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ネイムレス  作者: 吹岡龍
第四章【死を招く怪人劇 -The unstoppable Burge's puppetry-】
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〔八‐5〕 未来を視る者

 組織が開発したボタン電池型の極小万能イヤフォン・デバイス〈MT〉に新たな情報が追加された。人一人が屈んだ格好で搭乗できる大きさの黒い立方体についてである。

 組織の参謀本部はこの奇妙な乗り物に〈ブラックボックス(BB)〉というコードネームを与えたようだ。安直故に分かりやすいその名は、すぐに〈MT〉を通して現場の隊員に知れ渡り、現在把握できている〈BB〉の機能を共有することができた。

 極めて設計上に難がある形状でありながら水陸両用とされ、コレを港まで運んできたタンカーにも同様に、組織の極秘技術の結晶たる複合ステルスシステム〈DEM〉を搭載しており、また組織の流用技術に違いない〈AE超酸〉によって消滅したようだった。

 おそらくも何も、注釈を入れるまでもなく、酒顛達には組織の裏切り者メギィドが関与していることは一目瞭然だった。

 それよりも彼らが身の毛を弥立たせたのは、その〈BB〉のうち、立方体(Cube)タイプが五〇台、直方体(Cuboid)タイプが一台あるという事実だった。直方体タイプは、バーグがつまらない復活劇の演出のために、棺代わりに乗り込んでいた物に違いない。それはまだエンパイア・ステート・ビルの屋上アンテナの根元に留まっていて動く気配がない。だが問題は、彼ら第一実行部隊を包囲するように散在し、マンハッタンの夜空をライトアップする照明然として動かないでいる直方体タイプの数が、情報の半数も足りていないことだった。

 直方体タイプに〈DEM〉が搭載されているのはすでに明らかで、立方体タイプが持ち合わせていない道理はなかった。

 マズいという直感がケンの身体を強張らせたとき、彼の鼓膜がアスファルトを滑りつつ風を切って迫る何かの気配を捉えた。翻す彼の身体に平たい何かが押し当てられた。見えず、臭わず、温度を感じぬが、事実そこにあるらしい立方体。〈DEM〉が万全に作動しているのは確かだ。もしも〈BB〉が飛行機能を有していれば、音を頼りに振り返ることもできなかっただろう。


「っんなろ!!」


 ケンは足を踏ん張って耐えると、〈BB〉の輪郭を思い出して指を這わせ、両側から抱えるように持ち上げて放り投げた。意外にも無抵抗な〈BB〉は地面に側面をぶつけて転がると、〈DEM〉の光学迷彩機能を失ってその全容を露にした。前面部らしい部位に赤い光を走らせるや、側面部がまさしく箱の蓋ように開いた。


「ぐっつつ、畜生めが」


 恨み言を垂れながら中から現れたのは、襤褸切れを纏ったようなみすぼらしい身なりの中年男だった。白髪交じりの髭は胸まで伸びきっており、まばらに禿げ上がった頭や虫歯交じりの乱杭歯(らんぐいば)からは腐臭が漂っているのが《超嗅覚》を有するケンには判った。

 舌打ちして、鼻の付け根にインプラントしてある鼻腔の調節器を閉じた彼は、男の虚ろな目と手に持ったスマートフォンが気になった。アルコールのニオイがしないから酔っぱらっているのではないとすぐに判ったし、スマートフォンなどはおそらくホームレスと思しきこの男には似つかわしくない物に思えた。

 何だコイツは。〈BB〉を操縦していたのか、こんなヤローが?

 ケンの訝る鋭い瞳は、スマートフォンのディスプレイを捉えると大きく見開かれた。


〈YURION-Children〉


 確かに白い背景に緑の蛍光色でそう表示されていた。

 想起されるのは、やはり春の暮れのこと。アフリカ大陸より西、北大西洋上の島嶼群の一つ、マデイラ諸島に属する無人島で行なわれた作戦である。

 あの日、自らの意志で入隊したばかりの誠を、単身敵地の中枢へ送り出したケン達は、並み居る雑兵を完膚なきまでに片づけて、彼の後を追いかけた。広々とした中枢区画はいくつもの爆発があったことを如実に表す廃れぶりで、それが無数のミサイルによってなされたことは残骸を見れば明らかだった。一際、一同の目を引いたのは、ジャンボジェット機が一機丸々収まってしまうほど巨大な半球状の大穴だった。

 隠し通路で見る影もない肉片と化したメギィドの遺体と横たわる誠の〈MT〉が、その巨大な穴の正体を映像としてしかと収めていた。彼はメギィドが、ともすれば〈ユリオン〉が立案、開発した巨大なロボット――曰く〈ユリオン・チルドレン〉と戦い、倒したのであった。〈チルドレン〉はその後、メギィドの命令によって〈AE超酸〉を起動させて消滅した。あの大穴はそのときにできたもののようだった。


「それが、こんな小型化しやがったってのか……」


 しかも今度は何だ。

 男がスマートフォンを横に向けて両手で持つ。それはさながらゲーム機のコントローラー。両の親指で画面を弾くと、〈BB〉が身体を起こして蓋を閉じ、獣のようにぶるりと身体を震わせた。

 リモートコントロールでノーマルにも扱えるって言うのかよ。


「ハンティングだ! この街も、コケにしてきた連中も、俺が全部狩ってやる!!」


 エンジンを吹かす〈BB〉。イノシシやサイが走り出す前にその場で足踏みをするように、球状のタイヤで弧を描くように後退しながら助走をつけると、ケンに向かって猪突猛進した。

 ふぅとケンは息を吐いた。右腕を腰だめに引き、腰を沈めた。目一杯〈BB〉を引き寄せ、固く握りしめた拳をすっと雑念なく突き出した。

 男は虚ろな目をそのままに、弾き飛ばされ宙を舞う〈BB〉を眺めた。それが遥か後方に落下するの見届けず、銀髪の青年に視線を戻すと、彼はすでに次のモーションに転じていた。目を固く瞑り、視覚とは別の感覚器官に意識を割いているような彼は、その場で飛び上がって右足を投げ出し、さらには左足を踵から振り上げていた。

 鈍い音が二度鳴って、さらに跳ねてぶつかる衝撃音が続くと、男の物とは別の〈BB〉が二台、ビルの壁や電柱に身体を預けて煙を上げていた。


「全部狩る、つったか?」


 詰め寄り胸倉を掴むケンの形相は酷く恐ろしいものだったが、男の目の色は依然として変わらず、ぼんやりと空を見つめるばかりだった。話にならねぇと彼を突き飛ばし、スマートフォンを踏み割ると、〈MT〉を起動させた。




 ぬぅんと〈BB〉を土俵から追い出すように放り投げる酒顛の耳に、ケンからの報告が届いていた。酒が欲しい、酒がなければ戦えないとアルコール中毒患者のような依存ぶりで頭を満たしつつ、「ノーマルが運転しているだけじゃなく、スマートフォンでリモートコントロールもできるだと? だとすれば、電波の中継地点は……」


『そうだ、エンパイア・ステート・ビルだ! しかも攻撃対象は俺達だけじゃねぇ、ビルの人質も含まれているかもしれねぇっ!』

「ビルに閉じ込められている人々は連中の人質だろう、それを殺す理由とは何だ! しかもビルから人質がいなくなれば、我々は容赦なくあのビルを破壊してでもアンテナを圧し折るぞ。いや待て、だとすればバーグの目的は何だ!? おいおい、ワケが分からなくなってきたぞ!?」

『んなもん今更だろうがよ! とにかく〈BB〉ってのを止めねぇとシャレにならねぇっ!』


 ビルを振り仰ぐ酒顛よりも一足先に、ウヌバが駆け出していた。彼は路上のマンホールを、炎を帯びた拳で殴り熔かすと、炎を消したその手の平を穴に向けた。指先から生じた氷柱が地下まで一息に伸び、下水まで到達した。途端、ビルへの道すがらにあるマンホールの蓋の悉くが垂直に跳ね、同時に氷の柱が天へと伸びた。柱はやがて互いに結びつき、ビルへと続く長い階段を形成した。

 ウヌバはすかさず踏み乗ったが、頑丈に見えた柱が早速折れてしまった。目を凝らすと、三台の〈BB〉が柱に体当たりしているのが分かった。

 くっと珍しく苦い表情を浮かべた彼の進路上に、隻眼のジオが行く手を阻まんと降り立った。


「一番の獲物がオーナーに取られてしまってな。だが、より取り見取り……」


 雷槍〈ケラウノス〉の先端をウヌバに向け、「神の名を懸けて争うのも一興だな」雷霆(フルミニス)が放たれる。ウヌバは氷の壁を生成して凌ぎつつ、ジオの足元を炎で焼き熔かした。

 ジオは難なく回避し、すかさず帯電した〈ケラウノス〉をウヌバに振り下ろした。ウヌバは咄嗟に炎の鎧を纏い、ジオに攻撃の手を緩めさせた。飛び退くジオだったが、着地の瞬間に膝から崩れ落ちた。アスファルトを濡らす赤い雫が自らの口から垂れていることに気付くと、先の誠から受けた一撃を思い出した。いくら痛み知らずのタフネスと言えども、もう身体の節々は限界に近いようだった。


「終わらせてたまるか。こんなに血沸き肉躍る連中、そうそう巡り合えるものではない!!」


 ウヌバに対抗したか、雷光鮮やかな鎧を纏ったジオは、先程やってのけた超音速のさらに先、亜光速に肉体を乗せんと意識を研ぎ澄ました。

 アレはいかんと、酒顛は右の手の平に走った痛みに唇を噛んだ。センス《鬼変化》の効力もあって硬貨ほどの大きさの傷で済んでいるが、身体の芯で直撃を食らえば即死は必至だった。

 早く酒を飲まねば! 酒くらいどこかに転がってないのか!?


「はいっ、コレあげる!」


 日本酒などとワガママは言うまい。せめて瓶ビール、安い缶でもいいからアルコールさえあればと地べたを舐めるように探している酒顛の背後からそんな声がした。

 振り返ると、銀色の四角い容器が飛来してきた。慌てて受け止めたそれはステンレス製のスキットルだった。中身はウィスキー、うおおと感激する彼を尻目に突風が駆け抜けていった。

 行くぞとジオは一歩踏み出そうとした。寸前、向かい合う両者の間に、何か巨大な物が割って入った。飛び退くウヌバに対し、ジオの攻撃目標は“何か”に移行していた。

 〈ケラウノス〉とそれが接触した瞬間、大きな爆発が起きた。ジオの目が捉えたのは、車体前部が弾け飛んだオートバイだった。次いで目の端に赤い光が閃かなければ、彼の首は容易く刎ねられているところだった。

 女は舌打ちすると、すぐに間合いから両者の間合いから離脱した。爆煙を隠れ蓑に二刀を抜刀し、ハサミのように交差させて男の首をちょん切ってやろうかと思ったのだが手応えがなかったのである。


「いつぞやのサムライ女か。こうして(まみ)える日を心待ちにしていたぞ」

「ったく、モテるってホント罪よね。変なのまで相手にしなきゃなんない」


 煙が晴れて、〈BB〉からスポットライトが注がれる。ビルの谷間を吹き荒ぶ風が彼女の一房の長い髪の毛を弄んだ。両手には湯気を立ち昇らせる赤い刀、腰には同色の鞘、戦闘服も返り血ですっかり汚れている。


「待たせたわね、みんな。ヒロインの参上だずお、おおっ!?」


 ここへ来るまでに練りに練ってきた決めポーズで振り返らんと靴を鳴らした途端、氷に滑って後頭部を強打してしまった。うごおおっと悶絶躃地(もんぜつびゃくじ)の有様で頭を押さえる彼女に、「エリ!」とウヌバが叫んだ。

 氷の階段が音を立てて弾け飛ぶ。エリ・シーグル・アタミは通りに着地して、「やぁーん、レディーの寝込みを襲うなんて無粋にもほどがあるんじゃなーい?」彼女は愛刀〈紅炎双爪〉でジオの〈ケラウノス〉を受け止めていた。


「つい魅力的だったものでなぁ」

「言うじゃない、惚れちゃったらどーすんっ、のっ!」


 〈ケラウノス〉を弾き返し、左刀を突き出した。切っ先が電磁障壁に封じられるも、すかさず右刀をジオの左脇腹に滑り込ませた。それも防がれるのは折り込み済みか、エリは唐竹に左切り上げ、逆袈裟に右薙ぎ、逆風に刺突と、刀を両手然として扱い、ジオに対して留まることない連撃を加えた。

 それは彼女の流派〈清芽流〉の神髄――“受け太刀要らず”。敵に反撃と回避の隙を与えぬ連続攻撃を繰り出し、疲弊したところに決定打を打ち込むという、非常に攻撃的な剣術思想に基づいている。

 十代後半で免許皆伝を得た彼女は、師たる清芽ミノルから兵站部が新規開発した刀〈紅炎双爪〉を授けられた。それは加速度に比例して高熱を持ち、金属さえも豆腐のように溶断できるまさしく炎の剣である。コレを手にした彼女は、戦場では“受け太刀要らず”どころか示現流のような“二の太刀要らず”さながら、たったの一太刀であらゆる敵を両断してきた。

 しかし組織の反逆者メギィドから流出したであろう特殊合金がREWBSに蔓延している昨今、彼女は図らずも受け太刀を取らされ、攻めに転じるや流派の神髄を披露せざるを得なくなっていた。“形を成した紅炎(プロミネンス)”と形容されるこの刀も、世界最高硬度の合金〈オリハルコン〉だけは断ち切れなかった。

 ジオの持つ〈ケラウノス〉もその漏洩技術の一つだろう。〈オリハルコン〉を改良し、帯電性能を向上させている。二つの金属が触れ合うたびに小さな爆発と金属音が鼓膜を潰しにかかってくるが、エリは決して臆さず、動揺せず、それどころか心を無へと移行させて、ただただひたすらに絶好の機会を窺いながら刀を振るうだけの何かとなっていた。

 防戦一方のジオは、彼女の眼光とかち合うや動きを抑制されるのを実感した。気迫ではない、センスでもない、彼女が体得した何らかの術だと直感した矢先、足を払われてしまった。

 ジオの直感は正しい。エリは間違いなく術と呼ばれるものの類を行使した。これはある剣術流派では“(しん)の一法”と奥伝され、武術の界隈では“プレッシャー”と広義で解釈されている。〈清芽流〉では〈(ふるわず)の太刀・心食(うらはみ)〉として伝えられ、やはり相手の動きを瞬間的に封じる術技である。

 〈心食〉により文字どおり心を食われ虚を突かれたジオは横転した。受け身を取ろうと地面に手を突くが、エリの刀がその手を串刺しにした。見開かれた彼女の瞳が、リーダーの仕返しだと言わんばかりに殺意を乗せて色めき立っていた。

 右の手の平を貫き、アスファルトまで熔かし刺す彼女の左刀に不自然な力が加わった。見れば、彼女の右刀があらぬ方向に振り抜かれていたのだ。

 彼女のセンス《サーマル・センサー》はあらゆる熱量を視覚的に、あるいは脳裏に熱分布として認識できる。しかし万物が有するはずの熱を周囲のそれと同化させ、景色の一部と誤認させることができる〈DEM〉に対しては無力も同然である。だと言うのに、エリは右後背から飛来してきた〈BB〉を右刀で受け止め、ぐいと押し返していた。

 偶然の一言では片付けられないとするならば、彼女の剣客としての類稀なる才覚と、煩悩なき極限まで研ぎ澄まされた直感が、かつて対峙し、一敗地に塗れることとなったレーン・オーランドさながらの超人的な危機察知能力を有したのであろうと言うほかに説明がつかなかった。

 弾き飛ばされた〈BB〉の〈DEM〉が機能不全を起こしてその正体を闇に現した。それを視認するや、四方からの脅威を察したエリは、ジオの右手を切り落としながら左刀を地面から抜き――「〈(むつ)の太刀・狂裂(くるいざき)〉」

 目にも留まらぬ早業だった。傍目から見れば気の狂った女が、二振りの刀を振り回して暴れているだけのように見えただろう。しかし彼女は理路整然とした確かな意図をもって刀を振り、薙ぎ、振り上げては下していた。四台の〈BB〉が彼女によって打ちのめされていた。刀身の赤い残像が突如戦場に咲いた一輪の花のように見えた。

 ジオは嫉妬し、己を恥じ、また悔いた。強さを求め、その先の快楽に浸るあまり、師を持つという思考が頭に全くと言っていいほど過らなかった。戦ってきた者の中には、彼女がそうだったように、我流を窘める者もいた。強さを認めて師を買って出る者も少なからずいた。それなのに弱者の命乞いだと、弱者の技術などあってないようなものと一蹴してきてしまった。

 確かな技術を持つ者は強い。このままでは勝てない。

 動かざる事実を突きつけられた。親指以外を切り落とされた右手を見て、ジオは激しい怒りに蝕まれた。

 彼は吠えた。負け犬の遠吠えに他ならなかったが、彼が輻射した稲光は禍々しい色を帯びていた。腕で遮光するエリの瞳は、彼の背後に迫り来る眼光閃く巨大な鬼の姿を捉えていた。




 バーグは闘牛士の気分を味わっていた。

 《韋駄天》により超音速の脚力を得た誠が突進してくる。刃のない剣〈エッジレス〉を振るう彼のルビー色の瞳はバーグしか映っていない。バーグはそんな彼の愚直にも等しい直線的な軌道に対して、さらりと横に回避するだけでよかった。

 しかし誠も馬鹿ではない。バーグに肉薄した際に“溜め”を作って、追い縋らんと軌道を変えたりもした。音速を越えた一秒にも満たない時間、人の反応限界速度が〇・二秒とされる中、両者はそれよりもさらに短い時間を知覚し、肉体もそれに対応していた。それでもどこかバーグのほうが一足早く判断し、まるで先読みでもしているような反射神経を披露していた。

 《念動力》による不可視のバリアーが、バーグに傷一つ与えさせていなかった。

 着地と同時に、バーグは顔を上げた。建物の奥のテレビが目に入った。しかし電源は入っているものの、画面は黒を映して微動だにしていなかった。〈ユリオン〉ウィルスによってインターネット・スペースと人工衛星空間は、マザー・コンピューターである〈ユリオン〉の完全なる支配下にある。つまり電波放送をはじめとしたデジタル・メディアは掌握できており、有線式のテレビでもコンセントが入っていればその支配からは逃れられず、〈ユリオン・チルドレン〉が撮影した映像を放送することを強いられるはずだ。

 それを誰かが食い止めたらしい。


「《ギフテッド》も善し悪しだな。しかし、映像だけがメディアの全てではない」


 〈エッジレス〉が矢のように飛来した。バーグは《念動力》でそれを食い止め、柄を握った。腰を捻り、幅広の刀身を盾代わりに身体の前に構え、誠の強烈な踵蹴りを受け止めた。

 もう誠に武器はない。ビルの屋上でも一振りを今のような囮に使い、もう一振りはこうしてバーグの手の内にある。


「どうして彼女(ツバキ)を巻き込んだ、バーグ!!」


 耳を劈く誠の声に嫌悪感を示しながら、バーグは口角を上げて答えた。


「そうすれば貴様が悶え苦しむからだ」

「オレがお前に何をした!? 記憶がほとんど戻ってきているから解る! オレがお前と逢ったのはあのときが初めてだ! 他人から恨みを買われるようなことをしてきた覚えはない!!」

「過去から怨恨を育むのはノーマルのすることだ。私の目は、意識は、常に未来へ向けられている」

「未来、だと……?」

「当時にとっての未来はここだ。私はノーマルの産んだ機械文明が〈ユリオン〉に支配されるこの“終末の日”に貴様を殺し、組織を破滅へ追い込むこの刻を切望していた。万物を混沌の渦の底へ引き摺り落とす、真実という名の坩堝にな!!」


 〈エッジレス〉を構えて挑んでくるバーグ。誠の足は余裕をもってそれを回避した。しかし、喉にバールのような物が押し当てられた。宙に浮くそれは誠を壁まで追いやると、彼の首を守る戦闘服を、〈アイギス・スーツ〉をも破り、皮膚さえ貫通した。

 喉に巨大な杭を打ち込まれた格好の誠は、磔さながらの格好で血反吐を撒き散らした。


「この劇場の悪役(ヒール)を務めるのが、忌まわしき英雄の力を持つ貴様の役割だ! 組織を敵と認識した観衆(オーディエンス)万雷の拍手スタンディング・オベーションで我々REWBSを出迎える! そしてエピローグは客席の数だけ建てられた墓標を映し、|めでたしめでたし《Happily ever after》――だ!!」


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