影勇者はヴァジュラの化身と戦う
四日目、二人の学校の時間に事件が起きた。
事件の現状は右半分が飛ばされた俺とその後ろにいる男二人。一般生徒だ。そして俺の目の前にいるのは黒い雷を体に纏い、獲物を狙う肉食動物の目で後ろの二人を見るノイル坊っちゃんだったものだ。
ノーラお嬢様はもう避難させた。というか右腕はノーラお嬢様を助ける時に消し飛ばされた。ノーラお嬢様は今頃レイティアとエリナに連れていかれている筈だ。
「魔術兵装
《永遠に訪れぬ終わり》」
右半分が元に戻っていく。が、その間にもノイル坊っちゃんだったもの。ヴァジュラの化身は動く。もちろん狙いは俺ではなく後ろのもう怯えすぎて震えてすらいない二人だ。
「クソッタレ! 魔法を弾く雷とか相手なんてしたくねえよ!」
まだ右腕は中途半端にしか戻っていない。だがそれでも俺は守らなければならない。ノイル坊っちゃんを人殺しにさせないために。
後ろの二人のすぐ横に移動したノイル坊っちゃんを手加減なしに蹴り飛ばす。
飛んでいくのはいいが今の一撃で右足がまた消し飛んだ。だが今はそんなこと気にしない。左足で跳躍して近づき、もう一発戻っている途中の右腕で叩きつける。
そして離れる。また右半分が消し飛ばされた。
「《神話魔術》ってのはかなり強いじゃねえか。ここまで命の危険を感じたことなんてないぞ。誉めてやるよ坊っちゃん。だから元に戻りやがれ」
「GYAAAAAAA!!!!!」
吠える。やはり元に戻らない。これじゃあただの獣だ。いや、理性のない目的を遂行する機械だ。まあ獣みたいなこと吠えてはいるが。
「強いなぁ全く。血の涙が出ちまうよ」
こっちは本気で殺す気で攻撃している。容赦なく叩き込んでいる。なのにさっきから痛そうな様子も見せずに起き上がり、俺ではなく後ろの二人にしつこいほど攻撃しようとする。
正直俺はノイル坊っちゃんを助けようとは思っているが、全く手加減する余裕がない。むしろこっちが手加減されているような気がして止まない。
そもそもなぜこんなことになったかだ。全ての元凶は坊っちゃんがしつこいほど攻撃しようとする二人。そして何があったのか。それは数十分遡る。
…………………………………………………
坊っちゃんとお嬢様は違う学年の合同での実技の授業を受けていた。それを遠目で見る俺とエリナとレイティア。この様子を見られたら通報されるだろう。まあそんなことどうでもいい。
先生らしき人物が腕を振るのに連れて生徒達が二人組や三人組といったようなグループを作り出す。
二人に大勢の人が集まる。やはり実力がある分人気だ。集まっていないやつら。その中のグループを作れていないやつらはその二人を見て不機嫌そうだ。
「まあこうなるよな。人気者には人が集まる。人気者に嫉妬するやつらは全員嫉妬組以外と組めない。良くできているよ」
「シュウヤは人気者かそれに群がる組か嫉妬組のどれだったの?」
「俺は人気者の颯天を狙うやつが多いしそいつらを潰してた。まあ人気者を守るようなことしていた」
「わー、勇者って守られていたんだー」
呆れた感じのエリナが別に驚きもせずに言った。まあ予想通りって感じだったんだろうな。
「そしてあいつは平和的に暮らし、こんな危険な世界にやって来た。俺を巻きこんでな」
「なんだか絵が思い浮かぶねー」
のんびりエリナと会話しているとレイティアが服を引っ張った。
「シュウヤ、あれ少しまずくない? 何を言っているのか分かる?」
「確かに不穏な空気になってるな。でも先生が止めていないならやらせとけばいいんじゃねえか?」
「先生ってさっき腕を振ってどっか行った人だよね」
……………つまり先生がいないから嫉妬組が強行策にってわけか。先生が来ても実技ですとでも言えば大丈夫だし、それはまずい気がするな。
見ればかなり荒れていた。少し目を話しているとすごい荒れた。なぜこうなった。
「ええと何々、『魔法が上手いからって調子に乗るんじゃねえよ』『てか魔法なくてもこれでこうすれば傷つけれるだろ』」
読唇術を使って会話内容を読んでいると一人の男がナイフを出した。そしてそのナイフでノーラお嬢様を斬りつける。あまりに急な出来事でノイル坊っちゃんは動いていない。さらにはノーラお嬢様は魔力強化をしていないようだ。つまりここは俺が出ていかないとお嬢様が傷付き、元帥に俺は無能と言われながら殺される気がする。
不吉な未来を予想すると同時に体が動いていた。そして気が付けばナイフが俺の手を抉り、俺の手からは血が吹き出た。
「ギリギリセーフ」
安堵からふぅ、と息を吐く。だがまだ安心するには早かった。血が吹き出るのを見て悲鳴をあげて逃げていく。パニックになっている。そんな中逃げていないのは俺に守られたノーラお嬢様、呆然としているノイル坊っちゃん、ナイフを放さない男、その後ろで首を振り、俺じゃないとかほざいている男だ。
「……………」
ノイル坊っちゃんが時が止まったかのように動かない。目を見開いたままだ。
「大丈夫ですかノーラお嬢様」
「は、はい。それよりも師匠さん。血………」
ノーラお嬢様の顔が蒼白くなっている。
「大丈夫です。この程度なら治ります。それよりも坊っちゃんの様子が」
「…………ない。……さない。許さない」
おかしい。という前に坊っちゃんから憎しみを含んだ声が聞こえ、魔力が吹き荒れた。それと同じくして坊っちゃんに黒い雷が纏われる。
「まずい! お嬢様!」
黒い雷が俺達のいる場所へ飛んできた。
男二人を蹴り飛ばし、ノーラお嬢様を左手で押し出し俺も避ける。だが右腕だけ雷に当り、焼失した。反撃に魔法を放ったが纏っている雷に弾かれた。
「レイティア! エリナ!」
呼び声を聞いてレイティアとエリナが来る。そしてなにも言わずノーラお嬢様を連れて避難する。エリナも宮廷魔導師であるからすることは理解しているようだ。
「ち、これは本当にまずい……暴走している………」
黒い雷を纏っているところを見るとやはり《神話魔術》の暴走。それ以外にないだろう。恐らく引き金はあの血か。あれをお嬢様が流したと思ってこうなったんだな。
「で、狙いはあの二人か」
蹴り飛ばした二人を見る。ダメだ。動けそうにない。
ヴァジュラの化身は動いた。雷鳴のような速さで男二人に近づき、盛大に雷を浴びせようとする。
それに反応してヴァジュラの化身を蹴り飛ばす。だが雷により俺の脚が焼失した。そして魔法をもう一度放つ。だが弾かれる。
こうして始めに戻る。
……………………………………………
「《永遠に始まらない現実》」
初めて…………初めて魔力が消費していると実感した。裏技を使わさせられるとは……これかなり負担がかかるんだよな……。
「GYAAAAAAAAAAAA」
黒い雷が標的である男二人に放たれる。これをくらえば確実に消え失せる。だが真っ向から対峙する。無謀……ではない。今の俺は裏技により大量の魔力消費の代わりに今の状態に固定されている。俺の時を一部だけ止めている。誤れば活動が永遠に停止してしまう反面強力だ。
真っ向から受け止めるが体に傷が付かない。消し飛んだりもしていない。雷を打ち消した。
「中々使えるな。だが制限時間があるな。三分くらいか………三分間だけ無敵状態」
今の状況を整理する。三分間どんな攻撃にも耐えられる。だが狙うのは俺じゃなく男二人、俺が攻撃しにいくと途中で雷を放たれて男二人が死ぬ。だからといって攻撃しなかったら三分経って何もできないで終わる。
「絶体絶命な状況は変わらないな」
「そこの生徒と部外者! 即刻戦闘を中止し、投降しろ!」
考えを巡らせていると声が聞こえた。聞こえた方向を見ると出入り口に先生っぽいのが立っていた。もうめちゃくちゃだ。対処しきれない。絶対誰か死ぬ。
「来たら死ぬぞ! お前ごときの魔力でこいつの雷を受けれない! ここは俺に任せて………」
言葉の途中にヴァジュラの化身が襲ってくる。やはり知能が獣並みだ。腹部に容赦なく手刀をいれる。雷に体が消されずに入ったそれは貫いた。
今のは確実に致命傷だっただろう。だが瞬く間に治っていった。もう化物だ。
「AAAAAAAAAAAA」
咆哮と共に放電した。ここで三択選択肢が出る。まず一つは男二人を守る。二つ目は先生だけを守る。三つ目は無謀でも全員を助ける。
「まあ選択するのは三つ目だろうな」
瞬時に移動する。音速で男二人に近づき、抱き上げ、人が耐えられる限界に近い速度で先生の出入り口に行き、先生ごと扉の奥へ押し込み、扉を閉めて雷の対処。対処法は全部俺がくらうだ。
「先生っぽい人は二人連れて逃げろ!」
聞こえているかどうか知らない。どうでもいい。雷を全て受けたのに全く傷がないのすらどうでもいい。今一番必要なのは、後二分以内に倒すことだ。
「倒すためにはもう手段は選べない。今までずっと殺す気でいっていたのは否定しないが手段は選んでいた。だが今は人がいないのが好都合だ」
聞いているのか大人しくなっている。いや聞いているのではないだろう。ただ純粋に生き物としての生存本能がそうさせているのだろう。
「《神話魔術》を使えるのががお前だけと思うなよ」
冷淡な口調で言う。ここで一度区切って深呼吸をする。そしてもう一度口を開く。
「なぜ影勇者と名乗ったのかをその身に教えてやるよ。ヴァジュラの化身」
俺の影が渦巻き、広がっていった。




