【序章】雨の日 運命の夜
この作品を初めて見る方も、初めてでない方もどうぞよろしく。
短編のシリーズ完結に向け、加筆修正し連載としました。
更新頻度は週一回予定。
すでにほぼ出来上がっているため、作者が倒れない限りは更新されます(笑)
それではごゆっくり。
酷い雨の中走っていた。泥水は跳ねるし、アイロンをかけたばかりの制服は濡れるし、辛うじて頭部を守っている折り畳み傘はあまり役目を果たしていないし、むしろ捨ててしまいたいくらい邪魔だった。
「はっ、はっ……っ。」
夜の繁華街の、狭い路地の中。視界は暗く、狭い。気を抜けば不規則に現れる水溜りの泥に足を滑らせ転けそうになる。ここで転んでしまえば、やつらに追いつかれてしまう。狭い路地のの中では少しの油断が命取りだった。暗闇は、少女には決して優しくない。
怖い、怖い、怖い……! 恐怖だけが足を動かしていた。濡れて冷え切った足にはもう感覚はなかった。それでも必死に動かす。どこかで挫いてしまっているかもしれない。もうまともに走れてすらいないのかもしれない。追っ手の足音はまだ消えない。自分の心臓がまるで鼓膜近くにあるかのように思える。心臓が早鐘を打って痛い。……お願い、見逃して。体は濡れて冷え切っていたが、相反するように喉はカラカラだった。
繁華街を抜けた先、河川敷沿い。賑やかな明かりは減ってポツリ、ポツリと小さな灯りが点在している。どうやら追手は何とか撒けたようだ、私はようやく足を遅め、それでも恐怖心から立ち止まりはせず無意識のままに一軒の店の前へと足を運んでいた。
Cafe and Dinning Bar KURONEKO
店の前に立てかけてある黒板には名前と一緒にメニューが書かれていた。柔らかな間接照明が闇の中を照らしている。思わず中を覗く。平日のこんな時間にいるお客は少ないようだ。カフェはガランとしている。大きなガラス扉から見える店内の奥には柔らかそうなソファが置いてある。雰囲気はもちろん、店の周辺に置かれている植物にも手入れが行き届いている。何か温かいものを。体も拭かせてもらおう。お礼は、あとですればいい。私は吸い寄せられるように店の前へ。と、そのドアが開く。その少しの隙間から、心地よいコーヒーの香りが漂ってきた。私はその瞬間に足の力が抜けてゆくのを感じた。安心したのかもしれないし、細身の体は雨にうたれ、もう体力の限界だったのかもしれない。視界が狭まる中、男性の声を聞いた。
「こんばんわ、もう今日は店じまいで――ってあなた、大丈夫!?」
その声とともに私の意識は暗転した。