勇者は迎撃する
「では勇者様、こちらの第一、第二騎士団長が共に訓練部屋に入ります。」
と、レイシアちゃんに言われた。第一騎士団長は赤髪の腰まで伸ばしたツーテール、緋色の目に、若干幼げな顔だが身長のおかげでまあ俺や秋夜と同じくらいの年齢に見える。町で十人に容姿について聞くと十人が可愛いというだろう
第二騎士団長は緑髪の肩まで伸ばしたボブカット。碧眼で、第一騎士団長とは違い、大人びた顔つき、身長は俺より10㎝ぐらい下で第一騎士団長と対して変わらない。こちらも可愛い。
「えーと、よろしく。名前は?」
「第一騎士団長 メティス・オキナ・クロードです。よろしくお願いします。」
「第二騎士団長 クーファ・ルドラ・エリトリア。よろしく。」
二人ともが挨拶を終えたのを見てレイシアちゃんを見た。
「終わったようですね。では、左の訓練部屋に入ってください。右に入ったらダメですよ。右は魔法が使えなくなりますから。」
どうせ使わないしそっちでもいいけど……文句は言えないしね。
「じゃあレイシアちゃん、行ってくるよ。行こうか、メティスさん、クーファさん」
三人で訓練部屋に入った。
「貴方が戻ってきた時、同じであるよう祈ります」
みたいなレイシアちゃんの声が聞こえたんだけど……
「では勇者様、早速…」
「勇者様は止めてよ。颯天って呼んでくれ。」
「ではソウマさん、早速訓練を始めましょう。」
王様はソーマって呼んでたのは言いにくいからではないのか。ま、気にしないけど
「具体的には何をするの?」
「覚悟を…人を殺す覚悟をしてもらいます。」
そんな、秋夜じゃあるまいし、人を殺す覚悟なんて必要ないでしょ。
「今から標的である人が三人出てきます。殺してください。私とクーファは危なくなったらガードします。」
人を殺す? そんな必要ないでしょ。勇者だよ? 勇者が人を殺すのはヤバイでしょ。いや、必要があるにしても、日本では殺人なんかと縁がなかった。秋夜にはあったけど、それとこれは別
「どうしました?」
メティスさんが首をかしげた。クーファさんも同じだ。嫌だ。人を殺すのは嫌だ。怖い。怖い怖い怖い怖い。殺した後の罪悪感が怖い。殺した後の自分が怖い。
日本でも人を殺していた秋夜はこんなことを感じたのだろうか。いや、あいつの場合は感じるための感情がないか。殺し屋の鏡だな。俺は殺し屋じゃないけど
「これって、秋夜もするのですか?」
「この国にいる兵は皆がすることです。しかし、宮廷魔導師のエリナは受けませんでした。そのような感情がなかったので、王様がなしにしました。」
もしかして、秋夜と同じようなこと……人体実験されたのか……ロシアのマフィアと同じことをするやつもいるのか。異世界なのに似ている。
「どうかしましたか?」
「いや、エリナちゃんに同情しただけだよ。」
「エリナは魔力が自分より高い人としか話しませんよ。この国で話すのは王様か私ぐらいです。私も王様も魔力は下らしいですけどね。あ、後一人当てはまる人がいましたが、行方不明です」
ぐっ、慰めてあげようと思ったのに……
「はあ、秋夜は入ってすぐに終わるんだろうなぁ。」
「シュウヤさんとは、貴方の片割れですよね? そちらは魔法が使えない上に、相手が七人ですから。すぐには出れないと思います。」
「いいかい、秋夜はケンカも強いけど殺し合いじゃもっと強いんだ。あいつは『絶歩』を使って消えて暗殺する。自称『最凶の暗殺者』だよ。七人なんて武器なしでも殺してしまう。」
本当に規格外だ。ロシアのマフィアも驚いただろうなぁ。秋夜に皆殺しにされたらしいし、まあ秋夜が言ってたことだけど
バン!!!
扉がいきなり開いた。そしてレイシアちゃんが入ってきた。
「勇者様!魔王軍が来ました!至急、この鎧を着て二人ともに迎撃に当たってください!私は兵を集めて追いかけます!門に馬を用意したので急いでください!」
チャンス! ここで手柄をたてれば人を殺す覚悟なんてしなくていいはず
「行こうメティスさん、クーファさん。」
「仕方がありません。下がれと言ったら下がってくださいね。」
それに頷き、門へと向かう。
門に到着するといきなり空に魔法陣が展開された。メティスさんとクーファさんは目を見開いている。騎士団長が驚いているということはそれほどすごいのだろう。
「うわっ、エグッ」
魔法が発動し、黒いレーザーみたいなのが放出し、空にいた魔物全てが消えたのを見てつい声が出てしまった。
「エリナは今いないはず……いったい誰が…」
メティスさんが呟いていた。秋夜かもしれない。でも俺には魔力ないのに秋夜にあるなんておかしい。というわけで秋夜ではないと思っておこう。
「いきましょう。」
俺が馬を走らせると二人がついてきた。
「うっはー、剣振ったら竜巻が起こってる! すげーなー」
トカゲとか緑の変なのが一杯いるがこの剣があればなんとかいけそうだ。
「キサマハナニモノダ。」
大きなトカゲが俺に聞いてきた。それに俺は剣を構えて言う。
「この国の、勇者だ!」
うん、こんな感じのやってみたかったんだよね。満足したよ。
「ユウシャ……オーガハナニヲシテイル。ユウシャヲシトメレルノハオーガダケダロウニ。コマッタリーダーダ。」
……ん、すごい聞きにくい。
「何でもいからお前を倒す!」
剣を水平に薙ぐ。それをトカゲが盾で防いだ。が、聖剣が光り、盾もろともトカゲの左腕と首を切り飛ばした。紫色の血が吹き出て、それを浴びた。血……
「う、うああああああ!」
突然血を浴び、正気を失った。紫色とはいえ血だ。とても臭く、吐き気を誘う。なにより、日本ではこのようなことはなかった。血を浴びることなど経験したことない。気持ち悪い。
「うっ、おえええぇぇぇぇぇ」
盛大に吐いてしまった。敵は俺が今倒したので最後、ダメだ。見られている。吐くのを止めなくちゃダメなのに、ずっと出る。二人が何か言っている。が、頭がガンガンして聞こえない。
「オマエガユウシャダナ。シンデモラウ。」
今はっきりと聞こえた。しかも真正面から、トカゲだ。またトカゲだ。今度のやつはさっきのよりでかい。明らかにさっきのやつより強い。
「オーガリザードマンだと…いないと思ったら今頃出て来たのか。クーファ、行くぞ。勇者様を助ける。」
トカゲが俺に剣を下ろした。あ、これはもうダメだ。秋夜、後は任せた。
キンッ!!!
甲高い音が鳴った。これは……メティスさんとクーファさんが二人で、二人がかりでトカゲの剣を止めた音だった。
「勇者様は逃げてください。自分達が時間を稼ぎます。」
少しトカゲと二人が戦って出た言葉。自分達では勝てないと思ったのだろう。俺だけでも助けようとしているのだ。二人は死を覚悟している。
クソッ、神様でも何でもいい。助けてくれ。戻ったらちゃんと修行する。人を殺す覚悟だってする。だから……
ブオオオオォォォ!
二人が飛ばされたところで二人とトカゲの間にXの炎柱が出た。魔法だ。明らかに魔法。だが誰が……
と、考えていると横から水の槍が飛んでき、炎に当たり、霧が発生した。
「うっ、おえええぇぇ」
また吐き気が襲ってきた。気持ち悪い。霧が晴れた。前にトカゲはいない。俺も二人も無事だ。良かった。
安心すると体が横に倒れた。疲れたようだ。溜まりに倒れなくて良かった。と考えると、意識が暗転した。