〔一〇‐3〕 決意
誠は、組織に入ると言った時のケンの顔を思い出していた。それは悪魔のようでもあり、歳の離れた兄のようにも見えた。そういう独特の優しさが、彼から滲み出ていた。
そんな彼が、殴れと言う。
夢の中に現れた男のように、不器用な責任の取り方を選んでいる。
――殴れるわけが、ないじゃないか。
俯き、震える両手で胸を押さえた誠は、「ケンさん」と頭を擡げた。
「酒顛さん。エリさん。ウヌバさん」と名を呼び連ねる彼の瞳には、恐怖が押し込められているようだった。「一つ、約束してください」と自分独りで克服できそうにないその強大な恐怖に、それでも抗うために、誠は怯える小指を立てた。
「頑張ります。頑張るんで、一秒でも早く、助けに来てください。ボクはきっと、上手くできませんから」
エリは堪らず、すぐにその冷えきって視える小指に自らのそれを絡めた。それにケンが無骨に重ねると、ウヌバが覆い、酒顛の大きな小指にそれらを乗せた。
「皆さんで良かった。今は、そんな気がしています」
敬礼する誠に皆が応じ、一同は前を向いた。
ウヌバが自ら壁を壊すと、「いきます」という言葉を残し、水蒸気の中を誠は駆け抜けた。彼が置き去りにした爆音と突風に晒される中、「最低だね、私」とエリは言った。彼女の視線には、地べたに刻まれた少年の足跡があった。
「テメーだけじゃねぇ。俺達はまた、罪を重ねたんだ。“世界のため”に」
「でもさ、あの程度の約束なら、守らないわけにはいかないよね」
「当然だ。こんなことで拳骨一万に針千本飲まされんのは割に合わねぇよ」
「知ってんだ、呪いの意味」
「ったく、昔の日本人ってのはえげつねぇこと考えるぜ。嫌いじゃねぇーけどな」
ケンは〈MT〉のマイク機能を使い、REWBSに投降を呼びかけた。
傍らで、鬼が笑ったようだった。その心がケン達にも乗り移ったのか、彼らはその鋭利な双眸に殺意だけを宿し、進攻の手を緩めない愚かなREWBS達を迎え撃った。




