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「ありがとうございます」
生真面目なブランは、素直に礼を言う。
「だがね、何であたしが、わざわざキリーなんてそんな田舎にまで足を運ばなきゃならないんだい?」
「ご家族が心配だからですよね」
ブランの言葉にアリッサは口をつぐみ、顔をそむけるような仕草を見せた。
「今日、アリッサさんの入居時の書類を見直してみたんです。家族構成の欄には、『娘一人、孫一人』って書いてありました」
「…ふん、ちょっとした職権濫用ってとこだね」
「それで今日の夕方、『太陽の家』ではアリッサさんとは一番仲の良いドロシーさんに、アリッサさんの家族について聞いてみたんです」
「プライバシーの侵害までしてくれたってわけかい」
「ドロシーさんの話では、アリッサさんの娘さんは、お孫さんと一緒に…キリー村で暮らしていると」
「やれやれ、全くおしゃべりなばあさんだ」
そこまで言うと、アリッサは大きくため息をついた。
「でだ、そこまで調べて、わざわざ追っかけてきてくれたお前が、あたしにどうしろって言うんだい?」
「それは…」
今度は、ブランが少し困った表情になる。
「力づくで帰らせようってんなら相手が悪いよ。なあに、確かにあんたの言う事は真実さ。あたしはキリーまで娘と孫が心配で見に行くんだ。占ってみてわかったが、はっきり言って、今あの一帯をおおっている邪気は生半可なもんじゃない。騎士団が行こうが、青臭い冒険者どもが行こうが手に負えないだろう。どのみちあたしが出向くしかないんだよ」
「…………」
「そうとわかったら、とっととお帰り。あんたの出る幕なんざないよ!!」
しばらくの間、重苦しい沈黙が流れた。あたりに響くのは風の音だけだ。
「…ひとつお願いしてもいいですか?」
ふりしぼるような声でブランが口を開く。
「何だい?まあ迷惑かけちまったのは確かだし、うけおえる事だったら聞いてやらなくもないよ」
「三十分待ってください」
「え?」
さすがのアリッサも口をポカンとあけてしまった。
「三十分ここで待っててください!!お願いします!!」
というが早いか、ブランはもと来た道を全力で駆け出した。
「『太陽の家』の連中を起こしてあたしを捕まえるつもりかい?あいつらが束になったところで無駄なこったよ!!」
ブランの背中にアリッサが声をかける。
「そんなんじゃありません!!」
足は止めないまま振り返ったブランの口から強い返答があった。アリッサは、わけがわからぬという表情のまま、道の真ん中に一人立ち尽くしていた。