事実は小説より奇なり。
事実は小説より奇なり。
そんな言葉を頭の端で思い浮かべた。
まさか、自分でも曲り角で女の子と衝突するなんて思ってもいなかったので、正直 焦っている。
「すすすすす、すすい、ませぇぇぇ...ん」
我ながらコミュ障だなぁ...と実感してしまった。
たった五文字の言葉ですら、このキョドり方。
ーーーなんて言うか...死にたい。
一人、世界を憂い、冬口の交差点で絶望していると、一つの事実に気付く。
「へ、返事がない...ただの屍の様だ」
目の前の少女は気絶していた。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「な、何してんだろ...俺」
人は予期せぬ事態に陥ると、予期せぬ行動をとってしまうらしい。事実、俺は気絶した少女を背負って、人通りの少ない路地裏へ来ていた。
我ながらアグレッシブ過ぎると思う。
しかし、彼女を改めて観察すると色々な事実に気付く。まず、顔が整っている。
この時代にお姫様の様な風貌を持ち、長い茶髪に緩いウェーブをかけた髪は流れる水の様な繊細さと清純さを兼ね備えていた。
そして、何よりも大きいのだ。
女性に備わるシンボルが...辛抱たまらん。
推定、Dカップのそれは魔王の様な存在感を放ち、無機質な路地裏を淡いピンク色に染める。
「お、落ち着け...気絶しているんだぞ?
もし、手を出せば犯罪だ...そこまで腐っちゃいないだろ...落ち着け!!俺の勇者ぁぁああ!!」
路地裏に怒号が響く、俺は寝そべった少女の肩に手を置く。
ーーーす、吸い込まれそうな唇だ...
俺の唇は彼女のブラックホールへと吸い込まれていく、まるで、それが世界の意志だと言う様に...
ゆっくり...ゆっくりと。
「ん...」
「っ!?」
僅かだがピクリと彼女の体が動いた。
その瞬間、俺の新陳代謝は限界を越え、ナイヤガラを彷彿とさせる量の汗が全身から吹き出す。いや、噴き出す。
「お、俺は悪くない!!」
「...え?」
少女の側から飛び退くと路地裏を抜け走る。
何処か遠くへ、それだけを考えて足を動かした。
刹那、俺は風を追い抜いた...
気になった。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「本当に地獄だった」
職員室から出てきて呟いた、一言。
今朝の交差点イベントのせいで、遅刻した俺は、担任の鬼瓦 修羅先生から拷問...もとい、指導を受けていた。
指導から得たことを語ろう。
彼はジャパニーズマフィア、つまり、ヤクザだった。
俺の通う秋風高校は、ごく普通の学校だ。
一年から三年まで各五クラスずつあり、部活も野球やサッカーなどの体育会系、茶道や吹奏楽などの文化系があり、学力はそこそこ。本当に普通。
妙な点は、『生活向上促進部』
通称 生進部とかいう部活があることぐらいか...何やら、この部活 学生の生活を向上させようと相談に訪れた生徒の悩みを全力で解決する部活らしい。某 人気漫画みたいな活動内容から部員達のアホさ加減が伺える。
ーーーーー
ーーー
ー
「なぁ、今日 帰りカラオケ寄って行かねぇ?」
「良いなぁ、お前らもいくだろ?」
「「「行く行くーー」」」
何時も通り 昼食の時間は寝たふりで過ごす。
俺の耳には馬鹿共の楽しげな会話が流れてくる。
学校の昼特有の喧騒をBGMに今朝のことを思い返す。美少女との衝突、犯罪に手を染めそうになったこと、そして、逃亡。
「ろくなもんじゃねぇな。イベントなんて」
大きく溜め息をすると、教室を後にした。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
特に何もなく学校生活を終え、家路を急ぐ。
いくら、昨今の日本が異常気象にみまわれているといえ、やはり寒い。
悴んだ手を擦りながら事務所へ続く階段を駆け上がる。ドアを勢いよく開き ブレザーを脱ぎ捨て、俺専用の椅子へ腰かける。
「間に合った...後、10分か」
普段から授業が終われば、急いで帰宅する俺だが、今日は何時にもまして急いだ。
理由は一つ、今日は面接があるのだ。
『解導 相談事務所』の先代 秋浩はバイトを募集していたらしく、今頃になって面接志望者が現れた。
雇う金などあるはずもなく、断ろうと思ったが、俺自身 まともに接客が出来ないのでバイトに接客をさせれば報酬も出るんじゃね?なら、給料も払えるし!!などと安易な発想で面接の日取りを決めてしまった。
ちなみに、面接志望者が女子学生だから面接をしようと思ったわけではない、男子でも然るべき判断をくだしていた。
トントントン...とノックの音が室内に流れる。
そう、面接志望者が来たのだ。
どんな子が来るのかな?
可愛いのかな?
そんなことを思うとドキドキしてくる。
俺の気分の高揚を表すなら。
ーーーオラ、ワクワクすっぞ。
このワンフレーズに限る。
「どうぞ、入ってください」
普段の三倍は低く渋い声でドアの向こうの美少女に声を掛ける。あ、美少女って勝手に決めてしまった...これでブスが来たらどうしよう...
「失礼します」
そんな心の葛藤なんて露知らず、事務所の扉は開け放たれた。
「面接に来ました。渡瀬 菜月です。よろしくお願いします!!」
その声と共に現れたのは、今朝 俺とイベントを起こした美少女。
直感的に俺は叫んだ。
「た、逮捕しないでくだざぁあぁあいい!!」
ふぅ...アドバイスをくれた偉大なる機場先生に敬礼。
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