第2話 パーティ仲間
ゴブリンを片付けた哲也はふぅと溜息を吐いて、その場に座り込んだ。カレルはもじもじと杖を抱きながら、チラッと哲也を見ていた。
「ん? 何見てんだ?」
「えっと……、た、助けてくれてありがとうございます。初めは逃げ出していたけど」
「仕方がねぇだろ。こっちは剣の素人だ。強さに期待すんなよ?」
哲也は拳でヤンキーやストーカーなどと喧嘩なら経験はあるが、魔物みたいな化け物が5体同時に来られたら逃げる選択しかない。カレルみたいにスキルを使えるわけでもないのだ。そこで、カレルが使っていたスキルが気に掛かった。
「さっきのは凄かったな。強いスキルがあるなら、逃げる必要はなかったんじゃねぇか?」
「え、怖くないの……? 私の魔法が」
「やっぱり、魔法か~って、怖い? どういうことなんだ?」
「え、知らないの……?」
カレルは哲也が怖がっていないことに驚いていた。カレルは覚悟を決めて、話すことにした。
「私の魔法は、周りから嫌悪されている『呪怨魔法』なんです。人間を対象に出来ないから、禁忌ではないけど、世間からは嫌われている魔法よ…………」
恐怖の視線が来るとそっと哲也の瞳を覗くように見ていたが、当の哲也はいつもの表情だった。いや、眼をキラキラさせていた。
「ふーん、やっぱり凄い魔法じゃないか! 魔物を一撃とか!!」
「え、えっ?」
「思ったけど、強いなら逃げる必要はなかったんじゃないか?」
ポカーンと呆気に取られるカレルだったが、哲也の質問に言いにくそうな表情で答える。
「うぅっ、『呪怨魔法』は強力な魔法が多いけど、制限が……」
「あ~、成る程…………って、ゴブリンは5体だったが、逃げていたという事は……」
「そ、そうよ! 今は『呪死』は1日に3発までしか使えない制限があるの!! それに、『呪怨魔法』は『呪死』しか使えないわ! 戦闘方法がこれしかなくて悪いッ!?」
ヤケクソに制限の内容を言い放っていた。更にカレルは『呪死』しか使えず、他に戦闘方法がないと。
つまり、カレルは『呪死』を使い切ったら、マトモな戦闘方法は杖で叩くことしか出来ないのだ。それを理解した哲也はーーーー
「微妙だな……」
「うぅっ……」
微妙だと判断された哲也に反論したいカレルだったが、本当のことなので口を閉じていた。カレルは落ち込みながら哲也から離れようとしたが、哲也に止められる。
「おい、何処に行くんだ?」
「え、話は終わりではありませんでしたか……?」
「アホか、もう1発しか残ってない奴を1人で帰せるかよ。一緒に戻るぞ」
「!? も、もしかして……」
期待するような瞳で哲也を射抜く。溜息を吐いて、立ち上がって手を差し出す。
「パーティを組むぞ。俺のことは哲也でいい。街に帰るまでだか、宜しくな」
「あ、ありがとう!!」
喜びの勢いで差し出した手を両手で掴んで、お礼を言うカレル。カレルは今までパーティを組んだことはあるが、長く続かなかった。原因は嫌悪されている『呪怨魔法』に、戦闘能力が初心者の冒険者よりも微妙過ぎたこと。最初は良くても、最後は何も出来ず、足手纏いとなるのでクエストが終わると、カレルは必ずパーティ解消されてしまう。
その点、哲也はカレルが『呪怨魔法』使いで戦闘能力が微妙だとしても、パーティを組むと言ってくれたのだ。これにカレルは喜ばないでいられない。
ザワッ
音が聞こえ、2人は咄嗟に振り向いて見たら、丸っこいバクみたいな魔物がいた。そんなに強そうだと思えず、安堵する哲也。
「ふぅ、驚かせるなよ。1体だけみたいだから、景気良く『呪死』でやっちゃってくれ」
「わかったわ! 任せなさい!!」
機嫌が良かったカレルだったので、最後の1発を使うことに躊躇はなかった。
ーーだが、機嫌が良かったせいで1つのことを忘れていた。
カレルは『呪死』の詠唱をし、杖を向けて発動したーーーー
バクみたいな魔物はビクッと身体を震わせたが、それだけだった。
「は? 倒れないぞ……?」
「ーーへ? あっ……」
「お、おい! こっちに向かってくるぞ!?」
バクみたいな魔物は『呪死』の効果を何とも思わずに2人の元へ走り出していく。
「あわわ、忘れていたわ! 私のレベルより高かったら、効果が発揮する確率が減るんだったわ!!」
「はぁっ!? そんな制限があんのかよ!! 逃げるぞぉぉぉぉぉ!!」
「わぁぁぁーー! 待ってぇぇぇぇぇ!!」
丸っこいバクみたいな魔物は、身体を使って転がってスピードを上げてきた。2人は必死に走って逃げていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
2人は森を上手く使い、蛇行に走ることで転がるバクみたいな魔物から距離を離していた。バクみたいな魔物が木を倒す程の力がなかったことで、幸運に生き残ることが出来た。そのまま、街の近くまで走って逃げた2人は倒れて、息を激しく吐いて吸っての繰り返しだった。
「ぜぇ! ぜぇ……! 助かった」
「はぁ、はぁっ……、今度こそ、終わりかと思いましたわ。それに、哲也さんは気付きましたね?」
「あん? バクみたいな魔物が細かく曲がれないことをか。そんなの、身体を見ればわかったことだろ」
バクみたいな魔物が転がる時、手と足が内側に潜めており、タイヤみたいな形になっていたため、小さな曲がりが出来ないと見抜いていた。だから、直線に逃げるのではなく、ギサグサと逃げれば距離を離せると判断したのだ。
もう逃げ切れたので、バクみたいな魔物のことは頭から捨てて、すぐ街に向かった。もう空は夕日になっており、暗くなる前に街の中へ入りたかった。
「街に着いたら、ギルドに行くが、金髪ロールはどうなんだ?」
「ちょっ! 金髪ロールではなく、カレルと呼んでくださらない!?」
「そんなことより、視線を感じるんだよな……」
「そんなことより!? 私にとって重要なーーーーえ、視線を?」
「あぁ……」
疲れたせいか、神経が尖っているような感覚になっていた哲也は何処からか視線を感じていた。昼間に『百里眼』がスキル欄に登録された時のを思い出した。
もしかして、誰かに見張られていんのか?
確信は出来ないけど、警戒だけは解かないようにする哲也。さっき、追われたばかりでカレルはチョロチョロと周りを見て涙目になりかけていた。そんな2人を見る視線の人物は…………
ーーーーーーーーーーーーーーーー
街がある場所から1キロ先にて、1番高い木の頂点に立つものがいた。
夕日を背に、その姿は影で良く見えないが、人間ではない形をしていた。1キロ先から見張っていた人物は、紙とペンを持って、何かを書き込んでいた。
「ふむふむ、この召喚者は弱い。頭は少し働くようだけど、ランクはFだな」
用事が終わったと言う雰囲気で、『百里眼』の効果を解く。
「あの方は何を考えているんだか。弱い内にやれば、楽なのに観察だけで手を出すなとか」
観察していた人物は、あの方の命令を破る事を考えておらず、手を出さないで観察だけに留めていた。何が目的かわからないが、後になればわかるだろうと納得しておき、シュッと一瞬で木の頂点から消えたーーーー
よーーーーし、今日はここまでッ!!
明日から続きを載せていきますので、お楽しみにー。あ、多分21時に載せるかと。
では、また。