影勇者は迎撃する
今俺たちがいるのは城とは別塔の頂上、そこから見える景色は何もない。下まで見えない。
「………確かに、見晴らしがいい=一番高い場所……なのだがな。レイティア、歯を食いしばれ! このタイミングでボケやがって!」
「へ、へ、ダメなの!? シューヤが展望台的な場所に案内しろと言うから。私の展望台に連れてきたのに……でも、殴らないで……痛いのは嫌」
おろおろとして言うレイティアにため息をつき、王様を見る
「王様も知っていたんだろ?なぜ言わなかった?」
苛立ちを抑えて言う。ここ高すぎて何も見えねぇよ……視力良い方なのにな…
「面白そうだったからだ。」
王様が素っ気なく答えた。大変な事態で『面白そうだったから』でタイムロスさせたのか……
「王様、ちゃんとしてくれ。ここから落とすぞ?」
脅し気味に言ったが王様には効果はない。
「思ったが、王様とか言われるのは嫌だな。ワシの名はグレイ・シトラ・クロードだ。グレイと呼んでくれ。」
「じゃあグレイ、今度はお前が、真面目に、俺を良い感じの場所に案内しろ。ふざけたら歯が砕けることになるぞ。」
今度はマジの脅しを使った。これ以上無駄な時間を過ごすのは致命的だ。
「りょ、了解だ。」
とグレイが歩いていった。それに俺、レイティアが付いていく。レイティアが落ち込んでいたから頭を撫でつつ、慰めた。全く、世話のかかる精霊だ。
「役に立たなかったら潰す。」
「ひっ」
つい本音が出てしまった。それにレイティアが怖がっている。全く、面倒な精霊だ。
「ここでどうだ?」
グレイが立ち止まり、言う。ああ確かに。中々良いな。ここはおそらく庭だ。外は良い感じに見れる。
無論、魔物が向かってきているのが見える。結構近づいている。あと300mぐらいだろう。
「この陣形はオーガリザードマンが大将だろうな。厄介なやつが来たな。」
グレイが「これこそシューヤの初陣に相応しい。」と、付け足していたが聞こえない。
空にはドラゴンとは違うトカゲ、それに股がるトカゲ男。
陸には緑色の人間もどきや、1つしか目のない奇妙な人間もどきがいる。その先頭には大きなトカゲ男
「シューヤよ、《ダークトリニティ》は魔力消費が激しすぎるから時と場所は…」
とグレイが言っている間に魔方陣を展開した。展開した魔方陣は《ダークトリニティ》とは違う魔法。いや、魔法と言えるものではない。
「その魔方陣は何だ? 《ダークトリニティ》意外教えてなどいないし、そのような魔法は…」
存在するはずがない。俺が先ほど考えた魔方陣だから。
「拡散せよ。」
呟くように言うと、その魔方陣が霧散した。グレイは失敗したと思っているだろう。だが、
「成功だ。レイティア、手伝え。」
「やっと出番だ。シューヤに役に立つってことを思い知らしてやるんだから。」
レイティアが先程霧散した粒子の含まれている空気に魔力を込めた。
「なんと!?」
グレイが驚いている。無理もないだろう。上空には無数の魔方陣、それも全て闇属性最強の大規模魔法なのだから。そしてそれは空のトカゲ軍団のところまで、無数の魔方陣が直線上に並んで展開されている。
「レイティア!どうせ俺の魔力だ!放て!」
今、この魔方陣の所有権は俺にではなくレイティアにある。俺がしたのは魔力の拡散だ。それをレイティアが自分の魔力を少しだけ通し、魔方陣として展開させた。だからレイティアにあるのだ。
「ふふん、シューヤのを奪った気分だけど…《ダークトリニティ》」
レイティアが唱えると魔方陣が光り、黒い、エネルギー波を放った。魔方陣が展開された時に魔方陣外へ逃げ出そうとしているトカゲも全て逃げれなかった。空のトカゲ全てを巻き込んだそれはまだ止まらない。
「レイティア、これ、隣国に当たったりしないよな?」
少し心配だ。隣国に当たったらその国が滅びるだろう。
「大丈夫、魔王城に着弾。魔王城は無傷だけど魔王城周辺が滅びた。」
あれを受けて無傷か……
「空の敵はいなくなった。後は陸だけだ。レイティア、武術は心得ている………わけないよな。グレイは……時が止まっているな。」
「それはそうだろう。あれだけの魔方陣を……魔力量はどうなのだ!?」
無限です。とは言えないな……無視するか。いや、話題を変えよう。
「それよりも陸のやつらだけだが、後はグレイ達に任せるか? てか俺も少し迎え撃ちたい」
と、言ったとこで、馬に跨がった三人が城から出てきた。しかもその中の一人に見覚えがあった。颯天だ。
「グレイ、あいつが人の形の魔物を殺せたとは思えないのだが、いいのか?」
「ふむ、レイシアの仕業だろうな。余計な真似を……とは言えないな。シューヤよ。ソーマが危なくなったらガードできるようにソーマの近くに行ってくれぬか?」
ちっ、仕方ない。
「レイティアは待機だ。俺一人で行く。どうせ無駄足だろうけどな。」
「そんなこてはない。オーガリザードマンは中々強いぞ? とにかく、早急に……」
グレイの話の途中に城から飛び降りた。もちろん、気配を絶ってだ。颯天に気付かれないようにするためだ。
「馬なんか使いやがって……だが追い付ける。ナイフの力で一気に吹っ飛ぶ。」
呟きながら武器庫から貰ったナイフを抜き、体に刺した。刺すと分かるような気がする。ナイフに魔力を吸収されているのが。
「治癒魔法とか聞いとけばよかった。まあいい、こんな痛みは元の世界にもあったことだ。慣れている」
ナイフを抜き、呟き、魔力を吸収したナイフを振るう。すると衝撃波が起こり、俺が文字通り吹っ飛んだ。
「おー、できたできた。気配を絶っているとはいえ、気づかれそうだな。ま、いいや。俺の任務は颯天のガードだしな。」
颯天を発見した。そこで止まり、様子を見る。颯天が剣を振ると光の竜巻が起きたりして物凄い。颯天の隣の女二人も中々だ。次々と魔物を倒していく。
「やっぱり無駄足………」
そこまで呟いたところで剣が俺に降り下ろされた。それをさっと避け、相手を見る。相手はオーガリザードマンと呼ばれた敵の大将だ。
「何で俺なんだよ。ほら、あそこにこの国が召喚した勇者がいるぞ? 俺なんかより首に価値がある。」
「ヨクイウナ。オマエガ、ワイバーンヲマホウデ、タオシタノハ、ミテイタ。」
あーあ、見られてたのかよ。だけど俺がしたんじゃないがな。
「はは、残念だが今の俺はお前と戦う必要はない。戦いたいならあそこで剣振って竜巻起こしているやつを半殺しにするんだな。」
と、いうにも関わらずオーガリザードマンは怒濤の攻撃を仕掛けてくる。隙だらけだが反撃はせず、避け続ける。
「ナゼハンゲキシナイ。」
「俺があんたを殺しても颯天のためにならないからな。俺はギルドに入ろうと思っていて、国のためには颯天の経験をあげなくてはならない。あんたは
そのために生きて颯天の相手をしてもらう。」
「…………《アクアランス》」
魔法陣を展開したオーガリザードマンは発動した。俺に向かって五つの水の槍が飛んでいる。
「甘いな。《アクアランス》」
今オーガリザードマンが展開した魔法陣を真似て展開し、発動する。もちろん多重魔法陣、合計、百の水の槍がオーガリザードマンの《アクアランス》に当たる。
「魔法使えるなら全て使え。全て一瞬で覚える。」
俺の挑発に乗ったオーガリザードマンが必死に魔法を放つが全てそれの十倍以上の量を放つ。
「ナゼコロサナイ。キサマノジツリョクナラ、コロセテイルハズダ。」
「だから、颯天の為にだな……もしかして魔力切れ?
「ソウダ。モウキサマニカテルキガシナイ。ヒト、リザードマンオモイニコロセ」
こいつは武士かよ……
「はっ、敗北者は黙れ。さて、そろそろお前の部下が全滅する。ほら、あそこに出ていけよ。」
きつめにいうと、オーガリザードマンは血相を変えて部下を見た。そして俺を見、部下を助けに行った。
「もう帰って良いかな? 魔力切れのオーガリザードマンなんて雑魚。いくら颯天でも倒せるだろ……」
そう思い、俺は城へ戻ろうとする。が、足を止める。颯天が吐いているのだ。オーガリザードマンが向かっているのに無警戒に吐いている。
『ヤバイ』そう思った。颯天の隣にいた女騎士二人も消耗して限界寸前。それに対しオーガリザードマンは魔力切れだが体力がありすぎる。颯天は吐き続けている。
「く……颯天………」
一応颯天はたった一人の友人、感情があまりないといっても心配はする。だが、心配事を潰しはしない。死にかけたら時に助けに入ればいい。颯天の経験のためにもと考えると動けない。
オーガリザードマンが女騎士二人を相手にしている。女騎士二人が何か言っている。読唇術を使いと、「勇者様は逃げてください。自分達が時間を稼ぎます。」と言っていた。
オーガリザードマンは二人を圧倒していた。それはそうだろう。きっとこの世界では魔物と人間の体力は天と地の差があると思われる。俺とオーガリザードマンが魔法を撃ち合っている間、二人はずっと戦っていたんだ。疲れているに決まっている。
「見てられないな。《イクスフレイム》」
二人とオーガリザードマンが離れたところで、間にXの火柱があがった。これはオーガリザードマンへの警告、これ以上は見過ごせないということだ。
オーガリザードマンは一度こちらを見た。それに俺が視線を軍団が来た方向にやる。撤退を指示している。
「《アクアランス》」
魔法陣を展開し、発動する。すると水の槍五本が《イクスフレイム》に当たり、水蒸気が発生した。
オーガリザードマンへの配慮だ。これで逃げなかったら確実に殺す。その用意のため、次の魔法陣は展開してある。
用意は無駄だった。オーガリザードマンは逃げたようだ。颯天はまだ吐いている。溜まりができている。折角のイケメンがもったいない。女騎士二人は助かったと腰を下ろしている。
「今度こそ戻るか。あーあ、気持ち悪いもの見てしまった。オーガリザードマン意外は全滅したしいい結果だろう。」
褒賞金が出なかったら絶対に城を崩壊させる。出たら出たでそれ持って退散する。そして、ギルドに入る。そこまでなら計画済みだ。
「ふふ、この国使ってリアル信長の○望するのもまた一興だが……魔王が邪魔だな。本当に面倒な世界だ。」
などと呟きながら城に戻った。