勇者は聖剣を装備する
聖剣……勇者………もしかして俺、秋夜と一緒に異世界に来た?
と、やっと理解したのは秋夜が王様と話しているときだ。正確には武器庫に向かう前。
秋夜はもう理解しているのだろうか。と思うが元の世界でも順応性が高すぎるのを知っている。きっと秋夜は大丈夫だ。
「勇者、主の名前はなんだ?」
突然呼ばれて我に返った。そうか、俺が勇者なのか。じゃあ秋夜は何だ? いや、今は王様に失礼なく話す。それがいい。なんたって俺は勇者だ。
「俺の名前は河上颯天。こちらではソウマ・カワカミです。よろしくお願いします」
頭を下げて挨拶をした。頭の中では王様に失礼なくと意識しすぎて、敬語、礼儀という単語が渦巻いている。
「そう固くならんでも……勇者ソーマか、勇者ソーマよ。こちらへ。聖剣を使えるかどうかを知る。」
「はい。分かりました。」
聖剣という単語にドキドキしながら王様の近くによる。回りの家臣達に注目を受けている。
こんな勇者で大丈夫か?と思われていたらどうしよう。すごく不安だ。
「このカードに魔力を込めてくれぬか?シューヤのやつは断ると思ったからなしだ。」
王様の近くに来るとカードを渡された。いきなり魔力を込めてくれといわれてもなぁ。
って、王様意外と歴戦の勇者的な体つきだな。顔は整っている。髪は青色、目は深青色だ。
「失礼ですが王様は聖剣を扱えないのですか?」
あんな体をした人が使えなかったら俺に使えるはずがない。不可能だ。
「いや、使えるがな、聖剣本来の力は出せん。如何せん、ワシの魔力が高すぎるからの。聖剣は魔力を好まぬ。剣の道に進む者を好むのだ。」
「えと、そうですか。あ、どうぞ。魔力を込めました。聖剣を扱えるでしょうか?」
俺が恐る恐る聞く。聖剣欲しい。使いたい。魔法なんか別に使わなくていい。
「はっはっは、魔法の才は0か。これなら使えるだろうな。ディアベル、聖剣を」
ディアベルと呼ばれた。なんか騎士団長っぽい人が剣を持って来た。
「勇者ソーマよ。この聖剣を持って、何を国にもたらす?」
王様がディアベルさんから聖剣を受け取り、俺に差し出す。
「国にには何ももたらしません。が、魔王に引導をもたらします。」
が、の前はすごい睨まれた。正直怖かった。だけど全て言い終わると歓声があがった。嬉しいな。
「して勇者ソーマよ。主はこれから訓練部屋に入ってもらうのだが、大丈夫、シューヤに何もせんよ。兵を殺したくないからな。」
シューヤ……秋夜のことか。てか普通に秋夜強く見られているな。やっぱ秋夜はすげぇな。
「秋夜も訓練部屋に行くのですか?」
「もちろんだ。覚悟が必要だからな。普通は1週間かかる。今までで一番早くて23時間。あの時は驚いたな」
王様が昔を思い出している。ご飯はどうするのだろうか。気になるな。けど聞かない方がいいかな。
「レイリス巫女、勇者ソーマを訓練部屋に案内せよ」
「分かりました。勇者様、こちらへ」
「はい。分かりました。では王様、また」
そして俺は聖剣を装備してレイリスちゃんに付いていった。
途中、秋夜に楽しそうに話す着物の女の子と、それを聞き流す秋夜。その様子を横目で見て案内をしている一行を窓から見えたけど、俺には気付いてないだろうな。
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はぁ、この精霊、よく話しかけてくるな。脳内に地図を書いている邪魔だ。やっと話し相手が見つかったからこんなに話しかけるのだろう。
だがな、時を考えて欲しい。いくら寂しがり屋といっても時は考えて欲しい。あと、キャラと話し方を統一して欲しい。
「レイティア、魔王城だが魔王に兵糧攻めはできないのか?魔王って何食べるんだ?」
「魔王に兵糧攻めなど不可能です。過去の王の中には試した者もいますがやはり無理でした。」
レイティアに聞いたのだが団長さんが答えた。てことは、やはり当初の計画、闇討ちじゃなくちゃいけないな。
「シューヤ、闇討ちは不可能だ。まず魔王城に入ることすら無理だからな。」
また心を読まれた……プライバシーの侵害じゃね? ま、いいか、なら正攻法しかないのだろうか。だが正攻法で挑んでもダメだったから颯天が召喚された。
「考えんの面倒だな。やめたやめた。今考えても意味がない。あ、最後に1つ疑問だが、他の国と協力しないのか?魔王だぞ?この国滅んだら回りも滅ぼされるぞ」
「無理です。向こうにメリットが少ない。どちらかというとデメリットの方が多い。なので無理でした。それに、魔王は一国を滅ぼしたら動きが止まります。」
「脅せばいいじゃないか。『俺達は滅ぶかもしれないから自棄だぞ。協力しなければ全兵力をもってお前たちを侵略する。』とかでそしたら向こうは目の色変えて協力してくれると思うぞ。」
ま、こんなこと誰でも考えるだろう。おそらくもう過去の王はしている。だが無理だったのだろう。むしろその国と険悪な状態になってしまう可能性があるしな。
「シューヤの考えている通りだよ。そう、一度やった。だが、向こうはこの国と戦争する準備をした。全くあの時は困った。」
レイティアが右手を頭にあて首を振る。
「そうか………やっぱ颯天に任せるしかないな。俺はバカンスでもしようかな。」
なんて冗談を王様の目の前で言ってしまった。
「ほほう。シューヤはこの国がどうなってもいいとな。」
「あははははは、正直颯天がいなかったらもう俺が第三の魔王になってたよ。いやー、颯天がいて本当に助かった。お互いにな。さて、何故王様がここにいるんだ?王様は暇なのか?」
言うと団長さんが剣を抜いたのが見えた。それを王様の首にナイフを当てることで動きを止める。
「ふふふ、その遠慮のない喋り方に行動、昔のワシを見ているようだ。」
ナイフを向けられているのに態度が変わらない。こいつは大物だな。
「団長さんは剣を引け。俺も団長さんが引いたら引く」
「ふむ、シルフィア団長、剣を収めよ。ソーマが勇者ならシューヤはワシの客人だ。」
王の一言で団長さんは剣を収めた。それを確認して俺もナイフを懐に収める。
「ワシがここに来たのはシューヤを訓練部屋に案内するとともに、シューヤの強さを見たかった訳なのだが………闇の精霊と契約をしたのか。いないと思えばシューヤの所へ行ったのか。」
「闇の精霊じゃない。今はレイティアだ。で、王様俺の実力は?ちなみに、俺は何をしてもこれ以上は伸びない。」
「勇者ソーマにはいずれ抜かされると思うが、十分な実力だ。ふむ、魔力0に等しい勇者と膨大な魔力を持つ片割れ。光と影みたいだな。」
「影か、いいねぇ。影の勇者。なら服も黒いのがいいなぁ。ま、俺は戦うような戦士より策士に向いているけどな。」
「ほう。なら今度チェスの相手でもして貰おうかな。」
え、チェスあんの?面白いなぁ。異世界にもチェスあんのかよ。
「機会があればな。なあ、あんたは個人として魔王城に正攻法が通じると思うか?」
「そんなの決まっておる。勇者ソーマの潜在能力次第だ。今じゃあ無理だな。これが個人の意見だ。では、訓練部屋に案内しよう。」
そう言い、王様が前を歩いていく。それに俺達は付いていく。その間誰も喋ることはなかった。