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「…………」
声をかけられたアリッサは、無言でこちらを振り向いた。特に驚いた様子も見せていない。
「アリッサさん。一体どこへ行くつもりなんですか?」
息をはずませながらブランが問いかける。しかしアリッサは、直接その質問には答えなかった。
「おや、おかしいねえ。あの建物の人間は、あたしの魔法で朝までぐっすり眠ってるはずなんだけど…そうか、わかった。お前はいつもあたしの側にくっついてるから、あたしの魔力に耐性がついちまったのかもしれない、迷惑なこった」
「ちゃんと質問に答えてください」
ブランは、一歩もゆずらないという気持ちでアリッサの目を見すえた。
「なあに、あの窮屈な建物にいるのがちょっとイヤになっちまったのさ。一週間ぐらい家出して、温泉にでも行こうかと思ってね」
アリッサがとぼけた顔で肩をすくめると、ブランはすかさず言葉を返した。
「ウソをつかないでください」
「何だって?」
負けじとアリッサもにらみかえす。ブランは一呼吸をおくと、今度はおだやかな、少し悲しそうな表情になった。
「アリッサさん、キリー村へ行くつもりでしょう」
「な!?」
アリッサの顔に驚きが走る。が、それは一瞬で、すぐにいつものふてぶてしい表情に戻ると、ブランをじっと見つめた。
「…どうしてそう思う?」
「まず、僕は友だちから、フィン西部に騎士団が遠征に出るらしいという事を聞いてました。今の落ち着いた国内情勢を考えれば、それは魔物退治に行くものと考えるのが妥当だと思います」
「ほう」
アリッサが、少し関心したようにブランを見つめ直す。
「もちろん、その時はただの憶測でした。それから、アリッサさんが、あの隊商の占いをするのに立ち会いました」
「ああ」
「あの商人さん、確かフィンの北部と西部に行くと言ってましたよね。アリッサさん、占いのために網の上に地図を作りましたよね?」
「…………」
「あの小さなサイコロ型の炭…一見無造作に並べたようでしたけど、あれってフィンの主な街や村の位置になぞって置かれてましたよね?一回目はフィン北部、二回目はフィン西部でした。で、二回目に炭が燃え上がった時…あれは素人目に見ても凶兆だと思うんですが、その位置にあったのがキリー村だったんです」
「………」
「それらを考え合わせたら、アリッサさんが、魔物に襲われたと思われるキリー村に出向くために、こんな強引な事をしたんじゃないかと思い至ったわけです」
アリッサは、大きく息を吐きだした。
「…なるほど、ただのボンクラなぼうやかと思ってたが、なかなか立派なオツムをお持ちのようじゃないか」