婚約破棄の実情
初投稿です。流行に乗り遅れた感が否めませんが楽しんでいただけたら嬉しいです。
「レイチェル・コーリン、今この時をもってお前との婚約を破棄する!」
「え? お断りいたしますわ」
いったいいきなり何なのでしょう?
殿下の突然すぎる呼び出しに渋々と応じてみれば、いきなりの婚約破棄宣言。頭の足りない方だとは思っていましたがまさかここまでとは呆れてものも言えないとは正にこのことですわね。
私の言葉に顔を真っ赤にして怒鳴っているその姿に眉を顰めながらクルリと部屋の中を見渡す。
あらまあ、なんということでしょう。この国の次期重鎮たる方々が勢ぞろいしていらっしゃるではありませんか。
「さて、どうしてそんなことをおっしゃるのか、理由をお聞かせ願えますか?」
「白々しい! お前がフィーリンを貶めていたことはすでに耳に入っている。貶めるだけに飽き足らず、その命を狙ったこともな!」
「……身に覚えのないことですわ」
命を狙ったとはこれまた危ない発言をいたしますわね。この国の王子であるからといって何を言っても許されると思っているのならば大間違いであるというのにこの人はまるでそれを理解していらっしゃらない。
もちろんそれは、この人だけではなく周りの方々もそうなのでしょうが。
「あなたはご自分が貴族の一員であるという自覚を持っていたと思っていたのですが……失望しました」
「いい加減しらばっくれるのはよせ……目撃者もいる」
「そーそー! それに僕らだってフィーのぐちゃぐちゃにされた教科書とか見てるしー。お綺麗な顔してえげつなーい」
「み、みんなぁ……レイチェルさんは悪くないの。私がいけないの、レイチェルさんの婚約者だって知っていたのにアレクと親しくしたから……」
「フィーリンは何も悪くない。どんな理由があろうとも人を傷つけ、貶めるあの女が悪い」
「アレク……」
次期宰相様、あなた様こそご自分が貴族の一員であるという自覚は持っていらっしゃらないのでしょうか。
次期騎士団長様、目撃者がいるとおっしゃられるのであれば連れてきてはいただけないでしょうか。
次期宮廷魔術師様、それを私が行ったという確かな証拠があるのでしょうか。
お互いの手を取り合い、見つめあうお二人の中に私の存在はないのでしょう。いえ、入りたいとも思っていませんが。
なんにせよ、殿下の希望と令嬢様の愛。そこに私への謂れなき誹謗中傷。全てを一緒に考えれば私のとるべき行動は一つ、ですわね。
「私がそちらのご令嬢にしたと仰られていることは後ほど真偽を確かめるとしまして……婚約破棄の件、了承いたしました。……つかぬことをお聞きしますが、殿下はそちらのご令嬢と婚約を?」
「ふん、当然だ。フィーリン、これで私と君の間には何のしがらみもない。私の妻としてこの国を支える国母になってくれないか」
「アレク……私、嬉しい……」
「…………フフッ」
殿下のあまりにも的外れな発言に私は思わず笑みをこぼす。とたんに私に厳しい視線をぶつけてきた方がいらっしゃいますが痛くもかゆくもありませんわ。
それほどまでに殿下の発言は的外れで、愚かしい。
「なに笑ってんのー? 婚約破棄されて、おかしくなっちゃったー?」
「フフッ、いいえ。申し訳ありません、殿下があまりにも滑稽で」
「なっ……私を愚弄するか!?」
「いいえ。ですが殿下、その発言はあまりにも愚かですわ」
「なにっ……!?」
「さて、そちらのご令嬢が殿下をお選びになられたということはほかの方々は……」
顔を真っ赤にして怒りをあらわにする殿下を視界から外し、ほかの三人の方に微笑む。鼻白んだように目を見開いた三人は不快そうに眉を顰めたり、目を逸らしたり、頬を染めたり。
あら、思ったよりも他愛のない方も交じっていらっしゃるのね。
「何が言いたいのですか」
「お聞きします。私の婚約者となってくださいませんか?」
「なっ……何を言う!」
「言葉の通りですわ。どなたでもかまいません、私と婚約を結んでくださる方はいらっしゃいますか?」
私の言葉に婚約破棄をしたばかりだというのにと吐き捨てる次期宰相様。その発言は同時に殿下を非難していると気づいていらっしゃるのかしら。まあ気づいていらっしゃらないでしょうけれど。
次期宰相様に私との婚約の意思はないと理解した私は次期騎士団長様と次期宮廷魔術師様に目を向ける。
無言で目を逸らした次期騎士団長様とアワアワと頬を染める次期宮廷魔術師様を見比べて私は笑みを深めて言葉を放った。
「次期宮廷魔術師様、いかがでしょう」
「え! えと、ええっと……僕にメリットないよね! こ、断るよ。うん、もちろん!」
「確実な権力と地位をあなたに」
「え……?」
「もっとわかりやすく言いましょう。――次期国王の座をあなたに」
私の言葉に一番驚いたのはどなたでしょう?
三者三様の驚き方に私はわざとらしく首を傾げてみせる。一番最初に反応を見せましたのは意外なことにご令嬢でした。
「どういうことっ、ですか」
「何がでしょう?」
「次期国王の座をって……次期国王はアレクですよ!?」
「そ、そうだ! なぜおまえとの婚約で次期国王になれるというんだ! 馬鹿らしい!」
「勘違いなさっているようですので言いますが……殿下が次期国王ではないのです。私の夫たる方が次期国王なのです」
殿下が第一王子であり、すなわち第一王位継承者であることは違いありません。ですが今代に限って言えばそれは絶対ではないのです。
その理由は私の家である公爵家。今代の王家は公爵家の血を王家に入れることを第一をしており、王族の血は入っていればいい、とその程度の扱いなのです。
次期宰相様も、次期騎士団長様も、次期宮廷魔術師様も王家の血を少なからず引いていることはすでに把握しております。ので、私の婚約者は別に殿下でなくでも構わない、というのが実情です。
「なっ、なっ、そんなこと聞いていないぞ!」
「殿下には少なからず説明があったはずですわ。ないとおっしゃるのであれば陛下が伝えなかったのでしょう」
「そんな、そんな馬鹿なことが……」
「私も、全く知りませんでしたが……」
「次期宰相様であっても知りうることなどできませんわ。なおかつ、王家の血を引いているのですから。万が一、反逆を企てられてはいけませんもの。次期騎士団長様と次期宮廷魔術師様も同じ理由ですわ」
さて、あまり長くなってしまっては時間の無駄ですわね。
私は呆然としている次期宮廷魔術師様の前まで進みその手を取って告げる。
「私と、婚約してくださいますか?」
「あ、いや、えと……はい?」
「ありがとうございます。それではこれで失礼いたします。次期宮廷魔術師様、正式な婚約は明日書を届けさせます」
「あ、うん……」
ついでに殿下にも私の潔白を表す書面を作っておかなければ。もちろん、届けるのは私と次期宮廷魔術師様の婚約が正式なものになってからですが。
ありがとうございました。
なぜかよくわかりませんが婚約破棄もののネタが湧いてくるのでガリガリ書いて書き上げられたら投稿したいと思います。




