依頼は絶対実行、絶対にだ。
秀才君の話を聞いた所、彼は小中と女子達からモテることなく、苦い思いを噛み締めて生きてきたらしい
。が、今日 下校しようと下駄箱を開けると、匿名のラブレターが入っており、中身を見ると、今日 午後6時30分に近所の公園にて話がある。とハートがふんだんに散りばめられた、丸文字で書かれていたらしい。
彼曰く、この字はF組の佐藤さんだと言う。
「で、田中君は何を相談したいの?」
俺達の会話を珈琲を淹れながら聞いていた渡瀬が、俺と秀才君に珈琲を渡しながら尋ねた。
「実は僕...頭に自信はあるんですけど。
顔には余り自信がなくて、おまけに服も子供っぽいモノしか持っていないんですよ。
だから、お二人の力を借りて、公園に来た人をギャフンを言わしたいですね!」
「それを相談したいんですね...
よし、社長!!」
「もう、社長呼びなのかよ...
どうした?」
社長と呼ばれて悪い気がするはずもない。
強いて言うなら、爆乳の美少女に社長なんて呼ばれると、いけない妄想をしてしまいそうになる。
必死に口角を下げて、目を曇らせる。
OK...平常心。平常心。
「田中君のコーディネートをしましょう!!」
「いや、悪いが...もう6時20分だ。
そんなことしてる時間は無い」
「う、うわぁああ!本当だ!?
どうしよう...」
「落ち着け...秀才君。
俺らはコッソリ草むらから見といてやるから...行くぞ!」
秀才君を先頭に事務所から出る。
その間、洗面所に行き、ワックスで適当に髪の毛をオールバックにする。
その後は、おじさんが浮気調査の際に使っていた、変装用のカラースプレーで髪の毛を金にする。
後は、調子に乗って買ったダサいスカジャンを着込む。
「なんでそんな格好してるんですか?」
「いやぁ...どうも負け組の血が騒いで」
俺の予感が当たらないことを願いつつ、俺達は公園までの道を走り抜けた。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「あ、来ましたよ!
なかなか可愛い子じゃないですか」
「目悪いから見えん」
草むらにしゃがみかんで目の前の少年を観察する俺達は、他人からすると怪しい人間だろう。
人の目を気にし過ぎてしまう俺は、不意にそんなことを考えて死にたくなる。
丁度、俺達の五メートル程 先でブランコに腰かけて手紙の差出人を待つ秀才君は、後ろ姿だけでもキョドっているのが手に取る様にわかった。
奥から歩み寄って来た女子が秀才君の隣まで来ると耳を澄ませる。
「お腹減ったなぁ」
「黙れ、爆乳女」
視力の悪い俺だが、秀才君の隣に居る女子がある程度の美形であることは見てとれた。
二人が並んで話しているのを見ると、不釣り合いさと不自然さが心に波を立てる。
耳を澄ませていても、二人の声は小さく殆んど聞こえてこなかったが、二人が話し始めてから5分 急に声を大きくした女子の声を耳に止まる。
「な~んて嘘だよ?罰ゲームwww」
その言葉が酷く心をざわつかせた。
学生特有の人を馬鹿にする時に出す、声音も表情も、残念な人を見る様な目も全てが鮮明に俺の瞳に映る。
先程まで腹減った。などとボヤいていた渡瀬も、突然のことに固まっている。
「もしかして、本気にした?
嫌だよ、君みたいに気持ち悪い奴に告白するなんてw」
「なんで?」
「キモいキモいw
ちょっと、たかしー!なんか半泣きなんだけどw」
「おまwバラすの早すぎだろw
いやぁ...ごめんな?田中君?
罰ゲームだからさwそんな悲しそうな顔すんなよw遊びだろ?遊び」
テンプレな様な展開に溜め息すら出てくる。
現れた男子は、もし田中が切れたりした時の為に連れて来た保険だろう。
それに、俺達な様に何処かで隠れて、必死に笑いを堪えて田中の惨めな姿を動画にでも納めていたとか、そんなところか...
以外だったのは、渡瀬が動き出したこと。
人に興味が無い。そう言っていた少女も、ここまで汚い最底辺の世界を見れば、思うこともあるのだろうか...立ち上がって田中の元へ向かおうとしている。
「待て、渡瀬。
俺が行く...俺が呼んだら出てこい。んで話合わせてくれよ?」
「ちょっと!待って下さいよ!」
「俺に任せろ?屑には屑のやり方があるんだよ」
カッコつけたは良いが、正直 足は震えていた。
夜の帳が降りる中、コミュ障の俺が踏み出す。
ガリ勉を救うために...
何もカッコ良く無い現実に空しささえ込み上げてくるが、これが俺のしなければならないこと。
受けた依頼 『公園に来た人をギャフンと言わせる』それを実行すべく俺は足の震えを隠して飛び出した。
内容が屑へ屑へと進んでいく。
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