流るるままに廃ビルへ...
「で...アイツがその子?」
「そうそう、つか...アイツって言うんじゃねぇ!」
「ぐほっ」
悪津は見かけだけではなく、パンチの性質も悪かった。抉る様な拳が俺の背中に当たると、見事な快音を奏でて、俺の神経へ痛みを届ける。
「ちょ...ギブ...本当に止めてください...」
「あ?そんな強くやってねぇだろ?」
遺伝子レベルで俺に刻まれた、不良=怖い。の法則は、実体験を得たことで上書きされる。
不良=ごめんなさい。に...
ーーー情けねぇな~...でも、諸々 俺のが勝ってるし。う、うん。大丈夫。今日もカッコ良いぞ、俺。
「後さ...本当のこと言うと...
俺 目悪いから見えないんだわ。もう少し近付かねぇか?」
「待て!アイツら『ピヨピヨ丸』っつーチームなんだよ、覗き見してたことバレたら気合い入れられっぞ?」
「うし、離れよう...ちょ、おい!
マジで離れよって!!お願いだから!!」
近付くなとか忠告しといて近付いて行くってどうなんですかねぇ...俺は悪だと思います。
俺の制止を無視して、『ピヨピヨ丸』の溜まり場である路地裏にある廃ビルの入り口へと近付いていく。
「なんだ?お前」
明らかに下っ端風の門番が悪津に絡む。
緊迫した状況に俺の足は一瞬止まるが、なるようになる!と持ち前の楽観視スタイルで、二人の間に入る。
「い、いやぁ...すいません。こいつ方向音痴なもんで...ほら、行くぞ?コンビニはあっちだって!」
「お前は黙ってろよ、小者、足震えてっぞ」
下っ端が俺を煽りにかかる。
そんな安い挑発に...乗ってやるよぉおお!!
「う、う、うるせぇ!!
ヤンバルクイナのクチバシみたいな髪型しやがってぇえ!」
「あぁん?これはな、リーゼントっていうんだよ。舐めてんのか?コラ」
雑魚程よく喋るとは、今の現状のことだろう。
百聞は一見にしかず...俺が下っ端と口論している最中、圧倒的 強者であろう悪津は廃ビルの中へ歩を進める。
ーーーか、勘違いすんなよ?俺は悪津の周りの雑魚担当なんだよ。
「お、おい!待てよ!!」
「うるせぇな...」
「ま、マジかよ」
一発...たった一発で下っ端は宙を舞った。
そのまま、弧を描き、地面に突っ伏す。
winner-悪津。
コイツが居れば、デカイ顔出来るんじゃないか?と再び現れた楽観視に言われるがまま、俺は悪津の後ろについて、廃ビルの中へ入る。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「総長、コイツ等が侵入者っす」
結論を言おう。廃ビルに入って五分で捕まった。
俺の予想を遥かに裏切ったのは、悪津だ。
彼は、喧嘩するつもりで廃ビルに赴いたのではなく、件の彼女と談笑を楽しむが為に来たらしい。
本当に言葉足らず...俺なんて勘違いして、抵抗したら二、三発殴られたんだぜ?
そして、連れて来られた場所は、廃ビルの四階。
総長と呼ばれた男はソファーに座り、その周りに取り巻きが何人も控えている。
気になる点があるとすれば、今から土下座をしようと思っている俺の目の前で、既に土下座している男達が居ること...
なに?カラオケの歌詞みたいな感じで、土下座のフォーム教えてくれんの?そんな間違った親切が利いてるチームなの?侮れん『ピヨピヨ丸』...
「お前ら名前は?」
総長と呼ばれた男が口を開く。
取り巻きと違い、総長は特攻服を着ておらず、ラフな格好をしていて、髪型も金髪のツーブロックと洒落ている印象を受ける。
「悪津 國人志...ヤンキーやってます」
「お前は?」
悪津が名乗ると、俺を指差して呟く。
「解導 秋兔...です。パンピーやってます」
「...」
「えーと...」
「解導か...お前、面白れぇな」
そう言うと爆笑し始める。
そのまま冷たい目で俺を見ると一言。
「今井 静夜だ。
よろしくな」
なんだかんだ気に入られたと思った。
案外、良い奴なんじゃないか?と思った。
でも、俺の予想は、またもや裏切られる。
突如、右足を上げたかと思うと、俺の目の前で土下座している男に踵落としを食らわした。
「あ、あぁああああ!!」
いきなりの出来事に、俺は鳩が豆鉄砲状態。
後頭部をブーツの踵で抉られれば、当然 悶絶するだろう。土下座男は発狂しながらのたまわる。
「コイツは、俺の陰口言ったり、命令に背いたんだが...お前らの用事はなんだ?」
高らかに宣言した言葉は、屑のそれ...
俺を遥か上回る、屑々(くずくず)しい言動にド肝を抜かれる。
「おい、大丈夫か?」
悪津が土下座男に駆け寄る。
俺は屑で、我が身が可愛いので、黙っている。
「悪津。命令だ。ソイツから離れろ」
「ふざけんな!やり過ぎだろ!!」
「そうか...残念だ。解導 今日は帰って良いぞ。
明日、悪津を引き取りに来てくれ。楽しいショーを用意して待っている。ちなみに、これは命令だぞ?」
言い切って、手で払う仕草をすると、取り巻きが俺の両側に立ち、俺を廃ビルの外まで連れていく。
廃ビルから押し出された直後...悪津の絶叫が聞こえてきた。
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