〔四‐6〕 止まぬパラライシス
ボスと顔を合わせもせずに、絶と螺葵は漆黒の潜水艦〈カローン〉へと引き返すためにエレベーターに乗った。
「ゼツさん。アレが噂に聞く《韋駄天》ですか」
「あぁ。〈ユリオン〉と共に散った男が、最強の名をほしいままにした史上最高のセンスさぁ。いずれは誰かがとは思っていたが、まさかあんな小僧がねぇぃ」
「嬉しそうですね」
「情報屋風情に感謝する必要がありそうだと思ってねぇぃ」
絶はエレベーターの壁に背中を預けると、片手で自分の顔を覆った。
「アレは私から見ても異常なセンスさねぇぃ。敵のアジトに侵入したわずか一〇秒後には、その中枢部で爆発が起きるんだぁ。私達は露払いすらさせてもらえなかったぁ。任務開始と同時に終了なんてのはザラだったねぇぃ……」
「……とんでもない人がいたものですね」
「アレを経験して以来ぃ、私の感覚は麻痺し通しさねぇぃ」
感傷に浸っていた彼だったが、唐突に頭を擡げると、螺葵を睨んだ。
「ところでぇぃ、そのバーグについて分かったことはあるのかぁぃ?」
「はっ。目下のとこぉっ――!?」
絶はソフト帽で螺葵の視界を塞ぐと、拳銃を彼の耳に押し当てた。
「さっさと首持ってきやがれぇぃ。野郎の存在はぁ、いずれ私達の弊害になるぅ……!」
「……そ、早急に、やらせますっ」
「お前もやるんだよぉぅ。ミンチにされたくなかったらねぇぃっ」
無機質な音が、しばらく静寂を掻き回していた。