影勇者は地竜を狩る
「あれが地竜の幼竜だと? 文献と違う。これはもう成竜だ。突然変異にも程がある。おい第一騎士団長。どうするんだ」
前方約100m地点に目的である地竜がいる。強靭な鱗、飾りである大きな翼、鋭利な爪と歯、そして、幼竜特有の丸い角。大きさ的には成竜を越している。なのに幼竜特有の丸い角だ。あり得ない。
「そうですね。正直驚きましたが、作戦に変更はありません。皆さん行けますか?」
皆問題ないと頷いた。そして、第一騎士団長が一撃、剣で地竜の鱗を斬ろうとしたが、弾かれた。
「おりゃー!」
颯天が聖剣で竜巻を起こしたが、竜巻が消えた後、地竜は全くの無傷だった。
「堅いな。物理じゃダメか。エリナ、第二騎士団長。放て」
「「《フレイム・ランス》」」
二人の《フレイム・ランス》が地竜に当たった。が、効果があまりない。
「ち、めちゃくちゃ面倒な相手だな。こいつガルドラ竜国の竜より強いだろ。レイティア、魔装だ。武器は今から頭に思い浮かべるからそれをよろしく」
「了解」
レイティアが答えると俺の手には大剣が二つ握られている。服も漆黒のコートが羽織られた。
「魔力強化全開」
俺は体の節々に魔力を通す。このことにより力が段違いに上がる。高速で地竜に近づき、大剣の腹の部分で頭を叩き付けた。地竜は無傷だが少しふらっとした。おそらく軽い脳震盪を起こしたのだろう。
「無理、正直勝てる気がしない。颯馬、十分だ。撤退するぞ。攻撃されたりしたらかなり効くと思う。今のうちに撤退をして体制を整え、作戦を立て、また討伐だ。全滅は…」
グォォォォォォォォ
やばい、地竜が俺の方を向いて吠えた。これは確実に俺が標的にされたな。まあ颯馬が標的にされるよりはましだな。
「第一騎士団長、第二騎士団長、颯馬、エリナ、撤退しろ。殿は俺に任せろ。腕一本やられるかもしれんが生きれるだろう」
「何を…」
物分かりの悪い第一騎士団長だ……
「俺らじゃ無傷で討伐は無理だ。負傷者が出る。だから撤退。OK?」
「秋夜、俺も……」
「THE・足手まといだ。いいから行け。エリナ、颯天を連れていけ」
「分かった。頑張ってね」
物分かりがいいエリナは颯天の襟首を掴んで連れていく。騎士団長二人もそれについていった。幸い地竜は俺しか見ていない。
「さぁて、本気出すか」
今いるのは俺と地竜。こいつを本気で殺す。
「魔力補整のある今ならきっと何回か耐えるか」
地竜は確か翼はあるが飛べない。つまり歩行しかできない。攻撃する狙いは頭だが牙の餌食になりかねない。さらに厄介なことに人並みの知能があるらしい。成竜になれば人の言葉もわかるらしい。
「取り敢えず、目標はこいつを倒す。本格的な実戦だ。レイティア、俺の考えるタイミングでシールドを出してくれ」
『了解。だが、本当に腕一本やられるかもしれないのか?』
「最高位の精霊次第だ。さあて、向こうも痺れを切らす頃だ。行くぞ」
『了解』
俺は真正面から突撃した。地竜の方も大きく口を開いてこちらに来た。出来るだけ近くへ行き、十分近づくと上へ飛んだ。地竜は俺へ向けての攻撃をしていた。その隙をついて大剣二つで斬りつける。堅すぎて弾かれた。その隙に地竜が尻尾で俺を飛ばした。俺はリアルに吹っ飛んだが木を何本か折ったところで止まった。魔力強化がなかったら今ごろ血を吐いて気絶していただろう。いや、咄嗟にシールドを展開してくれたレイティアがいなければというのが正しいかもしれない。とにかく規格外な攻撃力だ。
『シュウヤ、大丈夫か!?』
「ああ、助かった。さて、本当にあの規格外地竜を倒すに当たっての代償を覚悟しないとな」
『腕一本か?』
「分からない。もしかしたら無傷で倒せるかもしれないし、四肢が千切れているかも知れないし、死んでいるかもしれない」
『シュウヤ、逃げる?』
「逃がしてくれると思うか? 無理だな機動力もあちらが上だ。勝機はある。一撃でも通れば俺達の勝ちだ。そしてあれは幼竜だ。だからブレスはないはず。っと、生死の確認に来たのか。マメなドラゴンだ。レイティア、大剣1つ消していい」
『了解』
レイティアの声と共に大剣が消えた。さて、覚悟はした。作戦はたてた。きっといける。
「《ミスト》」
霧が発生した。これでも多分嗅覚の優れているドラゴンには意味がない。だが視認はできないはずだ。少しでも機動力を落とせた。
「《エアカッター》」
地竜の真上に魔方陣を無理矢理作り、不安定な風の刃が地竜の背を襲った。結果少し気をそらせた。
「今だ」
渾身の力を込め、大剣で斬った。今度は弾かれなかったが鱗を割っただけだ。
「ヤバイ」
もうすぐそこまで、つまり俺の真上に爪が降り下ろされていた。俺が斬ったのは左の前足。降り下ろされているのは右の前足。初めから読まれていたのかもしれない。
『シュウヤ!』
やべえ、何とかしないと、今度は尻尾ではなく爪。左に緊急回避。無理だ。この距離じゃあ当たる。右もまた同じ。耐える。耐えれるわけない。尻尾だけで限界だ。当たれば地中にズボッとはまる。……って待てよ……
「賭けだ。《我契約分を捧げ森羅万象を動かす》」
ズドンッ!!!
地竜の爪が大地を抉った。ギリギリだ。本当にギリギリだ。俺は死なずにすんだ。
『地の精霊魔法か。いつの間にそんなものを。だがそのお陰で死なずに済んだ』
今俺がいるのは地中。別に爪に耐えながら落ちたわけではない。地の精霊魔法で人一人分の穴を深く開けた。それで俺は落ちれた。俺の目の前まで抉られたのには冷や冷やした。
「俺の勝ちだな」
俺は1つのナイフを取り出した。そして地中から飛び出し、鱗を破壊した左の前足へ刺した。そしてすぐに撤退。森の木を足場として猿のように去っていった。一応地竜が見える位置に移動した。
『シュウヤ、置いてきた大剣は消していいか?』
「ああ、すっかり忘れていたがいいぞ」
言ったところで焔が飛んできた。炎ではなく炎より黒く威力のある焔だ。直撃だ。魔力を全て防御に回し、レイティアは咄嗟にシールドを張った。が、シールドを意図も簡単に破壊し、魔力を全て防御に回したにも関わらず体が燃えるように熱いというか燃えている。
「油断していた。こいつが突然変異の幼竜であるということを忘れていた。いつあれがブレスを出せないと言った。警戒が足りなかったか」
く、まだブレスは終わらないのか。魔力を急激に吸われているはずだ。なのにこんなブレスを出す。
「く、服が……」
袖が燃え尽きた。漆黒のコートも半分一緒に燃え尽きた。もう限界かもしれない。無限の魔力を持っていても一度の出せる量は決まっている。だから耐えきれない。
『シュウヤ、きっと大丈夫だ。頑張れ』
レイティアが優しく応援してくれている。応援を聞く余裕など俺にはない。さっさと尽きやがれ糞蜥蜴
「助けに来ました」
その言葉が聞こえると同時に焔が凍った。いや結晶化した。
「結晶化という固有魔法です。魔力が小さくなってきていたのでまとめて結晶化させました」
第一騎士団長。彼女が結晶化させたらしい。第二、颯天、エリナが見られないということは一人できたのだろう。
「ありがとう。助かった」
クソ、服がボロボロだ。魔装もボロボロ。取り敢えずナイフの回収をしなくちゃな。
「こちらこそ助かりました。ここまで弱っていなければ結晶化できませんでしたから」
聞きながら地竜へ向かって歩く。薄紫色に固まっている。ナイフの刺さっている場所だけ固まっていない。魔力を吸われているからだろう。地竜の鱗が濁っている。初めは魔力で少し輝いていた。おそらくかなりの量を持っていかれたのだろう。
「な!?」
今の驚きは別に地竜が動いたわけではない。ナイフと思って抜いたら剣になっていたから驚いたのだ。
「どうしたのですか?」
「ナイフが剣になった」
「なるほど、それは魔剣の類いでしょうね。いずれは大剣になると思われます」
魔剣……なんで勇者のおまけが闇とか魔とか血とか使うんだよ。魔族より魔族らしい気がする。
「まあいいか。さて、颯天の所へ行こうか。後、城の医療技術ってどれくらいだ?」
「怪我をされたのですか?」
「魔装解いたら激痛が走りそうだ。左腕が完全に焼かれてる。正直今も動いていない。血は循環させてあるから問題ない」
本当に腕一本やられた。油断がなければやられていなかった。ダサいな俺
「重症ですね。治癒魔法はかけましたか?」
「ああ、一応な。《キュア》と《ヒール》をかけた」
「では急いで戻った方がいいですね。行きましょう」
………なんだこの違和感。今凄い違和感を感じた。第一騎士団長に対してではなく地竜にだ。何が違和感か。そうだ。ナイフを刺したとき、血が出なかった。鱗を砕いた時、痛そうにしなかった。これは本当にドラゴンなのか? 突然変異? だからといって生息地域からかなり離れているここまで来ないだろう。
「まさか……」
俺は動く右腕で地竜を触った。第一騎士団長は不思議そうに見ていたがどうでもいい。冷たい。冷たすぎるのだ。死んでいきなり冷たくなるなどありえない。剣で突いてみた。バキバキと音をたてた。
「第一騎士団長、結晶化は内部までいくのか?」
「いかせようと思えばいかせましたが今回は止めておきました」
やっていない。なのにバキバキと音をたてた。おかしい。トカゲがバキバキ音をたてるわけない。これはもしかするともしかするかもしれない。一閃、剣で地竜と思われていた物の胴を斬った。
「これは……!?」
第一騎士団長が目を見開いている。俺も驚くしかできない。なぜなら、地竜の中に機械が入っていたのだから。
「これは魔導艦……なのですか……そんな。でも、この中に人がいるはず。探しましょう」
「魔導艦か。こういう機械に強いとこは1つしかないだろ。『グロウヴィル帝国』だ。あそこが送り込んだんだろう」
「それはわかりません。調べましょう」
第一騎士団長は機械を傷つけないようにして探っていっている。こういう機械に乗り込むなら頭とかだろう。頭を攻撃したとき、ふらふらしていたしな。あれは振動で狂ったのだろう。
よって、取り敢えず頭の結晶を砕き、結合部分を剥ぎ取った。すると人が入っていた。
「よお。影勇者だ。お前の身柄を拘束する。抵抗するなよ? 殺してしまうかもしれないから」
そうしてこの依頼は終わった。
余談だが颯天と合流したときに「レイティアちゃんは!?」と言っていたのに「纏っている」と返したら剣が飛んできた。




