〔六‐2〕 DEM
鬼は無傷だった。黒煙に覆われた空に、爆撃機の姿を捜していた。
噎せ返るような熱気と身体さえも飛ばされそうな爆風を、近くの太い幹にしがみついて耐え忍び、諜報部隊所属の青年フリッツは現状の把握に努めた。
爆撃の進路どおりに飛行したのなら、全く目視で確認できないその〈DEM搭載型UAV〉は真っ直ぐ一時方向に直進したことになる。
フリッツは〈MT〉の通話機能を起動し、組織が指定している極秘の電波帯に信号を送信した。すると〈DEM〉起動中にも拘らず、輸送機〈DEM-3-2〉への通話が可能となった。
「こちら〈DUST-1〉。〈LUSH-0〉、応答せよ」
『こちら〈LUSH-0〉。〈DUST-1〉、照会情報確認。どうぞ』
「今データを送った。そのルート上を、〈DEM〉を搭載した所属不明のUAVが飛行したはずだ。気流の乱れからそれを捉えられないか」
『了解、直ちに対応する』
やはり、作戦区域を哨戒飛行していた〈DEM-3-2〉でも捕捉できていなかったようだ。
焦げた大気が頬を撫でる中、〈DUST-1〉は思考を止めなかった。
このUAVは基地と関わりがあるのか。バーグは何故UAVの存在を感知できたのか。この作戦は組織が得たオリジナルの情報によって立案されたものだが、バーグはそれさえも知っているということになるのではないだろうか。
そもそもバーグは何故それを知らせてきたのだろうか。組織に恩を売るためか。それとも情報部が追っている、武器商人という線が正しいからか。はたまたUAVを差し向けたのは自分だという犯行声明か。
フリッツは眉間を揉むが、考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。
そこへ、『目標(UAV)捕捉、基地へ墜落するぞ!!』そのセリフで合点がいったフリッツは、「そうかっ! 受け止めろ、それを自爆させるな!!」と〈MT〉のマイクのボリュームを最大にして叫んだ。そうしなければ〈MT〉をつけていない今の“彼”には届かないのである。
死屍累々、炎熱地獄の様相を呈している基地の屋上。その北西に、UAVが墜落した。頭から突っ込み、火を噴きながら鉄のタイルを高速で滑り行くそれは、ちょうど進路上に突っ立っていた鬼を轢き殺そうとしていた。
墜落のショックで〈DEM〉が破損したらしいそれの姿が鬼の目にも見えたようだった。鬼は両手を身体の前に投げ出すと、頭一つ分低いものの遥かに重量の高いそれを正面から受け止めた。
火の海の中、巨大な鉄の塊に押しやられた鬼だったが、どうにかUAVを制止させることに成功した。鬼も心なしか安堵の表情を浮かべているようだったが、UAVは主翼の下に装備していた二基のヘルファイアミサイルを発射した。それは鬼の後方へ飛び去って屋上を爆砕した。基地の崩落が始まったのは程なくしてからだった。