影勇者は《神話魔術》を使う
広がった影は槍となって地からヴァジュラ目掛けて突き出る。それをヴァジュラは飛んで避ける。だがこの影は俺の支配下。軌道を変えるのも簡単だ。
影の槍が軌道を変えてヴァジュラを襲う。雷で対抗しているが影の槍の数は多く、対処しきれず、いくつか突き刺さり穴が開いていた。
「GYAAAAAAAAAAAA」
今のはとても悲鳴に聞こえた。ようやく面白くなってきた。
雷が襲ってくる。それを今の状態で固定されている体で受け止める。そして影の槍がヴァジュラの影から出、また貫く。
あんなに強いと感じていたヴァジュラもいまやこんなにも弱いと感じる。一方的。ワンサイドゲームになっている。さすが最強にして最凶の《神話魔術》
「初代魔王。影の王ゼビウス。そいつの力は強大でいまや神話扱いされている。歴代最強の固有魔法《影》全ての闇を操り統べる。それと同じの固有魔法が俺の《神話魔術》だ。その力を持ったものは魔王となると本に書かれているから表には出せないんだよ。お前に言っても分からないだろうがな」
だがわかっているのか大人しくなり、少し殺気が収まった。
『やはりゼビウスの後継者か。貴様は今の時代で何をする気だ』
空から降ってくるように声がした。それはヴァジュラのものであるとすぐにわかる。《神話魔術》にはオリジナルの魂が少し宿っているらしいからだ。
「魔王を殺して元の世界に帰る」
『嘘だ。貴様のその力は強大だ。少なくともどんな《神話魔術》を扱う者も貴様には勝てない。そのような力を持っていて平和を望むなど』
「雷の神ヴァジュラってのはバカなんだな。別に平和のためじゃない。俺は俺のためにするんだ。そのついでに平和にするだけ」
『だがいつ気が変わるかわからぬ。今ここで貴様を潰す』
ヴァジュラから今までより重い殺気が出ている。そこまで俺という存在は危険ということなんだろう。
「はは、おめでたいぞあんたの頭。さっき自分で勝てないって言ったじゃないか。それに、もうそちら側に立っている時点でチェックメイトだ」
言われた言葉に気が立ったのかまたヴァジュラは吠えた。本当にバカのようだ。太陽の位置を考えて動かないからそうなるのだ。言ったはずだ。全ての闇を操り統べる。それがおれの固有魔法であると。それなのにわざわざ影に隠れてバカみたいだ。
「さて、体を返してやれ。今俺は坊っちゃんの使用人だ。元に戻すのは義務なんだ。あんたが出てこれたってことは暴走も終わりかけなんだろ」
かけた言葉に反応が全くなく、突撃しようとしている。それに呆れた俺は終わらせるべく、影を操る。すると、ヴァジュラがどんどん影によって地面へ引きずり込まれていく。
『なんだこれは…………こんな技、ゼビウスにはなかったぞ』
「だとしたら弱かったんだな。この技は、禁術中の禁術だな。飲み込んだ相手の命と固有魔法を奪う。例えそれが《神話魔術》だとしてもな」
淡々と言う俺の言葉を信じているのかヴァジュラはどんどん真っ青になっていくのが分かる。もっとも、本当に言った通りの効果があるのだから仕方がない。
『た……助けてくれ……』
「いいぞ別に。今お前が退き、二度と出てこなければ助けてやる。ノイル坊っちゃんを殺すのはダメだしそうしてくれると有難い。といってもそうしないとお前は消えてしまうから選択肢はないがな」
『………そういえばなぜお前はゼビウスに体を取られていない…………最後に問うが、お前に契約精霊がいるのか?』
「ああ、いる」
『そうか。そいつは上位の闇精霊だな』
「……なぜ知っている」
『なるほど。面白いではないか。その契約精霊がいる限りは安心して眠ろう。お前が契約精霊と契約を破棄したとき、それはお前という人格が狂い、お前はゼビウスに体を取られる。契約精霊は大事にしろ』
「……………」
どういうことだ。一体こいつは何を言っている。レイティアとの契約を破棄したとき俺は狂うだと?意味が分からない。もしそうだとすると俺はもとの世界に戻れないのではないだろうか……。
「俺はもとの世界に帰られるのか?」
『一応否定はしない。方法は一つだ。お前が契約精霊とともに異世界へ帰る。そうしなければ帰る前ゼビウスに体を取られ、魔王となる』
今の言葉は衝撃的だった。俺はレイティアなしでは生きられないようだ。それはもう………残念だ。
「………」
『では……さらばだ。魔王に纏われる人間』
気配で分かった。ヴァジュラは消えた。今は坊っちゃんに体の主導権がある。
「気絶しているのか……」
影で貫かれた場所はもう治っていた。今思えば先程の会話は自分が消える前に体を治すための時間稼ぎだったかもしれない。
傷がない坊っちゃんを抱え、この場所から去る。とりあえずエリナとレイティアとあらかじめ決めたいた合流地点へ行った。
…………………………………………………
「お兄様!」
合流地点に着くと、俺の抱えている坊っちゃんを見てノーラお嬢様が駆けつけてきた。
レイティアは俺を心配そうな目で見てきた。そういえば契約精霊は意思の疎通ができるのだった。つまり俺の固有魔法はレイティアにはバレ、レイティアも連れてもとの世界に帰らないと、俺が狂うことも知られている。
「シュウヤ!シュウヤの魔力が!」
エリナが走ってきた。その顔は青冷めている。
「どうしたんだ?」
「シュウヤの魔力がほとんどなくなってる!」
なるほど、やはり三分の固定で全ての魔力を取られるのか。自分でも大体わかっている。これ以上の戦闘では魔力を使うのはいけない。
「あんなのと戦ったんだ。仕方がない。とりあえず今日のところは帰らせてもらう。エリナ、ここの先生から二人も帰らせる手続きをしてきてくれ」
そう言うとすぐに行ってくれた。やはりこういうところは優秀であるから助かる。
「レイティア、俺の固有魔法を知っているやつはお前以外に誰がいる?」
「クラウド」
「ギルドマスターか。まああの人なら知っていてもおかしくない」
「多分グレイも知ってる」
「やっぱりレイティアと契約したからバレるのか」
「分かる人にはね。多分知っているし、そうでなくてもこれから知ってしまう人はその二人。後、私はどこまでも付いていくわ。例えそこが異世界でもね」
ということは俺はもとの世界に戻ることができる。少し安心したのは言うまでもない。
「今回ので多分ノイル坊っちゃんは狙われるだろうな。魔力探知に優れていたら俺も狙われるかもしれない」
「大丈夫、シュウヤの魔力は私がもみ消したわ。だから心配入らない。でもあの子の魔力はすごく感じたわ」
まあ俺のがバレなかっただけマシだろう。俺の《影》とノイル坊っちゃんの《ヴァジュラ》とではバレた時の人の反応が全く違う。
坊っちゃんのがバレると国は見て見ぬふりをしてくるだろう。だが俺のがバレると大きくなる前に殺しにかかる。すべての国が同盟を結んで俺を殺しにかかるだろう。複数の魔王をまとめた魔王の固有魔法だから当たり前の仕打ちだ。
「護衛は明日からが本番だな。元帥のやつはタイミングよく俺に依頼を受けてもらったな」
もし元帥がこれも見通して俺に依頼を受けるようにしたのなら未来予知の化物だな。
「違うわ。明日からじゃなく、これからね」
レイティアは薄く笑みを浮かべながら言ってきた。これの意味は誰でも分かる。今日中には《神話魔術》を狙って強襲してくるということだ。
「上等だ。全員潰してやる」
おそらくこのときの俺は笑っていた。楽しみなのだ。誰がどんな人を派遣してくるかが。俺の知らない魔法を使ってくればそれを覚えることが可能だしな。
「シュウヤー。早退手続きしておいたよー」
遠くからエリナの声が聞こえてきた。早退手続きを終えたみたいだ。というか学校名側からしたら帰って欲しかったのだろう。
とりあえず気を失っているノイル坊っちゃんの傍にいるノーラお嬢様にこのことを告げノイル坊っちゃんを俺が抱える。早急に屋敷に戻りたいため自分で移動すると言っていたノーラお嬢様も抱えて残り少ない魔力で足だけを強化して走る。
それにエリナはついてくるがレイティアはついてこない。いつも通り着いたら召喚してくれということだろう。
「はあ、はあ、はあ」
息が切れる。俺も相当疲れていたようだ。あと少し持てばいいんだが。お嬢様も心配そうな目を向ける。
「坊っちゃんを持とうか?」
エリナが息を切らしている俺に言ってきた。そんなに疲弊しているように見えたのだろうか。だがその提案には賛成だ。だから無言でノイル坊っちゃんを渡す。
「そういえばこの世界に魔力回復のポーションとかあるのか?」
喋るのもキツいが大事なことだから聞く。キツいから小さな声で腕に抱えているノーラお嬢様に聞いた。
「この世界?ありますけどこの世界ってどういうことです?」
疲れて頭が回っていないからか失言をしてしまった。だが疲れているしお嬢様の知的好奇心の相手をすることなどできない。つまり、シカトする。
それからは会話もせずただ走っていた。屋敷に着いた時に俺は限界が来て気を失ったようだが後はエリナが色々してくれたお陰でなんとか一日を終えることができた。




