〔プロローグ〕
連載小説「ネイムレス」の外伝(Supplementary biography)です。
こちらもよろしくお願いします。
2015/1/29
【待ち人ラナウェィっ】の全編改稿作業が終了いたしました。
それに伴い、一部内容を改変しておりますが、本筋そのものに変化はございません。
大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
立ち尽くす少女の瞳には信じがたい光景が映っていた。
右腕を三角巾で吊るし、右足首もギプスで固定され、松葉杖なしではこうして起立することすらままならない彼女だったが、この時ばかりは杖を落としても、体重を両足に均等に分けてみても、激痛を覚えることはなかった。
ただ、汗をかいた。ひたすらに冷たい汗を首筋に伝わせていた。
ここは病院。十二階、病棟の最も西の端にある病室前。重篤な患者や、高い料金を支払った患者が利用できる個室。この四日――少女が事故に遭い、入院したのと時を同じくして運ばれてきたその患者は前者だった。ただしその患者は目立った外傷を負っていなかった。それなのに重篤と呼ばれたのは、その少年が脳に重い障害を患っていたからだ。
少女は少年の知り合いだった。知り合いというよりも、幼馴染だった。
むしろ、心を通わせていた仲だった。
少女は立ち尽くした。病室に彼がいなかったからだ。
その病室には面会謝絶の札がかけられいた。親族ではない彼女にはその固いゲートをパスすることはできなかった。
しかしこの日はドアが開いていた。半開きだった。少女はわずかばかりの後ろめたさを覚えながら室内を覗いてみた。まず最初に見えたのは四人の人影だった。窓から射し込む朝日を浴びて暗く映る、四人の男女だった。
少女は彼らの正体を知りたくてスライドドアを開けた。自然な好奇心だった。あるいは胸騒ぎを覚えたからかもしれない。カラカラと乾いた音が鳴る中、四人が一様にして少女に注目した。
途端、四人のうちの一人――若いナースが何かを叫んで駆け寄ってきた。視界を奪われた少女だったが、ナースの肩越しに病室のベッドが見えた。
白いシーツと掛け布団があった。蛻の殻だった。
くたびれたスーツを着た強面の男と、対照的に小奇麗なスーツをまとう若い男が、白衣の初老の男に何かを訊いていた。
少女は理解した
少年がどこかへ行ってしまったと察した。
どうしてという問いが漏れた頃、少女の心もまたどこかへ去っていった。抱き締める女の温もりを感じなくなっていた。虚無感というものを味わったのは、これで二度目だった。
窓の外を見た。群青に、白い入道雲が異様なまでに浮き立って見えた。
普通の神経なら美しさを覚えるはずが、少女にはどこか憎たらしく映った。
どうも、T・Fです。
本編で消化しきれそうにないストーリーを、こちらで小さく展開していこうということで書いてみました。よろしければ、【第一章】より続けてご覧ください。




