影勇者はお嬢様と話した
「あの、ノーラお嬢様。ここはこうではなくてですね…………」
今は三日目。いつも通り二人に勉強をさせているが、いつも通り、ノイル坊っちゃんは教えを乞わず一人でやり、ノーラお嬢様は分からないところを一応やってみてどう違う、どこが違うかを聞きに来る。
今はノーラお嬢様に教えている。座標指定をする魔法陣の形成のための計算。そう思うと難しそうに思うが内容は元の世界の中学でしそうなことだ。実際していないのだが難易度的に中学生レベル。ノーラお嬢様の年齢に合っているだろう。
ちなみにノーラお嬢様は元の世界でいう中学二
年、ノイル坊っちゃんは中学三年だ。
「あ、そういうことですか。ありがとうございます師匠さん」
笑顔で言ってくる。やはり分からない問題が解けたときの達成感はいいもののようだ。初めて会ったときの警戒心MAXの顔とは大違い。あと師匠さんっていうのは坊っちゃんが師匠と呼んでいるからそれに敬称をつけたもので、語呂が悪いと思っても言わない。なにせ今の俺は使用人で主人と下僕。言ってはならないのだ。
「ノーラお嬢様は学校ではどのように過ごされているのですか?」
気になったので聞いてみた。俺は坊っちゃんの見張りの役割をしていてお嬢様のことはあまり見ていない。坊っちゃんは群がってくる女子を撒いて特定の男子グループと遊んだりしていた。
お嬢様は見た目と同じで大人しく本とか読んでいそうだ。
「ノーラのですか? ノーラは普通に過ごしています。本を読んだり、ボーッとしていたりするとクラスの皆さんがお菓子をくれるんです。クラスの皆さんはとても親切です」
予想と違った。どうやら学校では餌付けされているようだ。小動物か何かと思われているのだろう。まあ虐めにあってたりしていないから大丈夫だろう。
「そ、そうですか。良かったですね」
「師匠さんはどういった学園生活を送っていたのですか?」
「そうですね。初等は指で数えられる位しか行っておりません。中等はテストの日だけしか行っておりませんでした。高等になって初めて通いました。高等では唯一の友達と遊んでいましたよ。そして女子からかなり嫌われていました」
「そうなんですか!?むしろ好かれそうな容姿ですのに………なぜ嫌われていたのですか?」
「いえいえ、好かれるような容姿ではないですよ。その友達が超イケメンで人が良いのですよ。だからかなりモテていました。その友達と遊ぶ俺に嫉妬していたんでしょうね。いやぁ、我ながら引き立て役が上手かったようです」
全て事実だ。実際何回か女子に『颯天君と付き合ってるの?』とか『あなたは颯天君の何よ!』とか言われるほどに嫉妬されていた。その度にただの友達と言っていた。あの時期は気持ち悪かった。
「では、一人も師匠さんに告白とかしなかったんですか?」
「…………一人いますね。思い出したらビックリしました」
「どんな人でしたか?どう返事しましたか?」
さすが女の子、こういう恋愛の話には興味津々のようだ。
「もちろん断りましたよ。友達の妹とそういった関係になるのはあれですし、そもそも仕事柄巻き込みたくもないですしね」
「友達の妹!?ということは超イケメンの友達の妹!?ということは超可愛いのでは!?それなのに断った仕事とはなにですか!?」
何かすごい興奮してるな。そんなに食いつく内容かよ。まあ確かに颯天の妹はしっかりしているし人気があった。でもだからこそ断った。
「仕事はただの殺し屋です 。ただ依頼者が指定した人を殺すだけの仕事です」
顔がひきつっている。まあ師匠とか言う人物が人を殺す仕事をしているのだから仕方ない。
「大丈夫ですよ。廃業していますから。今はただの魔導師ギルドに所属する魔導師です」
「そうですよね。さすがに兼業はしないですよね」
勇者のオマケと魔導師を兼業してるけどな。
「雑談もこの辺にしておきましょう。過度の休憩は毒ですから」
「わかりました。でも、最後に1つだけ、師匠さんは良い人ですよ。だからそんな顔しないでください」
そんな顔とはどんな顔なのだろうか。今俺はどんな顔をしているのかわからない。指摘されたということは複雑な顔をしていたのだろう。
「…………それではお勉強を頑張ってください。予定は一時間後に訓練、それが終われば夕食です」
伝えて後ろに下がる。また分からないところがあれば言ってくださいとは言わない。多分もう今日は教えることはない。ノーラお嬢様は一言うと十分かるし、ノイル坊っちゃんはどうせ聞かない。
………………………………………
二人の勉強が終わり、修練部屋に来た。この場には一応エリナとレイティアがいる。
ちなみに今日する訓練は魔力を手から足など、強化する場所を移動させる速さの強化。これができるだけでかなり違う。これができれば冒険者としてもやっていけるし、戦況に合わせて臨機応変に対応できる。
特別講師として元Aランク冒険者のアルトさんもこの場にいる。俺は教えれるがアドバイスはできない。訓練をせずともできていたからだ。
「というわけでこの部屋の四隅に多分二人とも全力で強化しないと壊れない魔力結晶を置いておきました。魔力結晶はいくらでもあるので遠慮なく潰してください。目標は五秒です」
魔力結晶とは魔力を入れれば入れるほど硬くなる石だ。以前依頼で大量に見つけて取ってきたものを持ってきた。
「始め」
俺の言葉にまずノイル坊っちゃんが挑戦した。部屋の真ん中から隅へ移動して殴る。だが壊れない。それもそうだ。魔力強化をするのが遅い。まだ足に残っていて完全ではない。俺は言った。全力でしないと壊れない。完全に手だけを強化しないと壊すのは不可能。
「坊っちゃん、強化にはタイミングが必要です。私が出来るようになったのもタイミングが掴めたからです」
アルトさんがアドバイスをする。やはり特別講師として呼んだのは正解だったかもしれない。
「タイミング……」
何か考えるように俯きながら中央に戻る。タイミングがいつだったか考えいているのだろう。
「お兄様、次はノーラがしてみたいです」
もう一度しようと構えた時にノーラお嬢様が言った。その言葉に一瞬躊躇ったようだがすぐに退いた。
「難しいから無理はするなよ。頑張れ」
言葉を聞いたノーラお嬢様は深呼吸をして落ち着く。そして集中した。とても眼が真剣だ。
「いきます」
言った瞬間に移動した。1つ、また1つと魔力結晶を破壊する。だが最後の魔力結晶は破壊できなかったようだ。
「ほう。惜しいですね。まあ壊しても五秒は経っていましたからやり直しですけど初めてとは思えないほどです。凄いですよ」
賞賛の言葉をかける。誉められたことに照れたのかノーラお嬢様は顔を少し赤くして俯く。
「次こそやってやる!」
妹に先を越されたことで向きになったノイル坊っちゃんが言う。向きになったとはいえとても冷静だ。やはりここのところは流石と言える。
中央から消え、魔力結晶の破壊音、破壊されている様子が分かる。だがノイル坊っちゃんも最後の魔力結晶を破壊できない。それもそうだ。最後のだけ硬さをギリギリ割れない程度のものにしたのだから魔力が上がる以外破壊する方法はない。
今回の目的は二つ。
1つ目は魔力結晶の速度の強化。
2つ目は魔力の向上。
この2つができればさらに強くなれる。できることが増える。一週間という短い期間ももう三日目だから急いでレベルをあげなくてはならない。
「ねえシュウヤ、あれの強度が違うのわざと?」
エリナが服の裾を引っ張って小声でたずねる。さすが魔力を肉眼で見ることができるだけある。気付くのがはやい。
「もちろんだ。その証拠に他の三つは少しの誤差もないだろ」
視線を他の三つに向けると驚いた表情になった。
「誤差がないなんて凄いよ。どうやったの?」
「繊細な魔力のコントロールだ」
簡単に言うがこれはかなり難しい。両手の水をコップに同じ量いれるのと同じくらいだ。
「シュウヤ、でもすることが大人げないよ」
「そうでもない。見てみろ。さっきまでと魔力が違うだろ。俺も肌で感じているから合っているはず」
「確かに上がってる……才能かな?」
「元帥の子供だしな。優秀な遺伝子を持ってんだよ」
そうこう話しているととうとうノイル坊っちゃんが全て割った。だが五秒以内ではないからやり直し。
「きっと私とシュウヤの遺伝子を持った子供は最強なんだろうね」
頬を赤めて言ってきた。もちろん無視する。化物を作る気はないしな。
「アルトさん。あとは任せました。自分がいても変わらないので外で見回ります」
俺の言葉にアルトさんは快く頷いた。それを見た俺は出ていく。別に不審者の気配がしたからではない。
ただ面倒になった。どうせもうすぐ攻略される。成長速度が早い。勇者である颯天並だ。
「このまま強くして俺の仲間にすればいいか」
やるべきことを果たすために強力な仲間が必要であるのは絶対だ。二人は《神話魔術》を扱うし戦力としても期待できる。
「大丈夫だ俺ならまだ大丈夫だ」
独り言を言いながら無人の廊下を歩いていく。そして三日目も終わった。




