影勇者は精霊と契約する
武器庫の中は意外と綺麗だった。武器庫の中は真ん中にテーブルがあり、その回りに武器が綺麗に保管されてある。
ちなみに、一ヵ所おかしなところがある。テーブルの上がおかしいのだ。なぜか、腰まで髪を伸ばした銀髪、俺より少し小さい身長の黒い目に、まだ幼げな顔立ちをした美少女といえるであろうがいた。これは王様の後ろにいた精霊だ。
だが俺には何も見えていないのだ。うん、絡むと面倒だろう。
「そんなこと考えずに私と話をしようじゃないか、勇者の片割れシューヤ」
テーブルの上から声がした。だが面倒だからほっとく、俺には精霊は見えない。うん、見えないってことにしよう。だからあんなのは見えない。
「いや、シューヤ、魔力量から私を見えているのは分かっているから。だからおとなしく話を……」
「うわー、武器庫っていっぱい武器があるんだなー、ハリセンも武器なのかー。俺は突っ込まないぞー。」
ハリセンがあったからそこに意識を集中させる。てかハリセンも武器なのか?
俺の疑問は解かれない。何だろう。知りたいな……これで人を殺せるのだろうか…
「そのハリセンの能力を教えて……」
「うわー、ピコピコハンマーだー」
「いい加減にしてくれ!無視をするな!」
………あ、やべ、怒らせてしまった………魔法使われたらどうしようか……死ぬな…なら殺そう。自分が死ぬくらいならこいつが死ねばいい
「おい、魔法など使わないから安心せい。だからその殺気とナイフを収めろ。」
なんだ。王様の命令で俺を詮索し、危険なら駆除しろと命令されたのではないのか……
「全く、これは私の意思だ。シューヤの魔力は底がないからなぁ。シューヤに頼みたいことがあるのだが……」
「ふむ、底がない………尽きないということか……ならば大規模な魔法を覚えて魔王城に打ち込めば……」
「魔王城に魔法は効かん。特殊な防壁に阻まれておるのだ。防壁を崩すには………おっと、これは王から言われることか……」
「なあ、さっきから思っていたんだが、あんた、しゃべり方に統一性がないぞ?」
「いや、統一性がないのがいいのだよ。じゃなくて頼みたいことがあるのだが」
「さっきも言ってたな。俺に何を頼みたい。報酬は貰うぞ」
「シューヤ、私と契約してくれ。私は契約者が今までいなくて誰にも見られていなかったのだ。そんな悲しいことは嫌だ。存在するのに見られないなんて嫌だ。報酬は知りたいことを教えてやる」
………こいつ、ただの寂しがり屋なだけか……ふーむ、困った。こんな上位精霊との契約は颯天にしてもらいたいのだが……
「じゃあ前払いに、何で俺の魔力は底がなくて、颯天の魔力は少ないんだ? 勇者として召喚されたあいつは魔力は高いはずだろ?」
今一番の疑問はなぜ自分の方が魔力が高いかだ。勇者の片割れである俺が本当の勇者に勝るはずがない。たとえどれだけ努力をしたとしても……
「簡単に説明しよう。魔力量はな………心の傷、闇、の大きさを示しておる。つまりだ。シューヤは心に深い傷を負っていて、闇があるというわけだ。この事を知っておるのはこの国には私以外いない」
「なるほどな。納得だ。いいだろう契約してやる。どうすればいい?」
武器を探している筈なのになぜ契約をするのだろうか……全く、展開は読めないものだ
「もう準備はできておる。この机の上に契約の魔方陣を書いてある。あとはシューヤが血を垂らすだけだ」
「血……ねぇ」
俺はナイフを抜き、薄く指を切った。すると血が出てくる。それを契約の魔方陣とやらに垂らした。
垂らすと、魔方陣が赤く光った後、黒く光る。その現象も謎だ。異世界だけあって謎なことが多い
「契約完了でいいのか?俺はそろそろ武器を選ぶ」
「あの、この契約はだな……その………後もう一つしなければならんのだが……少し目を瞑ってくれ」
は?意味わからん。見られたらいけないような危険な魔方陣を書くのか? だったら納得だ。目を瞑ってやる
目の前が真っ暗になる。当然だろうな。瞼を閉じているのだからな。ふむ、武器はやはり杖にしようか…
「まだか?正直早く武器を選びた…」
途中まで発言すると唇に柔らかい何かが当たった。それに口を防がれたお陰で言えなかった
「…………?」
何が当たったのだろうか。謎だ。目を開けるようか……いや、まだダメか……
「いや、もういい。さて、武器を選ぼう。私がシューヤのために選んでやる。」
いいのかよ……と、内心思いながら目を開く。そこには顔が赤くなっている精霊がいた。
「ん?何で顔が赤くなってんだ?それに魔方陣は?」
魔方陣など書かれていなかった。ということは、あの、唇にあの柔らかい物質を当てれば良かっただけなのか。なぜ目を瞑る必要があったのかは謎だ
「と、とりあえず武器を選ぼうシューヤ。王はきっと待っている。」
精霊は武器を探している。触れては首を振り放置、触れては首を振り放置の繰り返しだ。綺麗だった武器庫がどんどん汚くなっていく
「そんなことより、俺がお前と契約して使えるようになったのは何だ?」
俺も探しながら重要なことを聞いた。これ次第で戦闘のバリエーションが増える。
「特殊な物は血を生成、そうさ。後は光以外の魔法を完全に使える。その中でも闇が圧倒的」
なるほど、血か………中々応用できるな。例えば止血、致命傷を受けても血を循環できる。かなりの代物だな。
「お前の名前は?いつまでもお前というのも悪いと思うしな」
む、この指輪……綺麗だな……貰おう
「ない。私に名前なんてない。」
精霊は寂しそうに言った。名前がないということは誰にも呼んで貰えなかったってことだ。それがどれだけ悲しいことかは想像するのは面倒だ。
「……………仕方ない。名前をやろう。俺がつけてやる。」
「本当!?」
精霊が嬉しそうにこちらを向く。とても表情が明るい。子供みたいな笑顔だ。
余りに可哀想だったから言ったがどうしようか……闇の精霊だろ? 闇といえば無、無といえば零言い方はレイだ。それだけでは寂しいな。好きな単語を並べるか……
「お前の名前は……」
「私の名前は……?」
はたしてこの名前を気に入るのだろうか。気に入らなかったらどうしようかと、不安が出てくる。が、それを抑え、口を動かす。
「お前の名前は、レイティアだ。嫌じゃないか?」
と、言った矢先に泣かれた。それほど嫌だったのだろうか……
「泣かないでくれ。今新しいの考えるから」
とか言うが正直面倒だ。適当に済まそう。
「違うの。この涙は嬉しいからなの。レイティア……私の名前……ありがとう。シューヤ」
別に嫌じゃなかったみたいだ。
「そこまで良かったのか? ま、いいや、武器を選ばなくちゃな」
「武器はこのナイフにするといい。このナイフは刺した相手の魔力を吸うから便利だ」
レイティアが俺にナイフを渡してくる。見た感じ普通のナイフより切れ味が良さそうって感じだが、何かただならぬ気配を感じる。
「そうだな。レイティアの推薦だしそうするか。よし、武器庫を出るか」
「ええ、契約したから他の人に見られるけど大丈夫かな?」
レイティアが心配そうに聞いてくる。見たところ美少女だ。服が着物だが、変ではないだろう。
「大丈夫だろ。」
そう返事をし、扉を開けた。すると、団長さんが待っていてくれた。
「お待ちしておりました。って、そちらの方は?」
団長さんが少し驚いた感じで聞いてくる。
「紹介する。俺の契約精霊のレイティアだ。」
自慢気に紹介してやった。団長さんは精霊という単語にまた少し驚いた
「まさかとは思いますが、あの精霊ですか?」
「そのまさかだ。」
ニヤリとしながら言う。団長さんはそれにかなり驚いている
「驚くのもその辺にして戻ろうではないか」
その一言で団長さんは動いた。それに俺とレイティアは付いていく。