影勇者は仲間を増やした
襲撃から一週間。今の俺はとても気分がいい。理由は簡単、褒賞金を貰えたからだ。グレイは以外に太っ腹で、俺の分だけでなく、レイティアの分までくれたからだ。
「おいおい、上機嫌過ぎて怖いぞ。それよりもシューヤ、本当にギルドに入るのか? 私は構わないけど……」
とレイティアが言っていても俺は歩き続ける。と思ったらストップだ。着いた。ギルドだ。宝石を持った龍が看板に描かれている。これがギルドのマークだな。
確認したらすぐに扉を開けた。開けると、すごく騒がしかった。昼だというのに酒を飲んでいるオッサン、机や椅子を壊しながら喧嘩している青年、それを見て笑っている女の子。
俺の思っていたギルドとは全く違う! むさいオッサンや、いかついオバサンだらけではない分いいが、騒がしすぎる。
「あら? 見ない顔ね。今日はどうしましたか?」
ウェイトレスっぽい人が来た。もちろんオバサンではなく、若い女の子。金髪碧眼だ。やっと異世界で金髪碧眼が出てきた。
「えーと、ギルド登録したいんですけど」
と、返答すると人が飛んできた。それを蹴飛ばして返事を待つ。
「分かったけど……魔法使える? ここ、魔導師ギルドよ?」
その返事として五つの魔法陣を一瞬で展開した。
「ああ、基本の魔法じゃなくて特有魔法。使える?」
特有魔法って何だ? という顔をするとレイティアが血を操れと耳元で囁いてきた。
「あー、あれか。」
とりあえず血を生成し、操った
「使えるようですね。そちらの方は?」
「レイティアは俺の契約精霊です。」
「えーと、一人前になるまで二人以上でチームを組まないといけないんです。」
……………なん………だと………
「チームを組む人を連れてまた来てください。」
そう言われて俺は知った。この世界はクソゲーであると。俺は大人しく城に戻った。
「グレイ! 特有魔法使えるやつ紹介しろ。」
グレイの執務室を蹴破っていい放つ。
「『ドラゴンジュエル』へ行けばたくさんいるぞ。それよりもシューヤよ。一応ワシは王様だぞ?」
「もう行った。宮廷魔導師ぐらいなら使えるやついるだろ。」
「さあの? シューヤもソーマのように修行したらどうだ。」
「断る。颯天みたいなのとは違う。邪魔したな。」
扉を開きっぱなしで出ていった。
「レイティア、どうすればいいと思う?」
もう俺には宮廷魔導師の集団への殴り込みしか思い付かない。
「どうしようもないね。そうねぇ、殴り込みしたら?」
ダメだこいつ。
「………」
あー、何も思い浮かばねえ。俺が解決策思い浮かばないとか異常だな。
「あなたが昨日連立魔法陣を展開した人だよね?」
!!!?
後ろを取られただと!? 気配感じなかったぞ。
「連立魔法陣?」
こういうときは後ろを振り向くのは危険、こうして焦らずに…
「あなたの魔力異常、私よりもあるしね。あなた以外にあり得ない。」
俺にとってはこの状態があり得ない。声からして女、身長は俺と頭一つ分違うだろう。
「えーと、《ダークトリニティ》をたくさん展開したやつかな?」
それ以外にあり得ないだろう。これで違うならお手上げだ。
「少し違うよ。あれもだけど、その前の魔力の拡散。あれも合わせて、連立魔法陣。」
「あれ見てたんだね。」
「帰る途中で、遠くから見てたよ。いきなりたくさんの魔力が空に見えて、それが魔法陣になったのにすごく驚いた。」
「君は魔力が見えるのか?」
「………精霊が邪魔だよ。」
人に聞かれたくない話か。正直俺はそんな話聞きたくない。理由は面倒だからだ。だが後ろをとられているし聞くしか選択肢がない。
「レイティアはどっか行っててくれ。そうだな、颯天の様子でも見ていてくれ。」
「……分かった。」
レイティアが素直に返事をして行ってくれた。こういう空気読むとこには助かる。
「もういいぞ。」
「見たくもないのに見えるよ。実験されたせいでね。でも潰したからいい。」
………似ているな。とても俺に似ている。俺も人体実験を受けた。そして楽に『絶歩』を使えるようになった。
「振り向いてもいいかな?」
「制限した覚えないけど?」
それもそうだ。振り向くと予想とは違い、俺の胸の位置に頭がある。腰まで伸びた水色の髪。整っているといえる顔立ち、おそらく美少女といっていい顔だ。
「名前は?」
「エリナ」
「ふむ、エリナは実験されて何を得たんだ?」
「『は』ってことはあなたも実験されてたの?」
「あまり思い出したく無いけどそうだ。エリナの話を聞くと昔の自分を思い出す。俺の場合感情のない殺人人形だったけどな。」
「へー、私は魔力が見えるようになった。そして魔力量がかなり多くなった。そのかわりに失われたものもあるけど……」
ポンポン
下を向いて落ち込んでいたようだったから頭を撫でてやった。すると顔を赤くして俯いた。うーん、怒ったのかな?
「嫌だった?」
「嫌じゃないよ。むしろ気持ちいい。温かい。」
ふむ、温かいか。はじめて言われた気がする。悪くはないな。
「あっ、エリナ、もしかして特有魔法使えるか?」
「使える。特有魔法は魔力ある人なら皆使えるよ。ただ力が目覚めていないだけだね。特有魔法がどうしたの?」
「えっとな……うーんと、エリナ、俺と行動しないか? 城から出てさ。」
「プロポーズ?」
「違う! こんなタイミングでプロポーズするやつがいる訳がない」
「エリナのこと嫌いなの?」
捨てられた子猫のような目で見てきた。く、猫に弱い俺にはキツい。
「別に嫌いじゃない」
「エリナはシュウヤのこと好き。温かい。」
くそ、面倒だ
「はは、人は皆生きていれば温かいぞ。俺だけじゃないぞ。うん、俺だけじゃない。」
「違う。撫でられると、体ポカポカする。」
なんじゃそりゃ、そんな症状見たことねえぞ。
「まあ何にせよ。一緒に城を出ないか?」
「駆け落ち?」
「違う! こんなタイミングで駆け落ちするわけない」
「いい。シュウヤといる。一生、永遠、命が果てるまで。」
「怖いな。はぁ、とにかく、そういうとこを直してくれ。まわりに人がいたら注目を浴びてしまう。颯天に見つかるのだけは避けたい。」
颯天はあの一件以来『絶歩』教えてとか言ってくる。あれはとても面倒だ。
しかも再会したらレイティアに惚れたりして、ものすごいアプローチをしていたし、そん時に「レイティアは俺のだ。颯天になど渡さん」って言ったから引き下がってくれたけど、レイティアがトリップしたせいで颯天の決意をすごい聞かされた。あれには呆れた。
「じゃあ行こう。エリナも勇者嫌い。」
嫌いとは言ってないんだが……
「だがレイティアを待たないとな。」
「ギルドの場所知っているの?」
「一緒に行ったし知っているはずだが」
「二人で行こうよ。もう夕暮れだしギルド閉まるかもしれないよ?」
ギルドが閉まるのはキツいな。レイティアも場所知ってるし大丈夫だろう。
「んじゃ、行くか。見つからないように急ぐぞ。」
「駆け落ちみたい」
などとエリナが頬に手を当てながら言っているがもう無視した。いちいち反応していたら疲れるしな
「待っていたぞ秋夜、さあ契約を破棄してレイティアちゃんと契約させてくれ。」
…………颯天とエンカウントしたようだ。二人の騎士団長もいる。レイティアは………向こうの茂みに隠れているな。
「わざわざ裏口で待っているとは、俺の性格をよくわかっているじゃないか。後、レイティアと契約破棄したら実体化が解けて颯天ごときの魔力じゃ見ることができないぞ。」
「実体化させたまま契約破棄を…」
「無理だな。不可能だ。結局お前とは契約もできないな。俺の魔力が海としたらお前の魔力は米粒だ。エリナ、グレイとこいつの魔力はどれくらい違う?」
「勇者<<<<<<グレイ(王様)=エリナ<<越えられない壁<<<<<<シュウヤ」
「グレイですら契約できなかったんだぞ? お前にできるはずない」
「勇者補正とかで……」
「お言葉ですがそのような補正はないと思います」
第一騎士団長が言った。その言葉に颯天ががっかりしている。
「颯天、残念だな。まあ契約破棄などあり得ないがな。」
「う、こうなったら…………勝負だ秋夜! 俺が勝ったら秋夜が契約した状態でレイティアちゃんは俺と行動する! 秋夜が勝ったら何もない!」
俺に得がないだと……そんな馬鹿な………
「やめとく」
「それはなしだ!」
「はぁ、もういい。時間の無駄だ。」
ナイフを抜いて構え、魔力を拡散させた。