかと…」
「ふざけんじゃないよ!!」
アリッサが怒りに任せて右腕を上げる。もし彼女が指を鳴らせば、ブランはそこに眠り崩れるか、はたまたカエルに姿を変えられてしまうかもしれない。
「わかりました、ふざけないで言います」
ブランの目が真剣な深い光をたたえる。アリッサはまだ腕をあげたままだ。
「これまで僕は、アリッサさんの事を本当の家族だと思って接してきました」
「…………」
「だから今回も、家族ならどうするだろうって考えて自分の行動を決めました。自分で決めた事に二言はありません。例え今、この場で眠らされても、必ず後を追いかけてくつもりです。お願いします、どうか一緒に行かせてください!!」
ブランの言葉を聞くうちに、アリッサの表情は、だんだんと困惑したものになってきていた。この若者を、この振り上げた右腕を、どうしたらいいのかわからないようだった。
「……………」
「…勝手にしな」
不意にアリッサは、右腕を下ろしブランに背を向けると、すたすたと早足で通りを歩きだした。
「じゃ、勝手にします!!」
その後ろを、ホッとしたような、うれしそうな顔でブランがついていく。
かくして、元冒険者の魔法使いと、その介護士という前代未聞のパーティが誕生したのであった。